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読書量が急増 電子書籍がかなえてくれるシニアの夢

 「シニア向けの便利な道具があると聞いたが、どこで入手できるのかわからない」「年をとった親のために、バリアフリー商品を買いたいのだが」――。最近、そんな悩みをよく聞く。筆者は30歳代前半で眼病を患い、視覚障害者(ロービジョン=弱視)になって以来、20年近く「共用品・ユニバーサルデザイン(UD)商品」の取材を続けてきた。この連載では、「モノが見づらい」「足腰が衰えてきた」などの悩みに応じ、筆者の実体験に基づいたお役立ちグッズやサービスを紹介していく。(ジャーナリスト 高嶋健夫)
藤沢周平『蝉しぐれ』(文春文庫)の文庫版(左)と「Kindle Paperwhite」の画面の比較。文庫本は8ポイント、書籍リーダーでは「14ポイント・ゴシック体」に設定してある

長年真面目に勤め上げて、やっと手にした自由の時間。これからは思う存分、好きな読書を楽しみたい。リタイア後のシニアの多くがまず思い描くのは「読書三昧の日々」。学生時代に読んだ古典をまた読もう、忙しい現役時代にはできなかった全集読破に挑戦しよう、と夢は膨らむ。

ただ、問題は視力の衰え。「老眼や白内障が出てきた今の視力では、文字の小さい文庫や新書を長時間読み続けるのはかなりしんどい」というシニアも多いはず。

連載第1回では、そんなシニアのための快適読書術を紹介しよう。最近はオーディオブック、大活字本などシニアに優しい"ニューメディア"も充実してきた。まずは電子書籍から。

組み体裁を"自分仕様"にカスタマイズ

読書好きのシニアの中には「しょせんはIT(情報技術)に強い若者向けのオモチャだろ」と決めつけたり、「本はあくまでも紙で読むもの」と頑なに拒否したりする人も多いが、それは「食わず嫌い」と申し上げたい。

電子書籍は、シニアにこそ最適な読書媒体だ。実際に筆者の読書量は、電子書籍を本格的に活用し始めたここ1、2年で飛躍的に増加した。目を患って以降、仕事以外で本を読むのが苦痛で、読み始めても読書スピードが極端に遅いため、なかなか読了する本が増えなかった。それが最近では、若い頃に近いペースで読書を楽しめるようになっている。「急回復」した理由は以下の3点にある。

(1)専用端末(書籍リーダー)や個別の書籍アプリによって仕様の違いはあるものの、電子書籍は活字の種類・大きさ、行間・行送り、縦組み・横組み、さらには背景色(紙の本で言えば本文用紙の種類)などを自由に調整・設定できる。つまり、視力や好みに応じて「組み体裁」を読みやすくカスタマイズできるのだ。紙の本では不可能だったこれらの点が、電子書籍の最大の利点といえる。

(2)1度買えば、専用端末の他、スマートフォン(スマホ)、タブレット(多機能携帯端末)など複数のIT機器で同じ本を読める。つまり、同じタイトルの本を何冊もそろえるのと同じで、読書環境のTPOに応じて使い分けることができるので、読書機会を増やすことができる。例えば7インチクラスの専用端末・小型タブレットの版面(はんづら)は画面の実寸でほぼ文庫本と同サイズ、重さも200グラム前後と文庫本並みなので携帯性に優れている。一方、10インチクラスの大型タブレットの版面は四六判からA5判サイズで、書斎での読書に適している。

(3)肝心のコンテンツも急増中だ。電子書籍ストア・アプリには「ゼロ円」、つまり無料で提供されているコンテンツも多く、特に著作権の切れた古典・名作は品揃えが豊富。紙の本ではなかなか手が出ない稀覯(きこう)本のたぐいでも簡単に入手できるのだ(ちなみに、筆者が最初に読んだ電子本は「i文庫HD」アプリからダウンロードした石原莞爾『最終戦争論』である)。青春時代に戻って「今ふたたびの読書生活」をもくろむシニアにはうれしい「無料サービス」で、わざわざ専用端末やタブレットを新規購入しても、すぐに元は取れるだろう。

