2018年6月23日(土)

「教えないコーチ」から体罰をみると…

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2013/2/5 7:00
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 「教えてうまくなるやつはいない」というユニークな指導理論を持ち、選手の自主性を引き出して成果を挙げてきたプロ野球中日の前コーチ、権藤博さん(74)。柔道をはじめ、全国で持ち上がっている体罰問題はそれと対極にある指導から生じたといえる。力ずくで「教え込もう」とする指導者をどうみるのか。

コーチの仕事、選手を前進させること

 私の指導者としてのスタートは中日の2軍コーチだった。毎年入団してくる若い人たちをみていて再認識したのはプロ野球に入ってくるような選手は体格も運動センスも恵まれた、特別な才能の持ち主ばかりだということ。中学でも高校でも、誰に教わるわけでもなく速い球を投げたり、打球を遠くに飛ばしたりすることが出来ていた人だけが、プロへの入門を許されるのだ。

 どの世界でも頂点を極めるような人は自分で成長のヒントをみつけ、課題を克服できる。だから、プロでトップを狙おうという選手に教えてうまくなるやつはいない、というのだ。

 実際には自分自身の才能に気付かなかったり、失敗を重ねて自分の長所を忘れてしまうなどの理由で伸び悩むケースが少なくない。そこでコーチの出番となるわけだが、一番大事なのは選手に自信を回復させ、前向きに進む勇気を持ってもらうこと。それがコーチの一番の仕事だと思っている。

褒めてこそ選手は伸びる

 昔、日経の夕刊でマラソンの渋井陽子選手らを指導する鈴木秀夫監督の話を読んだとき、わが意を得たり、と思ったものだった。

 褒めて育てるのが信条という鈴木さんはミーティングをしない。力んでゲキを飛ばすこともないという。駅伝のゼッケンを渡すときも、とくに訓示はしない。「練習で全部教えているから、特にいうことはない」というのだ。練習ではこまごました指導をしているのかもしれないが、いざ選手を戦いの舞台にあげるにあたっては任せるしかない。私もまさに同じような考えで選手と向き合っていた。

 ちなみに鈴木さんは高橋尚子選手らを育てた小出義雄監督の教え子であり、小出さんもまたそういう指導者だったのではないだろうか。

 体罰を与えた方が伸びるか、褒めた方が伸びるか。これはもう褒めた方がいいに決まっている。それが私の40年あまりの指導経験による結論だ。

 退任した柔道女子の園田隆二監督にとって指導とは「教えてうまくする」のが全てだったのではないか。一般的にはそれが当たり前だし「教えてうまくなるやつはいない」といっても、恐らく何を言っているのか、理解してもらえないだろう。

 「教えてうまくなるやつはいない」は言い方としては極端だけれども、指導者のみんながこういう気持ちのかけらでいいから、持っていた方がいいのではないか。それが指導者としての心のゆとりにつながる。

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