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IT長者が担う寄付経済 「品の良い富豪」とは

毎年春先になると、世界の長者番付がメディアをにぎわす。米国でも3月にはフォーブスで"The World's Billionare(世界の億万長者)"というタイトルのランキングが発表された。この手の話になると、誰もがプライベートジェットに数々の別荘、社交界での交際や名誉職といった豪奢(ごうしゃ)な世界を想像し、時にそのような生活にあこがれるであろう。だからこそ、どんな時代でも、どの国でも、お金持ちになれる方法を説く書籍は、ベストセラーになる。

日本ではいまだに、文化的な背景もあり、拝金主義に対するアレルギーは強い。

しかしながら、ベンチャーだけでなく、ビジネスにおいて、金銭的成功を求める気持ち、良い生活を追求する基本的な欲求は、その世界で成功するためには大切な要素の一つであることは疑いようもない。

我々ベンチャーキャピタリストも同じである。ベンチャーの技術で世界を変えたい、世の中を良くしたい。そのような純粋な思いや理念は大事である一方で、投資として成功しないベンチャーは残念ながら世界を変えるような存在にはならない。

ビジネスの成功、つまりお金を稼ぐ、ということへのこだわりは必要だ。

ただ、それ以上に大事なことは、その"お金"を手に入れた後の行動である。

お金でさらなるお金を追求するのか? それとも、必要以上のお金は社会に還元するのか? どの道を選ぶかは、個人の価値観、社会の価値観、文化的な背景等多くの要素で決まる。今回は多くのシリコンバレーの金持ちに定着している寄付文化について取り上げたい。

「IT成り金」のセンス

IT(情報技術)産業が米国の経済成長をけん引する時代になってからというもの、その中心地であるシリコンバレーには多くの創業者長者やビリオネア投資家が生まれた。日本でIT長者というと、メディアでの取り上げ方のためか、本人のセンスのなさのせいなのか、うさんくさい、品のないという、悪いイメージが一般的であるような気がする。

確かに、品のないIT経営者が豪奢な生活を見せびらかすほど格好悪いことはない。赤いフェラーリを得意げに乗り回し、プライベートジェットで豪遊し、高級マンションでの必要以上にぜいたくな生活を披露する姿には、うらやましさを通り越した、気持ち悪さと、これがこれからの若者の目指すべき起業家像かという落胆の思いしか残らない。

曲がりなりにもある分野で成功した人間であれば、もっと違うやり方で世間に名を残すことができないのだろうか?

ひるがえって、日本の100倍はIT長者が存在するであろうシリコンバレーはどうか? 実際に、良い車を所有し、プライベートジェットで各地を飛び回り、豪邸に住んでいる長者も大勢いるが、それを見せびらかす成り金はあまりいない。

平素の生活は至って簡素な人間が圧倒的に多いように思う。普段はシャツにジーンズ、使い古した日本製の腕時計、そして会社のロゴの入ったバッグ。そんないでたちが普通である。

それこそ、アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏に至っては、お気に入りの日本製の眼鏡と、黒のタートルネックの同じシャツを複数もって着続けたという。いわゆる大金持ちの生活風景はまったく感じられない振る舞いである。

そして、米国の多くのビリオネアを決定的に特徴付ける行為が、社会へのドネーション(寄付)である。

ドネーション(寄付)文化の素顔

これはシリコンバレーの経営者たちの2012年の寄付金額のランキングである。フェイスブックの最高経営責任者(CEO)の5億ドル弱(約500億円)を筆頭に、上位10人で15億ドル近い寄付金が、公立学校での教育や医療といった多くの社会問題の解決のために提供されている。

米国全体で見ると、2011年度の統計によると、約30兆円にも上る。当然これは一回きりのことでなく、毎年続く行動様式である。

日本で寄付というと、難民救済や赤十字など、少し人ごとのような印象が強いような気がする。もしくは、震災のような大規模な天災やイベントに関連した、一時的な行動である。しかし、寄付というのは、本来は自分の生活圏や自国・他国の継続的な発展のためにも使われるからこそ、一回限りではなく、普段の生活の一部として定着すると感じている。

では、米国に見られる寄付金の多くは社会のどんな分野に投下されるのであろうか? その第一が、教育である。

寄付の向かう先とは

以前のコラム「農地からイノベーション工場へ スタンフォード夫妻の物語(中編)」でも述べたが、私立学校の3分の1は卒業生の寄付金によって成り立っている。公立教育の基本は州の予算であり、財政的に苦しい状況が続いている米国では公教育に振り向ける予算は減少傾向にある。つまり、先生の給与は減るばかりで、校舎の設備にまわす予算も削られている。

ただ、それを新しいIT技術で解決しようと試みているあたりは、シリコンバレーらしい。先生が一人一人の生徒に十分な指導ができない部分を、インターネットの動画講座や、クイズ教材で補完しようというわけだ。私の住む区域でも、古くなったパソコンやiPadの寄付は喜ばれる。

また、寄付金の多くも最新のIT設備に投じられ、公教育の充実と効率化に使われている。それこそ、自分の寄付が子供たちの生活環境の改善に使われている現場を見ることができる意義は大きい。

第二に、新興国の貧困や医療などにまつわる深刻な問題を解決することである。よくいわれることだが、先進国の発展には、多くの貧困国の資源や労働力が寄与している。

だからこそ、マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏も、私財を投じて財団を設立し、毎年最低1500億円以上の寄付を、貧困問題、医療問題、さらに国内の教育問題の解決のために行っている。

また、新興国では人権問題もある。我々が消費する多くの資源や嗜好品は、時にアフリカの独裁者らの搾取の上で流通している。私も最近、ヒューマン・ライツ・ウォッチのような世界的な人権擁護団体の活動を知り、応援している。

第三に、スポーツや文化への寄付も非常に多い。米国人がいまだに多くのスポーツ業界で活躍できるのも、多くの支援者や寄付金の裏付けがある。

翻って日本を見てみれば、オリンピック誘致やイベントの開催など、経済に直接貢献することには多くの関心と盛り上がりを見せるものの、そこで活躍すべきプレーヤーへの支援は、他国に比べ非常に薄いと感じている。

テニスにしてもゴルフにしても、女子サッカーの「なでしこジャパン」にしても、新しいスターが生まれているにもかかわらず、スポンサーがつかず、非常に苦しい思いをしている選手は多い。ということは、その指導者たちもじり貧である。

もっと多くの"ビリオネアマネー"が、日本の文化やスポーツの振興に回ってもよいと考えるのが普通でないだろうか? 日本人選手の活躍しない国際イベントほど、見ていてつまらないものはないではないか。

日本に根付くのか?

寄付文化が社会の一部になるためには、寄付がきちんと行き渡る仕組みや、寄付金の税額控除など制度の整備・充実も必要であろう。しかし今、日本がアベノミクスの成長戦略を通じて新しい国のあり方を設計するにあたり、将来日本が生む富が単なるタンス預金で滞留せず、寄付という形で社会や世界に巡る仕組みが生まれるきっかけになることを願わずにはいられない。

日本が世界の誰から見ても"品の良い金持ち"として見本になることはできるはずだ。最近騒がれている、日本文化の普及を考えるのであれば、それはアニメや漫画だけでなく、我々日本人の心のあり方、品格のある振る舞い、社会との向き合い方なども貴重な文化であると思っている。

そういう自分も、海外に住む日本人として品のある生活を実践し、いずれ社会に大きく還元できるように、全力で働き、おおいに稼ぎたいと考えている。

在米ベンチャーキャピタリスト 伊佐山元 (e-mail: gen.isayama@gmail.com)

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