『蝉しぐれ』を同じ文字数・行送りに設定して、「Kindle Paperwhite」(左)とiPadの画面を比較すると、ペーパーホワイトでは14ポイントのフォントサイズが、iPadでは約20ポイントになった

それでは、具体的にどのように使いこなすか。筆者が実際に使っている端末・アプリを素材にして、「組み体裁」の設定の仕方や端末による「読み分け術」を紹介しよう。あくまでも一個人の利用方法を参考情報として紹介するもので、これを推奨しているわけではないことをお断りしておく。

なお、実際に何種類も発売されている書籍リーダーの中からどの機種を購入し、どの書籍ストア・アプリを利用するかについては、家電量販店などに足を運び、自分自身で試して決めていただきたいと思う。その際には事前に、ITに詳しい友人や子供・孫、あるいは会社勤務時代の後輩・部下などの「デジタル指南役」を見つけて、アドバイスを受けることが肝要だ。また書店に行けば、最近はあまたの電子書籍入門書が刊行されているほか、日経電子版でもすでに多数の関連記事がアップされている。

文字の大きさから画面の明るさまで自由自在

筆者が現在利用しているのは、アマゾンジャパンの専用端末「Kindle Paperwhite(キンドル・ペーパーホワイト)」とアップルの「iPad(アイパッド)」。iPadにはKindleアプリのほか、以前から「iBooks」や「i文庫HD(青空文庫)」、雑誌ストアアプリ、単品の書籍アプリをいくつか取り込んで活用している。

まずは「ペーパーホワイト」での組み体裁の設定。購入した本を呼び出し、画面の上部をタップすると、左上に「Aa」というアイコンが現れるので、それをタップ。すると「フォント」の設定画面が現れる。一番上には大小8種類の「Aa」が出てくるので、好みの大きさのものをタップすると、瞬時に文字組みが変化する。

KindlePaperwhiteの組み体裁の設定画面。好きなサイズの「Aa」をタップすると、瞬時に切り替わる

どのくらいのサイズかを級数表(活字の大きさを測るスケールシート)を使って確認すると、最大は約30ポイント、以下22、14、11、10、9、8と小さくなって、最小は7ポイントだった。

その下には「明朝」と「ゴシック」の選択ボタン、一番下には「行間」「余白」の文字組みイメージ図がそれぞれ3タイプずつ表示される。それらを1つひとつタップしていけば、好みの組み体裁がたちどころに現れる仕組みだ。また、別のボタン操作で画面の輝度(明るさ)も24段階で調整可能なので、照明などの読書環境に応じて設定できる。

萩尾望都『ポーの一族』(小学館文庫)をKindleアプリを使ってiPadで表示すると、四六判の『萩尾望都作品集』(小学館プチコミックス)とほぼ同じサイズになる(=(C)萩尾望都/小学館)

「移動中モード」と「書斎モード」

実際にどの程度変わるか。藤沢周平の『蝉しぐれ』(文春ウェブ文庫版)をダウンロードして、底本の文春文庫版と比較してみた。紙の文庫版の組み体裁は「8ポイント・1ページ当たり42字×19行組み」。最近の文庫本としては小さめの活字を使い、版面いっぱいに文字がびっしりと詰まっている印象だ。悔しいけれど、視力の弱い筆者には天眼鏡なしではとても読めない。

そこで、電子書籍では大胆にサイズ変更。アレコレ試して、結局、2つのサイズを使い分けることにした。筆者が勝手に決めた「移動中モード」と「書斎モード」だ。移動中モードでは電車の中など環境の良くない場所でも楽に読めるように、2番目に大きい「22ポイント・明朝体」に設定。一方、書斎や就寝前に寝床で読む時には照明などの環境設定を自分で決められるので、一回り小さい「14ポイント・ゴシック体」に設定した。同端末のセールスポイントである「e-inkディスプレイ」は、どんな照明環境でも確かに読みやすいと感じる。

