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「このままではミクシィは生き残れない」朝倉・次期社長が独白

 交流サイト(SNS)大手ミクシィが15日、突然のトップ交代を発表した。創業者で最大株主の笠原健治社長(37)が6月25日付で会長に退き、新社長に30歳の朝倉祐介執行役員が就く。ネット業界の中でも異例の速さで世代交代を図る狙いは、停滞する同社がもう一度ベンチャー精神を取り戻し、次の成長に向けて前進するため。ネット起業家の当たり年とされた76世代(1976年前後の生まれ)の笠原氏から、次の当たり年とされる82世代(1982年前後の生まれ)の朝倉氏へ――。新社長が舵取りするミクシィはどこへ向かうのか。社長交代の舞台裏や、10年後の会社の姿、今後手掛ける大胆改革の中身など、朝倉氏がインタビューで語った。

mixiを愛しすぎた社員たち

朝倉 祐介氏(あさくら・ゆうすけ)07年(平19年)東大法卒、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン入社。10年ネイキッドテクノロジー社長。11年ミクシィ入社、12年から現職。兵庫県出身。趣味は乗馬。最近乗馬クラブに入会し、騎手を目指していた10代のころの感覚を取り戻すことに夢中になっている。キング・ブラザーズやサカナクションなど日本人ロックバンドの音楽を愛し、ライブにもよく足を運ぶ

――今のミクシィはどんな問題を抱えているのか。

「2011年に入社した際、正直言って社内が停滞しているなぁと感じた。決して社員が怠けていたわけではない。ただみんな心底から交流サイト(SNS)の『mixi』を愛していて、ただ好きすぎるがゆえに新しいことにチャレンジすることをためらってしまう。そんな空気がベンチャー企業の勢いをそぎ、このままではダメになると思った。SNS事業が成功したばかりに、経営全体の健全性が失われてしまったのだ」

「象徴的なのは営業利益の内訳だ。約3分の1を求人情報サイトの『ファインドジョブ!』から稼いでいる今のミクシィの内情。連結で約500人の社員の大半は看板事業のSNSに携わるが、収益的にはわずか15人程度のファインドジョブ!に大きく依存している。これはおかしい」

「mixiは現社長の笠原が時代を先取りしたからこそ生まれ、そして成功を収めた。3年も続けば『オワコン』(終わったコンテンツ)だと皮肉られるネット業界において、10年近くも消費者から支持されたmixiはとても幸運だったと思う。素晴らしいことだ」

 「ただ次の10年も今の形のままならミクシィという会社は生き残れない。消費者がネットにつなぐ機器の主役はmixiが得意としていたパソコンからスマートフォン(スマホ)に移った。言うまでもなくこの事実は消費者のネット利用の仕方を変え、これまでとは桁違いの規模で各サービスへの流出や流入を引き起こしている。過去の成功体験を捨て、かつて盤石だったミクシィのビジネスモデルを変えなければならない。ミクシィは今、第2の創業期として再びベンチャー精神を取り戻す必要がある。10年、20年、さらに30年と生き残っていくために」

SNSだけが強い会社ではもうダメ

10年以上創業社長として腕を振るってきた笠原健治社長(左)は会長に就き、今後は新規事業を立ち上げる役割を担うことになる

――では、どう経営をかじ取りしていくのか。

「いつまでもSNSだけの会社ではいけないと思っている。15日の決算説明会で話したとおり3つを柱に据えて改革を推進していく。第1に社外との取引を活発化させ売り上げを拡大するべく手を打つ。受け皿となる戦略子会社ミクシィマーケティングをまず設立する。第2に50億円規模の運用資金を持つ投資子会社を設立する。オンラインだけでなくオフライン事業まで視野を広げて投資し、株を長期保有したうえでミクシィ本体との相乗効果も高める。第3は社内の若手社員に事業立ち上げのチャンスを与え、斬新な新規事業を社内から創出しやすくする」

「その結果としてmixiとは切り離して、SNS事業に肩を並べる規模で売り上げや利益を上げられる第3や第4の事業を作り出す。ミクシィがこれまでに蓄えたノウハウや技術、キャッシュを有効活用すれば難しくないはずだ」

「幸いミクシィには極めて優秀な人材がそろっている。昨年導入した『ユニット制』は、人材を活用しきれていないもったいない状況を変えようと思い、私が提案した。mixiのメニューごとに数人から数十人のユニットと呼ぶ小集団に組織を分ける試みは、すぐに成果を上げた。ユニットの責任者をプロダクト・オーナーと命名し意思決定や予算編成などの権限を現場に委譲したところ、みるみるうちにサービスの質が向上し社内は活気を取り戻した。改善のスピードは以前の2.5倍に向上。中には新卒入社から2年目でプロダクト・オーナーとして腕を振るう例も出てきた」

 「今後はこの勢いをもっと高め、mixiに負けない優れた事業のアイデアが若い社員から続々と生まれてくると信じている。肝心なのはどれだけ"外貨"を獲得できるか、だ。新規事業を立ち上げる際には、SNSという既存事業による内需に頼らないアイデアかどうか、どれだけ新しい売り上げや利益を生み出せるかどうかで判断を下す」

目指すは「リクルート」流

「ギラギラした設立当初のミクシィを取り戻す」。15日の決算説明会の席上、新社長になる朝倉祐介執行役員はこれからのミクシィについて熱弁をふるった

――改革を果たした先に、ミクシィはどんな会社に変わると思い描いている?

