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「手のひらで毎秒300メガ」も 高速通信LTE、進化の青写真

 2012年は、通信速度の高さを特徴とする最新の移動体通信サービス、LTEに注目が集まった。先行していたNTTドコモに加え、KDDI(au)、ソフトバンクモバイル、イー・アクセス(イー・モバイル)の各社も、12年に相次いでLTEの商用サービスに踏み切り、各社のサービスが出そろったのだ。
 各社は2013年も、引き続きLTEのサービスを拡充していく姿勢を打ち出している。とはいえ、どのように拡充していくかという具体的な施策は各社異なる。また各社は、今後数年のうちに実用化が見込まれるLTEの後継方式「LTE-Advanced」を見据え、中長期的な回線網の高速化プランを練り始めている。これが実現すれば、光ファイバーに匹敵する超高速通信が、手のひらのスマホで実現することになる。通信各社のLTE拡充への取り組みと、将来に向けた技術動向をまとめた。

まずは、簡単に12年の動きをおさらいしておこう。

10年12月に「Xi(クロッシィ)」という名称でLTEの商用サービスを始めていたNTTドコモに続き、イー・アクセス(イー・モバイル)が12年3月に「EMOBILE LTE」を開始。KDDI(au)とソフトバンクモバイルは、米アップルのスマートフォン(スマホ)「iPhone5」を9月21日に発売するのに合わせ、それぞれLTEの商用サービスを開始した。KDDIは「au 4G LTE」、ソフトバンクは「SoftBank 4G LTE」という名称である。

ソフトバンクはこれと別に、TD-LTE(AXGP)方式の高速通信サービス「SoftBank 4G」も2月に始めている。TD-LTEも広義のLTEに含まれるもので、通信方式は一部共通になっているが、現在主流のLTE(FD-LTE)とは下り/上りの通信を制御する方法が異なる。数年後には1台のスマホでLTEとTD-LTEの両方式で通信可能になるとみられるが、現時点ではLTE/TD-LTEの両対応スマホは市販されていない。

ドコモは地方部で112.5Mbps 1.5GHz帯が鍵

ここからは3社の取り組みを具体的に見ていこう。まずはNTTドコモだ。10年12月の商用サービス開始以来、2ギガヘルツ(GHz)帯を使い展開しているドコモのLTE。ほとんどのエリアでは、LTE向けの電波の幅(帯域)は5メガヘルツ(MHz)幅×2(10MHz幅の電波を下り/上りで折半)となっており、通信速度は下り最大毎秒37.5メガビット(Mbps)/上り最大12.5Mbpsだ。

一方、今後の拡充で鍵を握るのは、総務省から新規に割り当てを受けた1.5GHz帯の電波だ。この1.5GHz帯では、現行の2GHz帯のLTEに比べ3倍広い15MHz幅×2の帯域を割り当てられている。このため通信速度も、下り最大112.5Mbps/上り最大37.5Mbpsと「3倍速」になる。

 1.5GHz帯は総務省からの免許の条件として、14年3月末までは東名阪と九州以外の地方限定となっている。そこで同社は12年冬に、仙台や新潟などの地方都市で1.5GHz帯対応の基地局を新設し、3倍速のサービスを始めた。ただ12年冬の段階では、スマホに搭載する通信制御LSIで下り最大112.5Mbpsのものが用意できないため、12年の年末商戦向けモデルは下り最大100Mbpsとなっている。13年の春商戦向けモデルは、米クアルコムの新型LSIを搭載し、下り最大112.5Mbpsで通信できるスマホが登場する見通しだ。その後、免許上の地域の制約がなくなる14年4月以降は東名阪と九州でも112.5Mbpsを展開する。

1つのアンテナで複数の周波数に対応

1.5GHz帯以外の電波は、今のところ大半を3G向けとして使っている。これらの電波は、3GからLTEへ切り替えるユーザーの数に応じて、順次LTEへ切り替える方針だ。LTE回線網の整備の順序としては「最優先なのは当社のLTE端末の全機種が対応している2GHz帯。次いで新設の1.5GHz帯、そして800MHz帯となる」(無線アクセスネットワーク部 無線企画部門の平本義貴担当部長)

現在は、20MHz幅×2ある2GHz帯のうち、LTEに振り向ける分を5MHz幅×2から10MHz幅×2へと、2倍速に順次切り替えている。13年3月末までに、全国に2万3000局あるLTE基地局のうち、4000局が2GHz帯の2倍速対応局になるとする。もちろん、帯域を増やすことで1つの基地局で同時に通信できるLTEユーザーを増やす目的もあり、ユーザーの体感速度は必ずしも2倍になるわけではないが、2倍速対応局の周辺ではドコモの通信環境の改善が見込まれる。