次にKindle アプリを使って、9.7インチのiPadで挑戦する。設定ボタンの配置などは専用端末とは多少異なるが、手順はほとんど同じだ。本を立ち上げた時に改めて驚かされたのは、専用端末では文庫本サイズだった版面が、ほぼA5判サイズの大型書籍に早変わりしたこと。これは読みやすい。専用端末で設定した「書斎モード」の文字組みに設定すると、判型が大きくなった分だけ活字も大きくなり、計測したら約20ポイントだった。ここまで大きくする必要がなければ、再度、小さいフォントに変更すればよい。

問題なのは、タブレットの重さ。筆者が使っている初代iPadは重さが680グラムもあって、ずっと持っていると腕や肩が痛くなってくるほど。だが、これにも対策はある。「書見台」を活用すれば、ハンズフリーで快適に読書に集中することができる。

なお、このアプリでは背景色も白、セピア、黒の3色から選択できる。背景色を黒にすると「黒地に白抜き文字」の画面に早変わりする。光の反射が少ない分だけ、一般に「白地に黒文字」より目に優しいとされている。他方、このアプリではなぜか明朝体のみで、ゴシック体(太さが均一なので視認性が高い)が選べない。技術的な理由があるのかどうかわからないが、可能ならば改善してほしいところだ。

漫画を楽しむなら大型タブレットがオススメ

文字だけの本以上に、筆者が電子書籍の恩恵を強く感じたのは「漫画」である。漫画本を視力の弱った目で読むのは、文字だけの本を読む時以上に大きな負荷がかかる。文字の大きさはマチマチだし、絵のコマ割りが不規則なので視点をあちらこちらに動かさなければならず、短時間でもとても疲労する。このため、筆者はこれまで何度か挑戦したものの、その都度挫折。目を患って以降の二十数年間は、漫画を楽しむことはほとんど断念していた。

電子書籍の登場で、あきらめていた漫画を再び読めるようになるかもしれない。そんな期待を抱いて挑戦してみた。ダウンロードしたのは、青春時代に熱中した萩尾望都の『ポーの一族』第1巻(小学館)。結論から言うと、その読み心地は期待以上だった。

マンガの見開きページも忠実に再現

特に快適だったのは、Kindleアプリを使ってiPadで読んだ時。同書の底本は新書判サイズの「フラワーコミックス」なのだが、画面サイズの大きいiPadを使うと、手持ちの四六判の『萩尾望都作品集』(小学館プチコミックス)とほぼ同サイズの"大画面"に変身した。

iPadでとりわけ素晴らしいのはタブレットを横向きに寝かすと、画面が瞬時に見開き表示に変わってくれること。このため、通常は縦向きで1ページずつ読んでいき、見開き2ページを全面的に使ったコマ割りのページでは横向きに倒し、また元に戻すという作業でスムーズに読み進むことができるのだ。さらに横向きの見開き画面では、ダブルタップで画面を拡大表示した後、当該ページを下まで移動して最終コマをタップすると、拡大表示したまま次ページの先頭のコマに移動するという優れモノの機能も使える。これなら、実質的にB5判の週刊誌サイズの大きなコマ割りで読むことができる。これらの機能を使いこなせるようになるのに、それほど時間はかからなかった。

すっかり味を占めた筆者は今、数十年ぶりの漫画ブームにはまっている。その後、同じストアで岡崎京子の『ヘルタースケルター』(祥伝社)を購入したり、無料漫画アプリの公開で話題となった佐藤秀峰の『ブラックジャックによろしく』(漫画 on Web)などを立て続けに読んでいる。早く大島弓子や大友克洋の作品が電子書籍としてリリースされないかと、心待ちにしている。

