スマホの先の新市場を創出するウエアラブルコンピューター - 日本経済新聞
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スマホの先の新市場を創出するウエアラブルコンピューター

UIEvolution 中島 聡

スマートフォン(スマホ)やタブレットに続く次世代デバイスとして「ウエアラブルコンピューター」が注目を集めている。ウエアラブルコンピューターとは、めがね型情報機器「グーグル・グラス」のように体に身に着けるタイプのコンピューターデバイスのこと。必要なときにポケットやかばんから取り出して使うスマホとは、使い方や目的が根本的に異なる。このため、まだ存在しない新しい市場が登場する原動力として期待が高まっている。

常時身に着けることで新しい使い方を創造

米グーグル社が先週に開催した開発者会議「グーグルI/O」で、めがね型情報機器「グーグル・グラス」向けのアプリケーションがいくつか発表された。例えば、フェイスブックやツイッター、エバーノートといったスマホでも一般的なアプリが登場している。こうしたアプリの名前だけを見ていると、単に身に着けていつでも使えるようになっただけのようなイメージを受ける。だが、それではウエアラブルコンピューターの将来性を見誤る。

たとえば、常時身に付けていることで、体の動き、脳波の変化、体温、心拍数、血圧、血糖値、汗などのバイタルサインに関連する情報を各種センサーで測定して記録できる。外界の音や映像を記録して、装着している人の経験を記録することも可能だ。また、目の前に情報を表示したり、音声や振動で情報を伝えたりすることもできる。そして、こうしたウエアラブルコンピューターの特徴を生かした新デバイスが登場してきている。

新しい映像を記録できるウエアラブルカメラ

実際の市場で好調な立ち上がりを見せているウエアラブルコンピューターは、スポーツマン向けの「ウエアラブルカメラ」と、歩数計を進化させた「アクティビティーモニター」の2種類だ。

前者のウエアラブルカメラは、サーファーやスノーボーダーなどを対象にした「GoPro(ゴープロ)」が圧倒的に強い。ゴープロはヘルメットや自転車などに固定して、スポーツや探検の映像を撮影できるようにしたカメラである。

サーフィンやモータースポーツ、スキー、自転車といったスポーツの映像について、参加するプレーヤーの視点から生々しい映像で記録できる。また、ワニやサメ、ホッキョクグマの口の中を撮影するのにも使用するなど、カメラの可能性を大幅に広げている。

 スマホの急速な普及でコンパクトデジカメ市場が急速に勢いを失う中で、このゴープロがコンパクトデジカメ市場の30%のシェアを獲得したことは注目に値する。ターゲット層を絞り必要な機能のみに厳選して搭載したことと、フェイスブックなどの交流サイト(SNS)を通した口コミと、スポーツ用品店を通した小売り戦略が成功の原因とみられる。

健康器具分野で新製品が大人気

もう1つのアクティビティーモニターの市場は、ランニングの情報を記録する「Nike+(ナイキプラス)」 が開拓したといってよい。これは、スポーツバンドや腕時計などの形の製品で、身に着けてランニングすると、時間や走行ルートなどのデータを記録してくれる。記録したデータは、後から履歴を表示したり、交流サイト(SNS)やウェブサイトと連携してデータを公開したりできることで人気を集めた。

そして現時点のアクティビティーモニター市場をリードしているのは、「Jawbone(ジョウボーン)UP」と「Fitbit(フィットビット)」の2つである。これらは、リストバンドや歩数計の形になっており、体に装着して、歩いた歩数や距離、消費カロリー、睡眠時間といった情報を24時間ずっと記録する。

ナイキプラスが本格的にランニングをする人達をターゲットとしていたのと比べ、ジョウボーンUPとフィットビットは、普通の人たちが運動不足を解消するための健康管理デバイスというポジショニングで成功している。いずれも、スマホのアプリやウェブサイトとの連携で付加価値を高めている点が従来型の歩数計との大きな違いで、1万円前後という高価格帯にもかかわらず、売り切れが続出するほどの人気を集めている。

米ジョウボーン社はもともとiPhone向けのアクセサリーを売っていた会社である。だが、ジョウボーンUPの成功後に、ボティーメディアという健康モニターデバイスの会社を買収し、いよいよ健康管理のためのウエアラブルコンピューター市場に本腰を入れ始めた。

 ウエアラブルコンピューターを利用するのはコンシューマーだけではない。警察・消防・軍隊におけるハンズフリーコミュニケーション、顧客とのアイコンタクトが重要なホテルや遊園地などでのホスピタリティービジネスにおける顧客サービスの向上、整備士・クレーン技師・外科医の視覚補助、などビジネス分野への応用について開発も盛んになってきている。スマホでは、「遊び」でしかなかった仮想現実(AR)も、ウエアラブルコンピューターなら実用化の段階に入るだろう。

広大な新市場が登場する可能性も

まだまだ立ち上がり始めたばかりのウエアラブルコンピューター市場だが、これからは、ゴープロやジョウボーンUPのような特定ニーズに絞ったデバイスと、グーグル・グラスのような汎用デバイスとが、お互いに影響を与えながら市場そのものを大きくしていくフェーズに入ったといえる。

スマホの形状はiPhoneが作った基本形を踏襲しており、どれも非常に似ている。だが、ウエアラブルコンピュータはさまざまな形状がある。「ドラゴンボール」で目の部分に着けて透過型で情報を表示する「スカウター」状のもの(グーグル・グラスが相当)や、ヘルメット、ゴーグル、ヘッドホン、イヤリング、リストバンド、指輪、ネックレス、ベスト、下着など、どのデータを収集し、装着者にどんな情報を伝えるかによって適切な形は大きく変わる。

つまり、ウエアラブルコンピューターは目的に適した形に特化するケースが多いということだ。このため、専用ワープロがパソコンに淘汰されたような「汎用化」が起こりにくい。腕に装着して体の動きや心拍数を測定する「アクティビティーモニター」がスカウター型の汎用デバイスに淘汰されるとは限らず、1強のような状態にはなりづらく、多様なベンダーが活躍する可能性が高いだろう。

ウエアラブルコンピューターそのものでは、データの処理能力は高くない。そのため、市場で勝ち抜いていくための競争力としては、データを活用するバックエンドのソフトウエアやウェブサービスが、これまで以上に重要になる。日本のメーカーはそれこそ会社のビジョンをゼロから作り直して再スタートするぐらいの覚悟でのぞむ必要があるだろう。

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