LTEの整備を進める上でドコモが工夫しているのがアンテナだ。一般にアンテナは、送受信する電波の周波数に応じたものを用意する必要がある。ドコモでは、800MHz帯、1.5GHz帯、2GHz帯など複数の周波数に対応した基地局用のアンテナを開発済み。このアンテナを設置している基地局では、新たに基地局用地を探したり、既設のアンテナを交換する工事をしたりせず、短期間に新たな周波数のサービスを展開できるとする。さらに、オフィスビルなどの屋内に設置する基地局もLTEに対応済み。最近注目を集めている、地下鉄の駅や駅間のトンネル内のアンテナ整備も、ドコモは「新設のものはLTEに対応している」(広報部)という。

2GHz帯を全てLTEに 「4倍速」の150Mbps目指すKDDI

KDDIのLTEサービス「au 4G LTE」は、実は2つの異なる回線網で構成されている。主に米グーグルの基本ソフト(OS)「Android」を採用したスマホ向けとして提供している800MHz帯・1.5GHz帯の回線網と、主にiPhone向けに提供している2GHz帯の回線網だ。

12年秋~冬のLTE立ち上げ当初は、Android向けの800MHz帯で「LTEを垂直立ち上げし、NTTドコモに追いつく」(田中孝司社長)ため、当初から2倍速の下り最大75Mbps対応の基地局を設置。13年3月末の段階で実人口カバー率96%を目指す。さらに都心部では1.5GHz帯のLTE回線網も併せて構築し、Androidスマホで800MHz帯と1.5GHz帯の両方に接続可能にすることで通信の分散を図る。このLTE回線網をフル活用し、「時間を掛けることなく3GからLTEへ一気に切り替えていく」(次世代ビジネス戦略部の門脇誠担当部長・LTE戦略グループリーダー)方針だ。

 一方、iPhone5の発売と同時にサービスを始めた2GHz帯のLTEは「もともと展開計画はあったが、当初はもう少し先の予定であった。それをiPhone5に合わせるためドンと前倒しした」(モバイル技術企画部の木下雅臣課長・通信品質グループリーダー)といい、基地局整備はAndroid向けの回線網より遅れている。2GHz帯ではLTEの速度も下り最大37.5Mbpsのエリアが大半だ。12年末の段階では「LTEで動画が快適に閲覧できる環境は整えるが、3GとLTEのバランスも重視している。ソフトバンクとのスピード競争のために、同じ2GHz帯を使っている3Gの利用者を犠牲にするわけにはいかない」(モバイル技術企画部の松田浩路担当部長・システム戦略グループリーダー)

2GHz帯を今後高速化していくには、もう1つ課題がある。2GHz帯の拡充に関する過去の経緯だ。実は同社の2GHz帯は、12年夏まで15MHz幅×2だったが、12年夏に5MHz幅×2が追加され20MHz幅×2となった。12年夏以前に発売されたスマホは、追加分の周波数を使う設定になっていないため、既存の15MHz幅×2が混み合っている一方、追加分の5MHz幅×2はガラガラという状態になっている。この状態で2GHz帯の3GからLTEへの切り替えを進めると、既存の3G帯域の部分にアクセスが集中しパンクしかねない。

2GHz帯のLTE拡張、「売れ筋3Gスマホ」のアップデートが号砲

こうした課題を解決するため、同社は13年1月にも既存の3Gスマホのうち「売れ筋機種」のアップデートを実施する。端末の内蔵ソフトウエアを遠隔で更新し、追加分の電波も利用可能にして、2GHz帯の3G回線の混雑を平準化するわけだ。同社はアップデートの対象となる「売れ筋機種」の具体的な製品名を明らかにしていないが、過去の販売状況からiPhone4Sとみられる。

このアップデートが済んだ13年春以降は、2GHz帯のLTE拡充が急ピッチで進み、むしろ800MHz帯より一歩先を行きそうだ。2GHz帯のLTEは、現在は5MHz×2が大半だが、13年12月末までに15MHz幅×2まで拡張し、現行の3倍速となる下り最大112.5Mbpsまで速度を引き上げる。混雑の少ない地方部では、2GHz帯の20MHz幅×2を全てLTEとし、14年3月末までに同150Mbpsの4倍速サービスを展開する。このLTE4倍速エリアでは2GHz帯の3Gの電波が消滅することになるが、800MHz帯で5MHz幅×2を残し、3Gの回線網を維持する。