読書はもちろんのこと、何事も「年なんだから仕方ない」とあきらめることはない。「高齢者の世紀」と呼ばれる今の時代、実にいろいろな商品分野で「シニア向け便利グッズ・サービス」が開発され、日々進化しているのだから。

次回(21日に更新)はオーディオブックと大活字本の"読み方"を紹介しよう。

■シニアに優しい“一般書籍以外の本”の特徴
電子書籍オーディオブック大活字本
本欄で取り上げる商品Kindle Paperwhite、並びにiPad用Kindleアプリオーディオブック配信サービス「FeBe」(オトバンク)「大活字文庫」「誰でも文庫」(大活字)
購入方法アマゾンのPCサイトまたはキンドル端末で購入しダウンロード。支払いはクレジットカード決済フィービーのPCサイトで会員登録して購入・ダウンロード。支払いはクレジットカード決済楽天などネット通販サイトの他、大手書店などで購入・注文できる
読書スタイルキンドル端末の他、アプリを使ってスマホ、タブレットでも読めるiPodなど携帯音楽プレーヤー、スマホ、タブレットでも聞ける一般書籍と同じ「紙の本」なので、読書スタイルは同じ
特色・利点・活字の大きさ、行送り、背景色など「組み体裁」の設定が自由
・1回買えば複数冊を保有できTPOに合わせて使い分け可能
・音声で聞く本なので、移動中、作業中に「ながら読書」できる
・1回買えば複数冊を保有でき、TPOに合わせて使い分け可能
・22ポイント・ゴシック体の大きな活字で印刷され読みやすい
・「誰でも文庫」は並製本、リング綴じ本、白黒反転本を選べる
持ち心地Paperwhiteは画面サイズ6インチ、重さ213gと文庫本並み携帯音楽プレーヤー、スマホで音楽を聴くのと同じA5版、B5版の一般書籍とほぼ同じ
レファレンス性いわゆる「しおり」機能など、工夫されているが、本には劣る2倍速版を用意。早送り・巻き戻し機能も工夫。本には劣る一般書籍と同じ。好きなページへ自由に移動できる
所有感・
読後達成感
本を読み終えたという読了後の達成感・所有感は少々希薄CDに焼いて保管することもできるが、所有感は少々希薄本棚に並べられるのは、やはりうれしいもの
品ぞろえ5万タイトル以上。漫画、写真集まで急速に増えている約8000タイトル。ビジネス書、文芸書など最新刊も充実207タイトル。ベストセラー本はかなり充実している
価格(一般書籍との比較)同タイトルの紙の書籍より安い本も多く、半額以下もある同タイトルの紙の書籍とほぼ同額。単価の安い名作もある1890~3000円台。長編だと分冊になるので、かなり割高
特典その他名作・古典の無料本が多数あるまとめ買いなど割引バーゲン、プレミアム会員特典制度あり文字サイズを選べる有料会員制のオンデマンド出版もある
他の同様の商品・楽天「kobo」、ブックライブ「Lideo」、ソニー「Reader」など専用端末のほか、スマホ、タブレット用アプリ多数・「新潮CD」(新潮社)などのCD版オーディオブックもある
・iTunesには「オーディオブック」の他、音声版のPodcastもある
・「大きな活字で読みやい本」シリーズ(リブリオ出版)、大活字本シリーズ(社会福祉法人埼玉福祉会)などがある
高嶋健夫(たかしま・たけお) 1956年生まれ。79年早大卒、日本経済新聞社入社。編集局産業部、日経文庫編集長などを経て、99年フリーランス・ジャーナリストに。中小・ベンチャー企業経営、共用品・ユニバーサルデザイン関連の記事、著書を多数執筆。主な著作に「R60マーケティング」(日本経済新聞出版社)「だれにとっても使いやすいバリアフリー生活用品100選」(同)などがある。

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