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リアルと融合「ニコ動」加速、参謀が明かす舞台裏

幕張メッセから離島まで、イベント攻勢の戦略と未来

 「ニコニコ動画(ニコ動)」がインターネットとリアルの融合戦略を加速させている。今年4月の幕張メッセでのイベントに続き、今夏は全国各地をまわるツアーイベントを開催。過疎に悩む「町」で計3万7750人を動員し、町からのネット中継では延べ85万7000人の視聴者を集めた。リアルと融合するニコ動の戦略、そして未来とは。ニコ動を運営するドワンゴの最年少取締役で、メディアなどにはめったに登場しない"参謀"の横澤大輔氏が舞台裏を語った。(文中敬称略)
ステージでは「ゆるキャラ」や特産品など各町村のアピールが繰り広げられた(6日、島根県松江市)

「奥出雲バーガー」「さざえの壺(つぼ)焼き」といったご当地グルメの出店に、神楽や太鼓など伝統芸能のステージ。10月6日、松江市の広場に島根県内11の町村が集結、「輝け11しまね町村フェスティバル」というイベントが開催された。だが今年は例年と趣が異なる。ローカルなイベントだが、なぜかニコ動が自前のステージやブースを展開、存在感を放っていた。

「全国、2500あまりあった町村が先の平成合併で1000を切り、島根県も51が11と少なくなって寂しくなりましたが、元気にがんばって……」。島根県吉賀町の町長があいさつするステージの背景には「ニコニコ町(ちょう)会議」の文字。観光名所など各町村のピーアールや、のど自慢大会が続き、その様子は「ニコニコ生放送(ニコ生)」を通じて全国に中継された。

ここに、ニコ動で名を馳(は)せた人気ユーザーも参戦。ステージで「初音ミク」を代表とするボーカロイド(ボカロ)楽曲を熱唱したり、ダンスを踊ったり、あるいは、会場のテントでお客さんの似顔絵を描いたり、射的をやったりと、多種多様な出し物でイベントを盛り上げた。数字が効果を物語る。

会場には鳥取など近隣他県からもニコ動のファンが集まり、来場者数は例年の1.5倍、1万8000人に膨れた。ニコ生の中継では約12万2000人の視聴者が"参加"。思い思いのコメントを付けながら島根というコンテンツを楽しんでいた。ドワンゴは今夏から、こんなことをずっと続けている。

「無茶ぶり」を実現に導く"参謀"

福島の「三春盆踊り」では「暴徒」という人気ユーザーがダンスをレッスン、地元のファンが集まった(8月16日、福島県三春町)

7月末からスタートした町会議は、ニコ動の楽しさを伝える「移動式文化祭」。キャラバン隊を全国の「町」に派遣。人気ユーザーも引き連れ、中継も行う。全国各地の祭りやイベントと共催する形で鳥取県八頭町、佐賀県呼子町(現・唐津市)、北海道長万部町、福島県三春町、東京都八丈町とまわってきた。5カ所の動員数は計3万7750人。現地からのニコ生の中継には延べ85万7000人もの視聴者が集まった。松江市のイベントは、これらに続く「番外編」だ。

ただ、収入は会場でのニコ動グッズの物販のみで、あとはすべてドワンゴの持ち出し。企業の社会的責任の一環として「地方活性」の手伝いでも始めたのだろか。

「町おこしにつながるのかどうかは先方が判断することで、僕らから地方活性なんて言うのはおこがましい。ニコ動のユーザーが1人でもいるんだったら、どこでも出向いて楽しさを伝えに行きたい。町会議は、そのための『メディア』として始めたんです」

こう話すのは、町会議の発起人で統括プロデューサー、ドワンゴの最年少取締役を務める横澤大輔(31)だ。ニコ動関連のイベントや中継には決して登場せず、メディアの取材にもほとんど応じない謎多き男。しかし彼こそがリアルとの融合を加速させているニコ動のキーパーソンと言える。