地下鉄の駅やトンネル内は、KDDIもドコモと同様にLTEを使えるよう整備を進めている。「12年12月末までに関東の地下鉄駅の99%をLTEでカバーし、13年3月末までには駅間の地下トンネル内も9割の区間でLTEを開通させる」(田中孝司社長)とする。

一方、子会社のUQコミュニケーションズが運営するモバイルWiMAXは、13年に後継サービス「WiMAX2+」を始めたいとしている。WiMAX2+は、WiMAXとの互換性を維持しつつ、WiMAXの対抗技術として注目を集めているTD-LTEの端末も通信可能にするものだ。しかし同サービスに必要な2.5GHz帯の電波は現段階で総務省から獲得できておらず、ドコモやソフトバンクも獲得を狙っているため、今後の情勢は予断を許さない。

逆転狙うソフトバンク イー・アクセス買収とTD-LTE普及で

iPhone5の発売と同時に2GHz帯でLTEを始めたソフトバンク。しかし当初は、東京都心部を中心にLTEの基地局整備が間に合わないという失態を演じてしまった。「2GHz帯を使うLTEの基地局整備だけであれば、3GからLTEへの更新は遠隔でできるのでさほど大変な作業ではない。しかし今回は、プラチナバンド(900MHz帯)を使う3Gの基地局整備も同時に行っていた。このため900MHz帯対応のアンテナ工事などの作業負荷が大きくなり、開通が遅れてしまった」(モバイルネットワーク本部副本部長兼ネットワーク建設統括部統括部長の大滝英司氏)。

 その後、都心部のLTEは10月末までに基地局整備を完了したとするが、自社網でのLTE拡充は綱渡りの状態が続く。3Gでメーン周波数として使っていた2GHz帯の混雑が、当分解消しないとみられるためだ。

まずは900MHz帯で3Gの基地局を「都心部・地方部を問わず全国にまんべんなく」(大滝副本部長)建設し、2GHz帯の15MHz幅×2と900MHz帯の5MHz幅×2で3G回線の負荷を分散する。その上で13年度に、2GHz帯のLTEを現行の5MHz幅×2から10MHz幅×2に順次増やしていく。

ただ、900MHz帯の基地局の建設は「Webサイトで公表している対応予定のエリアマップがだんだん狭くなっている」(競合他社の技術者)といい、順調でないもよう。iPhone5の発売時に話題となったLTEでのテザリング機能も12年12月から提供しているが、ドコモやKDDIと違い夕方以降の混み合う時間帯は、動画など一部コンテンツのパケットを制限することでLTEのパンクを回避しているのが現状だ。競合他社からは「基幹回線が強固ではないのでは」との指摘もある。

このほか同社は、1.5GHz帯でも3G回線を持っているが、この周波数はモバイルルーターや公衆無線LANの中継回線としてフル稼働しており、当面はLTEへの移行が困難だ。

Android端末では、経営破綻した旧ウィルコムから譲渡を受けた「Wireless City Planning」社(WCP)が運営する、TD-LTE(AXGP)方式の回線を活用。現行のスマホは下り最大76Mbpsだが、13年度には同110Mbpsに高速化したTD-LTE対応のAndroidスマホを発売する見通しだ。ただこれも、ソフトバンクユーザーの大半が利用するiPhoneは今のところTD-LTEに非対応のため、通信の分散効果は限定的だ。

15年以降、ソフトバンクの電波は急増

そんな同社だが、いくつかの秘策を練って逆転を狙っている。1つはイー・アクセス(イー・モバイル)の買収だ。同社は1.7GHz帯で15MHz幅×2を持っており、都市部ではこのうち5MHz幅×2をLTEで使っている。iPhone5はイー・アクセスの1.7GHz帯のLTE回線網にも対応しており、13年春にネットワークの調整が済めば、2GHz帯のLTEの混雑を分散できる可能性がある。

もう1つは、TD-LTE対応iPhoneの製品化への働き掛けだ。TD-LTEはWCPのほか、インドやサウジアラビアなどで展開されているが、世界的には少数派だ。そこでソフトバンクは、米国市場でTD-LTEの普及をもくろむ。12年10月に買収を発表した米通信会社のスプリント・ネクステルが、12年12月に同業の米クリアワイヤを完全子会社化した。クリアワイヤはもともとモバイルWiMAXを展開していたが、TD-LTEへくら替えする意向を表明しており、ソフトバンクからの出資を受けTD-LTEの回線網構築を加速させる。TD-LTEは他にも、14年をめどに中国移動通信がサービスを始める予定で、日米欧の主要3地域で普及すれば米アップルにTD-LTE対応iPhoneを働き掛けやすくなる。LTEとTD-LTEの両対応iPhoneが実現すれば、今は独立しているLTEとTD-LTEの回線網が相互補完可能になり、iPhoneのつながりやすさは飛躍的に改善すると見込まれる。

