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グーグル特許戦略の破綻 金か仕様変更か、迫られる端末メーカー

UIEvolution 中島 聡

スマートフォン(スマホ)とタブレットの市場でシェアを拡大する米グーグルのOS(基本ソフト)「Android」。順風満帆に見えるその未来に暗雲が漂ってきた。ライバルの米アップルや米マイクロソフトと争っていた特許を巡る裁判で、米国とヨーロッパにおいて立て続けに敗訴の判決が出たからだ。

欧米で連戦連敗

グーグルの子会社であるモトローラ・モビリティーは、ゲーム機「Xbox」で使用している無線LANやビデオに関連する同社所有の特許について、年間40億ドルという莫大な金額の支払いをマイクロソフトに求める訴えを起こしていた。この訴訟に対し、4月25日に米シアトル連邦地裁は見解を示し、ほぼマイクロソフトの主張通りの年180万ドル(一台あたり約5セント)という2000分の1以下の金額が適切と判断した。

続く5月6日に、アップルに対してモトローラ・モビリティーが自社の特許について使用権を制限しようとしていることが「不当競争」に当たるという判断を、EUの行政執行機関である欧州委員会が下した。

どちらの判断も、当事者であるモトローラ・モビリティー、マイクロソフト、アップルだけでなく、モトローラの親会社であるグーグル、そしてAndroidの提供を受けているメーカー各社にとって、とても重大な影響を与える。

モトローラ買収で対抗しようとしたが…

グーグルがモトローラ・モビリティーを買収したもともとの目的は、モトローラが持つ携帯電話・無線通信関連の特許について権利を取得することだった。携帯電話向けOSの開発に着手するのが遅かったグーグルは、ライバルであるマイクロソフトやアップルに対して特許の質・量ともに大きく水をあけられていた。

特許面での劣勢から、Androidを使って製品を開発したメーカー各社が、マイクロソフトやアップルから訴訟を受ける事態となっていた。たとえば、マイクロソフトはメールやカレンダー、連絡先の同期やミーティング設定、電波の信号強度やバッテリー残量をアプリに通知する機能などでAndroidが特許を侵害していると主張。アップルもデザインや機能など幅広い部分で知的所有権を侵害しているとして、韓国のサムスン電子や台湾の宏達国際電子(HTC)といった主要Androidメーカーを相手に訴訟を起こしている。

 Androidは無償で誰でも自由に使えるオープンソースだが、ベースとしているLinux部分をはじめ、他社の開発した技術を使っている場合はそれぞれ特許の対象となる。

その結果、HTCはマイクロソフトと契約を交わしAndroid端末1台あたり5~10ドルの特許使用料を支払っているとみられる。サムスン電子にいたっては、アップルとの裁判の結果、出荷停止や仕様の変更、罰金の支払いを米国やEUの裁判所から命じられる結果となっている。

そこで開発元のグーグルは、モトローラ・モビリティーを買収して手持ちの特許を増やす反撃に出た。それを武器にマイクロソフトやアップルに対する逆訴訟を起こし、最終的にはクロスライセンス契約に持ち込むことで特許問題を決着しようと考えたのだ。グーグルにとって、買収を発表した2011年8月の段階で1万7000件以上、出願中を含めると2万5000件弱の特許をもっていたモトローラ・モビリティーが魅力的に見えたのだ。

だが残念なことに、モトローラ・モビリティーが所有していた特許の中で広く使われているものは、どれも「必須標準特許」と呼ばれる業界標準で採用されているものだった。これは、FRAND特許と呼ばれるもので"公平で安価で、かつ差別をしない"特許使用料で他社に供給しなければならない「縛り」のついた特許だったのだ。

ほとんどが業界標準で武器にならず

なぜそんな「縛り」がついているのかについては、標準化のプロセスを理解する必要がある。

802.11のような無線LANやH.264のような動画フォーマットといった各社で広く使う業界標準を決める際には、複数の会社がさまざまな自社技術を持ち寄る。企業としては自社の特許が必須技術として標準に組み込んでもらえれば特許使用料がもらえる。だが、「業界標準をサポートするために高い特許料を支払わなければならない」のであれば、それ以外の会社としては賛成できない。

そこで、ほとんどの場合で必須となる特許を持つ企業が「公平で安価で、かつ差別をしない特許使用料で他社に提供する」という譲歩をした上で業界標準に採用するのだ。特許を持つ企業からすれば、特許料を勝手に高くは決められなくなるが、幅広く多くの製品で使われるようになり、トータルとして安定した特許料収入が見込める。

モトローラ・モビリティーが所有している特許で、マイクロソフトやアップルが利用しているものは、ことごとくこの必須標準特許だったのだ。それにもかかわらず、モトローラ・モビリティーは年間40億ドルという法外な特許料の支払いをマイクロソフトに要求したり、アップルによる特許権の使用を制限しようとしたりした。米国とEUの裁判所がそれを不当と見なしたのは当然なのである。

グーグルによるモトローラの必須標準特許をテコにした特許戦略には無理があることが、今回の米国とEUの裁判所での判断により明白になった。今後Android端末メーカーは、マイクロソフトやアップルの所有する特許に関しては、特許料の支払い、もしくは特許侵害を避けるための仕様の変更を余儀なくされることとなるだろう。

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