ドワンゴの横澤大輔取締役。コンテンツ畑が長く、エンターテインメント業界とのパイプが太い

ドワンゴにおいて、気づきやきっかけを与える天才肌のボスが会長の川上量生(のぶお)、ニコ動の財務を預かる大番頭でスポークスマンが取締役の夏野剛だったら、横澤は現場を率いる若頭。川上の「無茶(むちゃ)ぶり」を実現に導く陰の"参謀"でもある。特に川上との関係は深く、2人の師弟関係は2000年から続く。

素人が主役「ユーザーの時代」築く

当時18歳の横澤をネットで見つけ、音楽やコンピューターに詳しかった彼に川上が熱心に話を聞いたのが出会いだ。翌01年、ゲームソフト開発を手がけていたドワンゴは着メロ事業に参入。川上から起業しないかと提案された横澤はCELLという制作会社を興し、ドワンゴが提供する着メロの制作を一手に引き受けた。以来、横澤は「下請け」という立場でドワンゴと川上を支え続けた。

07年からはニコ動にも携わり、横澤は公式番組のプロデューサーとして頭角を現した。民主党や自民党などを奔走、政党の公式チャンネルや小沢一郎の独占番組などを仕掛けると、08年にはニコ動で初めてとなる生放送の帯番組や、ダウンタウンの浜田雅功はじめ地上波顔負けの芸能人をそろえた「12時間ぶっ通し生放送」などを手がけ、ニコ動の知名度向上に貢献した。

「ニコニコ大会議」の企画・制作を請け負ったのもCELLだ。大会議はドワンゴ初の全国ツアーイベントで、08年夏から11年5月にかけて全国主要都市と台湾で延べ26回開催された。もともとは、ニコ動関連の重大発表を行う発表会イベントだったが、次第に「歌い手」や「踊り手」といった人気ユーザーが出演する音楽ライブへと変化。ライブはニコ生でも有料配信するようになり、ネット中継を通じて十数万人が視聴する一大イベントへと成長した。

ここで横澤は、イベントプロデューサーとしてライブ構成をまとめると同時に、人気ユーザーを発掘してステージに立たせ、成長させるタレントマネジメントの面でも手腕を発揮。素人のユーザーが現実世界でもコンテンツの主役となる「ユーザーの時代」を築き上げた。

川上の一言から始まった幕張メッセ貸し切り

ニコニコ超会議で催されたライブイベントでは、約6000人の観客がニコ動の人気ユーザーに熱狂した

そして今、横澤はネットの世界のみならず、ニコ動という「メディア」を現実世界にも根付かせる作業に肝胆を砕く。「ニコ動は、発表したい人がいれば発表できる場。何かを表現したいとき、サポートができる場でありたい。そういうプラットフォームでありつづけるための、ネットとリアルのハイブリッド戦略なんです」。今年4月に幕張メッセで開催した大規模イベント「ニコニコ超会議」は、その大きな一歩だ。

超会議のコンセプトは「ニコニコ動画のすべて(だいたい)を地上に再現する」。ネット企業が単独で幕張メッセを2日間も借り切るという前代未聞のイベントだったが、会場には9万2384人が押し寄せ、さらに会場各所からの生放送を延べ347万人が視聴するという結果を残した。その実現は横澤抜きに語れない。

「次は幕張メッセだな」。きっかけはいつものごとく川上の一言だった。時は11年春。ニコ動だけで集客できるのか。コストはいくらなのか。何より、大会議を締めくくる台湾公演すら終わっていない。社員は仰天した。だが横澤は川上の真意を理解していた。

大会議が盛り上がるにつれ、「ニコ動は初音ミクやダンスだけじゃない」という不満も噴出しつつあった。工作の途中経過を映す「作ってみた」、ゲームのプレー画面を映す「ゲーム実況」、パフォーマンスやトークで沸かすニコ生の素人番組……。こうした音楽ライブで光の当たらない人気ジャンルからの不満に、川上は敏感に反応したのだ。横澤は言う。

「川上は解決方法を中途半端にしない。徐々に改善しようとせず、正反対の最高を狙ってくる。すべてのジャンルをいっぺんに集めようとしたら幕張メッセくらいの広さが必要だよね、という発想なんです。でも、方法論とか成功の根拠とかは教えてくれない。超会議をやるぞと言われ、社員みんな、ちんぷんかんぷんでした。えっ、幕張メッセでなにするの?って(笑)」

