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アンジェリーナ・ジョリーが受けた乳房切除とは

米国の人気女優、アンジェリーナ・ジョリーさん(37)が14日、ニューヨーク・タイムズに寄せた「将来の乳がん予防のための乳房切除」の告白が論議を呼んでいる。勇気を称える声がある一方、不用意な乳房切除を促してしまうと危惧する声もある。本人は「(乳がん対策の)選択肢のひとつ」とし、執刀医も「すべての女性に正しい選択とは限らない」と強調しているが、メリハリの効いたボディーも憧れの的だったジョリーさんだけに、"余波"は当面静まりそうにない。

両乳房の切除手術を受けたと告白した女優のアンジェリーナ・ジョリーさん(4月、ロンドンで主要国外相会合に参加したときの姿)=ロイター

乳房切除と聞くと衝撃的だが、実は小さな傷がある以外、見た目は手術前と変わらない。ジョリーさんも「女性らしさを少しも損なったと感じない」とニューヨーク・タイムズへの寄稿で書いている。

ジョリーさんが手術を受けたカルフォルニア州ビバリーヒルズの「Pink Lotus Breast Center」が詳細を公開している。

2月2日 乳首と乳輪の下の組織を取り出し、病巣がないか検査。ジョリーさんの場合、病巣はなく、乳首と乳輪がきれいに保存できることが判明

2月16日 約8時間かけて、皮膚は保存し、乳房の中身を切除。仮の詰め物をした。乳房再建は形成外科医が担当

3月4日 手術直後は「SF映画のシーンみたいな気がした」というほど、たくさんのチューブにつながれたジョリーさんが最後の術後処置を終え、いつもの精力的な生活に復帰

4月27日 インプラントを詰め込み、乳房再建手術完了

病院の発表は「A Patient's Journey」(患者の旅)と題されていたが、約3カ月もかかる長旅だったわけだ。乳房の組織を取り出すのに、バストのトップ周辺など何カ所か切開する場所の選択肢があるなかで、ジョリーさんはもっとも目立たない胸の下を選んだという。

すべての手術にパートナーの俳優、ブラッド・ピットさんが付き添った。術後4日目、ジョリーさんはチューブだらけの体で、病室に次の映画のストーリーボードを壁に貼りだし、仕事に取りかかっていたという。

米疾病対策センター(CDC)によると、米国女性が罹患しやすいがんの2番目が乳がんだ。ヒスパニック系女性ではがんによる死因のなかの第1位である。食生活など、いろいろ要因は言われているが、最近注目されているのが、乳がん、卵巣がんを引き起こす遺伝子の存在だ。

BRCA(Breast Cancerの略)という、通常はがんと闘う遺伝子がある。これが変異するなどしてできたBRCA1、BRCA2という遺伝子を代々受け継ぐ系統があり、スタンフォード大によると、BRCA1を持つ女性の65%が乳がんに、39%が卵巣がんになる可能性があり、BRCA2はそれぞれ45%、11%の可能性があるという。

ちなみに男性は乳房が女性より小さいため可能性は低いものの、乳がんになる可能性はある。乳がんについての啓蒙をしている「Pink Ribbon」によると、罹患する可能性は女性の100分の1で、60~70代が中心だ。

変形遺伝子の有無については、50歳までに乳がんになったことがある女性、50歳前に乳がんにかかった人を近い親類に持つ人は検査を受けた方がいいとされる。

ジョリーさんの場合、母親が乳がんにかかり、10年近くに及ぶ闘病生活を送った。卵巣がんも併発し、07年、56歳で亡くなった。母方の祖母も40代で卵巣がんで亡くなっている。ジョリーさんの寄稿によれば、変形BRCAが発見され、将来乳がんになる可能性は87%、卵巣がんは50%以上とされた。そこでまず確率が高い乳がんの対策を選択したという。

しかし、ジョリーさんのような高い確率でがんの発生が予見されるケースはかなり珍しいといわれる。

ニューヨークタイムズによると、米国の白人女性の乳がん患者のなかで、変形BRCAが原因のケースは5~10%、卵巣がんでは10~15%。

変形BRCA保有者の30%が乳房切除を選ぶともいうが、多くの医師が正面切っては推奨していない。

最近、変形BRCA保有者でもない人が手術を受けたり、病巣の摘出だけで済むがんの初期段階で乳房全体を予防的処置として切除したり、どちらかの乳房ががんになったときに、がんになってない方まで予防的処置として切除したりするケースが増えているからだ。

米国の保険制度では乳房を切除した場合、再建までカバーすることが法的義務となっている。乳房を失う女性の心理に配慮したもので、それだけ深刻な問題だといえる。にもかかわらず、切除に踏み切るケースが増えている背景にはこの数年の急速な再建技術の進歩があるという。

比較的外科的治療に抵抗感の薄い米国でも乳房の切除については「barbaric(野蛮、荒っぽい)」な対処法と位置づける医者が少なくない。体への負担も大きく、切除に踏み切らずとも、年に2度ほどの検診など、早期発見で対処するという方法もあるからだ。変形BRCA保有者でも、切らずにこまめに検診する方を選択する女性も多い。

多くのドクターが"ジョリー効果"として認めたのは、「乳がんへの注目を集めたこと」「遺伝子が原因のがんがあることを知り、家族の病歴に関心を持つきっかけになること」だ。ただ、遺伝子検査だけでも3000ドル以上かかる。庶民が手軽に手を伸ばせる金額ではない。

ジョリーさんが受けた手術も、現地の報道によれば、総額で少なくとも2万ドルから5万ドル(入院費含まず)とされている。

乳がんであれば保険でカバーされる。しかし、予防的乳房切除プラス再建手術までカバーする保険となると、保険料も高額になる。

失業者に医療保険はなく、そしてパートタイマーも雇用者が医療保険を提供しないケースが多い米国では保険で守られない女性も少なくないとみられている。

「検査費用の高さがネック」と書いたジョリーさんの純資産は1億2000万ドルと報道されている。おそらくジョリーさんは今後、早期検査、治療の啓蒙活動も積極的に行っていくのだろうが……。

女性誌で「世界で最も美しい女性」に選ばれた美貌を持ち、スクリーンではマシンガンを振り回し、男顔負けの強さを見せつけてきたジョリーさん、私生活ではパートナーに恵まれ、養子を含め6人の子供を持つ。20代前半の破天荒さ、前妻からピットさんを奪ったイメージダウンも払拭、"完璧な女性"と羨望のまなざしを向けられる一方、セルフプロデュースにたけた女性ともいわれている。

最近はフィランソロピスト(慈善家)としての活動が目立っていた彼女、「がんに立ち向かう女」という新たな称号が加わった、と評する声も聞こえてくる。(ニューヨーク=原真子)

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