「イメージとしては、リクルートホールディングスやGMOインターネットのような企業グループを形作ると言えば分かりやすいだろう。5年後までに、巨大な収益を生み出せる部門を社内や子会社で多数抱えたい。もちろんその一つがmixiであることは間違いなく、スマホ時代に合致した新しいSNSとして生まれ変わらせ成長させる。ただSNS以外のサービスも消費者の間でよく知られよく使われる状態に持っていく」

「個人的に最も尊敬している経営者はリクルートを創業した江副浩正氏だ。リクルートの昔の社是は『自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ』。これを地でいく改革をミクシィで実行していく」

「スマホ時代に合わせていち早く経営のかじを切ることができたネット企業としてサイバーエージェントがある。社員が互いに鍛え合って次々と新規事業を生み出す社風はリクルートに通じる。ミクシィが今後のSNS事業で目指す姿は近いかもしれない」

「ただ会社全体として目指す方向は少し異なってくるだろう。藤田晋社長は常々ブログなど『アメーバ』を中核としたメディア企業を目指すと発言している。一方ミクシィはSNSのメディア価値をもちろん高めていくが、利用者が喜んで料金を支払ってくれる課金型のサービスをたくさん抱えていく」

「SNS上のバナーなどのスマホ広告は堅調に伸びているが、残念ながらパソコンや従来型携帯電話向けが好調だったころの売り上げ規模へ達するには相当時間がかかるとみている。それまで指をくわえて待つわけにはいかない。ソーシャルゲーム会社のように極端に課金に依存はせず、広告と課金からバランス良く収益を上げることが重要だ」

――米フェイスブックなど海外勢が国内でも支持を高めている。どう戦うか。

「グローバルで展開し数億人の利用者を顧客として抱える彼らはたんまり資本調達ができ、人材や開発にかけられるリソースの規模があまりにも違いすぎる。国内だけでサービスをしてきた今のミクシィのままでは、消耗戦に持ち込まれれば負けるだけだ。過去の経緯はさておき、これからのミクシィは東南アジアなど海外へも積極的に打って出る。いずれ第3、第4のフェイスブックが登場し日本へやってくるだろうが、それまでに物量面で負けないだけの力をいまから蓄えておく」

海外へも積極的に打って出る

9日に課金による収益拡大の一端を担うスマートフォン向け交流ゲームを一新。ディー・エヌ・エー(DeNA)との提携で実現した

「スマホ革命によってアプリ(応用ソフト)が国境を超えて流通しやすくなり、国内市場に攻め込まれるリスクが高まった。一方で海外に打って出るチャンスも広がっている。目の肥えた日本人の消費者にまず鍛えてもらい、最終的に海外へ持ち出す前提でサービスを作ることだってできる。経済成長が著しい東南アジアが有望な市場であることは自明だ。ただ短期間でヒットさせられるほど甘くはない。3年でも5年でも、大化けするまで現地に根を張って浸透させていく覚悟が必要になるだろう」

「他方、海外のネットのノウハウを積極的に吸収することもしっかりやっていきたい。既に11年に米国に投資子会社を設立しており、現地社員がシリコンバレーの人脈に深く食い込んで一定の成果を上げ始めている。最新のネット技術を時差なく日本へ輸入し、国産サービスに磨きをかけていく」

――若くして社長のバトンを受けた。

「まず30歳と社長としては若過ぎるように感じる人がいるかもしれない。手前味噌だが、この年齢にしては人並み以上に経営の現場を踏み、実績を積み上げてきた自負がある。自身が学生時代に立ち上げたベンチャー企業では、時に心底しんどい日々も経験し、たくさんのことを学んだ。またコンサルタント会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンの時代には、小売業や家電メーカー、製薬会社と幅広く大手企業の経営について指南する役割を担った。プロとしてダメなものはダメだと進言して改革を進めるには、自分の若さや年齢と関係なくリーダーシップを発揮しなければならなかった」

 「こうした経験は、ミクシィが置かれている現状、具体的には大胆な改革が求められている局面にぴったり役立つと信じている。企業の成長ステージに応じて求められる経営者は変わる。大航海時代には冒険家タイプの人間がまず新天地を目指し、その後地に足を付けて根を下ろすことを得意とする第2世代が入植して文明を反映させた。私は間違いなく第2世代のタイプの人間だ」