「ちんぷんかんぷん」のまま過ぎた10カ月

常設のライブハウス「ニコファーレ」は壁面と天井が全面、LEDディスプレーとなっている

11年5月、大会議のファイナルの場で超会議の構想が発表されるも、いたずらに時間だけが過ぎた。11年7月には東京・六本木に常設のライブハウス「ニコファーレ」がオープン、この箱を使ったイベントもまた、矢継ぎ早に打ち出す必要があり、スタッフには余裕もなかった。詳細が煮詰まらないまま迎えた11年暮れ、川上は横澤にすべてを託した。

「もう横澤くんに全体をまとめてもらうしかないね」「分かりました。失敗したら責任をとって辞める覚悟でやります」。超会議はドワンゴにとって社運がかかった大事業。その職責は下請けの範囲を超えている。CELLを創業して10年の節目。横澤はCELLをドワンゴの完全子会社とし、自身はドワンゴに移る覚悟を固めた。そして川上は横澤を取締役として迎え入れた。

横澤氏が描いた超会議の企画書。ほぼ、その通りに実現された

横澤は、川上の言わんとすることを翻訳し、文字通り絵に描く作業から始めた。超会議のコンセプトから大まかなゾーニング、ステージやブースでの企画案までをイラスト付きでぎっしりと詰め込んだ1枚の紙を、8時間かけて一気に描いたという。ただ、紙だけでは伝わらない。

何しろ前例のないイベントだけに、スタッフにはイメージすらも湧かない。どうしたら脳内を共有できるのか。いよいよ本番が2カ月後に差し迫った今年2月、横澤は超会議のスタッフ約20人を引き連れ、東京・池袋にあるテーマパーク「ナムコ・ナンジャタウン」へと遊びに行った。「スタッフの共通言語を作りたかった」からだ。

ナンジャタウンの経験を共通言語に

「翌日の打ち合わせからは、『あのアトラクションのあの部分のイメージ』みたいな表現ができて、仕事がすごく進んだ」と横澤は振り返る。ナンジャタウン見学にはもう1つ、理由がある。超会議の起点は、音楽ライブやダンスに偏っていた大会議の反省。ニコ動のすべてをどう地上に再現すればいいのか。ヒントはナンジャタウンにあった。横澤はこう話す。

「ナンジャタウンは昔から好きで、来た人それぞれ、目的や役割が違うんですね。ギョーザを食べに来たり、カップルでデートに来たり、アトラクションをきわめに来たり、それぞれがバラバラ。ニコ動も同じで、ユーザーによって好きなジャンルは違うし、役割も違う。みんなが楽しめるリアルの空間を目指す上で、ナンジャタウンのコンセプトはすごく役に立った」

かくして、超会議は実質わずか2カ月という突貫工事で開催日を迎えた。

幕張メッセには、音楽やダンスだけではなく、あらゆるジャンルのユーザーが集結。手作り品の即売も行われた

4月28、29日の幕張メッセ。巨大な会場の一角でアイドルから素人ユーザーまでが歌ったり踊ったりのステージショウを展開。その傍らで、ボカロ楽曲の作者がCDを、工作好きのユーザーがアクセサリーなどを販売していた。イベントホールでは2日にわたり「超パーティー」というライブイベントが開催され、歌い手、踊り手に加え、ものまねなどニコ生の人気放送主によるパフォーマンスが観客を盛り上げた。一般ユーザーの楽しみ方も千差万別だ。

「中高生はネットとリアルの境目なんか意識しない」

超会議を視察する枝野幸男経産相(中央)と案内するドワンゴの川上量生会長(右)。2人は「クール・ジャパン」がテーマの討論会にも参加した

ライブを楽しむユーザー、大勢で踊りにきたユーザー、カラオケを歌うユーザー、「音楽著作権の未来」といったお堅い討論会を見にきたユーザー……。ニコ動の多様性を現実世界に投影した史上初の「巨大フェス」は、会場の9万人とネット中継を見た300万人以上が一体となって盛り上がり、幕を閉じた。横澤は、こう評価する。