 それだけではない。実はソフトバンクは、15年頃を境に利用可能な電波がどんどん増え、回線繰りが楽になりそうだ。同社が「プラチナバンド」と呼ぶ900MHz帯は、総務省から割り当てを受けた15MHz幅×2のうち10MHz幅×2は電波の整理作業が続いており現時点では利用できないが、15年頃にはフルに使えるようになる見込み。イー・アクセスが取得した700MHz帯の10MHz幅×2も、15年12月からLTEで使用する予定だ。WCPが割り当てを受けているTD-LTE用の2.5GHz帯も、衛星通信との干渉のため現在使えていない10MHz幅(下り・上り共用)が15年に利用可能となる。

LTEをさらに高速化させる「CA」

このように、LTEは13年から14年にかけて段階的な高速化が見込まれる。ただしこれは、来るべき「手のひらに光ファイバー級の超高速無線通信」という時代の序章に過ぎない。15年頃からは、LTEの上位方式である「LTE-Advanced」が登場し、通信速度は現行のLTEの8倍となる下り最大300Mbps以上となる。あくまで理論値だが、地上デジタル放送とBSデジタル放送を7チャンネルずつ、画質を落とすことなく同時に伝送できるほどの速さだ。

このLTE-Advancedを実現するための要素は2つある。1つは、異なる複数の周波数帯を同時に利用して高速化を図る「キャリアアグリゲーション(CA)」。もう1つは、新たな電波の割り当てだ。

CAは、例えば800MHz帯と2GHz帯など離れた2つの周波数帯を束ねて、スマホと基地局の間で高速通信する技術だ。下り最大75Mbpsの電波を2つ束ねる場合、同150Mbpsで通信できる。LTE-Advancedの本格化に先駆け、13年後半には海外の一部事業者が試験サービスを始め、14年には商用サービスでもCAが利用可能になる見込みだ。国内ではドコモとKDDIが、10MHz幅×2の帯域を2つ束ねて現行の4倍速となる下り最大150Mbpsのサービスを始めることを検討しているとみられ、早ければ14年にも市販のLTEスマホでCAに対応する可能性がある。

電波獲得競争、13年も激烈に

ただ、CAにも課題はある。例えば、CA対応のスマホは2種類の異なる周波数で同時に電波を送受信するため、電池の持ちが悪くなることが見込まれる。また、高速通信を実現するには、電波強度が高く混雑の少ない電波を、使用するいずれの周波数でも確保できることが前提となる。現行のLTEの周波数帯と基地局網をそのまま使う限りは、CAを導入しても劇的な速度向上には結びつかない可能性がある。

そこで注目されるのが、今後予定されている電波の新規割り当てだ。既存の周波数に近いところでは、13年に1.7GHz帯の5MHz幅×2と2.5GHz帯の30MHz幅(下り・上り共用)の新規割り当てが見込まれる。1.7GHz帯はイー・アクセスが、2.5GHz帯はKDDI系のUQコミュニケーションズとソフトバンク系のWCPが、それぞれ以前から近接の周波数を使っており、既存サービスの拡張用として早い段階から名乗りを上げている。しかし、このところ電波の逼迫が目立っているドコモを始め、それ以外の事業者も立候補の意向を示している。どの事業者が獲得するのかによって、今後の勢力図は大きく変動しうる。

LTE-Advanced向けとしては、無線通信の国際的な標準化団体である国際電気通信連合(ITU)が、3.4G~3.6GHzを世界標準のLTE-Advanced向け周波数として定めており、日本もこの周波数を携帯電話用として割り当てられるよう調整中だ。200MHz幅と今までにない広い帯域をどう分割し、どう各社に割り振るか、13年に議論が本格化するとみられる。あくまで仮定の話だが、この新周波数のみの利用であれば40MHz幅×2、既存の周波数帯とのCAを前提とするならば25M~30MHz幅×2程度を確保できれば、下り最大300Mbpsの実現性がぐっと高まりそうだ。そうした次世代の高速通信を担う重要な周波数だけに、各社の獲得競争も激しくなるとみられる。

(電子報道部 金子寛人)

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