「実は私のような1982年前後に生まれた世代の経営者は、まじめだけが取りえの傾向が強いように感じる。笠原やグリーの田中良和社長ら1976年前後に生まれた経営者は、ネットバブルのまっただ中に身を置いて潤沢な資金を携えて事業を立ち上げた。一方"82世代"は学生時代にネットバブルが崩壊し、社会に出たときにはネット業界は不況に陥っていた。スポーツカーに乗ったり西麻布で夜遊びしたりするより、まずはまじめに頑張らないといけないという意識がすり込まれている。このまじめさが改革を断行する第2の創業期には重要になってくるように思う」

「笠原院政」は絶対にない

――社長交代が唐突だった印象があるが、舞台裏はどうだったのか。

「昨年の早い段階から経営チームは、ミクシィの成長プランとそのために必要な経営体制について念入りに検討してきた。急に決めた話ではない。2011年にミクシィに買収された会社の元社長という立場だった私も7月に執行役員になり、今後のミクシィをどうしていくべきか私案を提示した」

「さまざまな中から私のアイデア『ユーザーファースト』『ユニット制』という二つの取り組みが実行に移され、一定の成果を上げることができた。経営チームの間で信頼が得られたのが大きかったのではないか。何か決定的にバトンタッチが決まった"事件"があったわけではない」

新社長に就く朝倉氏(中央)を中核として、新経営体制を担う「五人組」。第2の創業期として、永久に改革を続けることができる骨太な企業を目指す

「社長が代わっても、大株主の笠原による"院政"になるのではという声が耳に入っているが、それは絶対にない。たとえ笠原と意見が対立しても自分の信念を信じて突き進む覚悟があるし、それでいいというのが笠原を含む経営チームの共通理解だ。幸い笠原らとこれまで会社のゴールやアプローチについて徹底的に話し合ってきたなかで、大きな意見対立はない。お互いに目指すゴールは一致しており、それに向かってこれから進むだけだ。不安はない」

「決算説明会で発表した新しい経営体制は、これからのミクシィが時代の変化を捉えて局面ごとに永久に改革し続けられる企業に脱皮するための最強の布陣だ。その中で笠原は取締役会長として、新規事業を立ち上げる役割を担うことになる。私は1を10や100にするためには本領発揮できるが、0から1を作り出すのは得意ではない。天才的な起業家としての感性を持つ笠原が、1を生み出すことに専念してもらえるのは大変心強い」

――異色の経歴を持つ。いつ経営者の道を目指したのか。

「順を追って説明すると中学卒業後、競馬の騎手になるという夢を描いていた。自分の腕一つで世界中を渡り歩いて戦って食べていくサムライのような姿にあこがれたためだ。そこでオーストラリアで養成学校に進んだところまではよかったのだが、身長がぐんぐん伸びてしまい175センチメートルになってしまった。騎手の基準である体重48キログラムに抑えるには体脂肪率を3%に抑えなければならない。これは無理だと思って夢をあきらめた」

やらなかったことを20年後に後悔しないために

米国の作家マーク・トウェインの言葉が座右の銘。携帯電話の待ち受け画面に設定して、日々肝に銘じているという

「その後北海道に渡り、競走馬の調教に携わろうと牧場で働き始めた。すると今度は事故に。左足の太ももを交通事故で粉砕骨折してしまい、リハビリでしばらく仕事ができなくなってしまった。それが転機になった。自分は手に職がない中卒で、大きなケガを次にしたらどうやって食べていけばいいのか。その不安から、一念発起して大学受験を目指すべきだと決断。大学入学資格検定(大検)を取得するための専門学校に入学し、3年間ひたすら勉強の毎日を送った。勉強すればするほど成績が上がっていくのが面白くてたまらなかったのは懐かしい思い出だ」

「こうして合格した東大ではまじめに勉強に取り組んだ方だと思う。当時、笠原のような先輩の影響もあり、学内ではベンチャー起業が盛り上がっており、ご多分に漏れず私も進学塾などいくつかの新規事業を立ち上げるのに携わった。11年にミクシィに売却したネイキッドテクノロジーはその一つだった」

――自分自身をどう分析しているか。

「ずけずけとはっきりをものをいうのでエキセントリックな人間だとよく言われる。ただ本質は決してそんなことはないと思う。『ちゃんとしなければならないこと』をきっちりやりたい性分なだけ。大学受験も学生時代の起業もコンサル会社での取り組みもすべて同じ。今のミクシィは、人材もキャッシュもあり成長のポテンシャルも秘めているのに、それができてないのはちょっと許せないと感じてしまう。だからちゃんとしたいだけだ」

「座右の銘は『20年後、あなたはやったことよりやらなかったことに失望する』。米国の作家マーク・トウェインの言葉で、携帯電話の待ち受け画面にして時々目にして心に刻み込んでいる。ネットサービスは秒速で変化が訪れる足の速い業界だからこそ、私はプロの経営者として10年単位の企業の成長を常に考えて決断を下したい。20年後の自分に失望しないために。とにかくミクシィはこれから大きく変わる。ぜひ新しい私たちに大いに期待してほしい」

(電子報道部 高田学也)

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