「ネットとリアルに境目はないことを実際に示したという点で、超会議の意義は大きい。というか、僕らは便宜上、『ネットとリアルの融合』とか言っちゃいますけれど、今の中高生は最初からネットがあって、リアルとの境目なんか意識していない。ネットとリアルが地続きであることを初めて目に見える形にしたのが、超会議なんです」

本稿でも便宜上「ネットとリアルの融合」と表現しているが、ニコ動が目指す本質は「ネットとリアルの相互作用」。「ネットとリアルのハイブリッドメディアを作ろうとしている」とも言い換えられる。ニコ動の場合、イベント自体がメディアであり、コンテンツ。横澤はその前衛的な試みを、さらに進化させている。冒頭で紹介したもう1つの"ちょう会議"、ニコニコ町会議である。

きっかけは、またもや川上の一言。横澤はじめスタッフが不眠不休で超会議の準備に奔走していた今年3月、川上は横澤と2人きりの場面で突然、こう言い出した。「今こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど、全国ツアーもやらなきゃいけないよね」……。

「ネットには中央が存在しない」、町会議の意義

ふたたび川上の無茶ぶりを受けた横澤は「ライブイベントを否定して超会議を作った。だから、大会議のように全国を音楽ライブで回るのは僕はイヤです」と返し、こう提案した。「町会議でどうですか?」。超会議は本線で、町会議は複線。併走させることで、相乗効果を高めようという提案だ。

超会議は年に何回もできない上、開催地は幕張メッセなどの大規模展示場に限られる。だが、それでは地方での場が失われ、イベントの継続性も失われる。町会議を超会議のミニチュア版として併走させれば「ちょうかいぎ」という音に2つの意味が生まれ、ブランドも定着するのでは……。ダジャレが発端のアイデアだが、考えるほど深い意味があるアイデアだった。

「開催地は分かりやすく市町村の『町』に限定しましょうよ」「町だったら、(ニコ動でも人気のゆるキャラ)まんべくんがいる長万部町だよね。あと、東京も入れたいから、離島も」「そこは確定として、あとはユーザーから公募しましょうか」。企画概要は川上と横澤のあいだでトントン拍子で決まり、4月の超会議内で発表された。

超会議に続き、町会議でも統括プロデューサーを務めた横澤は、意義をこう語る。「ネットとリアルが相互に作用するハイブリッドなメディアが台頭するだろうとずっと思ってきた。超会議はその象徴的な形だけれど、幕張メッセという『中央』が存在する。でもネットには中央が存在しない。全国であれ、世界であれ、どこでも参画することができる。だから町会議が必要だったんです」

「ニコニコ? ローンは結構」、地元説得に苦心

どの町会議でもニコ動の物販コーナーは人気。「水光呼子港まつり」では長蛇の列ができた(8月5日、佐賀県呼子町)

その思いがあるからこそ、横澤は徹底して「地方という表現は絶対にするな」とスタッフに厳命した。例えば「地方を回る」じゃなく「全国を回る」にしろと。「どんな小さな町から発信していても、ネットでは関係ない。そこにいるユーザーからすれば、そこが中心。僕らも、そこを中心に全国へ生中継する。だから言葉遣いにはこだわりました」

7月上旬には全国5カ所が決定。決め手は当地の夏祭りと日程が合うかどうか。横澤にとっての心配は集客であり、解決法が地元の夏祭りとの共催だった。ただし一筋縄ではいかない。「スタッフが役場などに電話したら、『ニコニコ? ローンは結構』と言われて切られたことも。やはり年配の方への浸透度は低く、苦労しました」

超会議に比べ、町会議の規模は格段に小さい。その分、企画の詰めや人気ユーザーのブッキングなど準備は楽だが、超会議にはない難題に手を焼いた。横澤が命じたのは「とにかく行って、握手して、酒を酌み交わせ」。スタッフが全国に散らばり、役場や地元の観光協会をまわっては、食事に誘う日々が続く。その甲斐あって、無事に日程が決まっていった。

鳴子町の町会議には古川康県知事も登場。自身がニコ動の有料会員であることを明かすと、ネット中継の視聴者は一斉に盛り上がった

7月29日、鳥取県八頭町の「きらめき祭」との共催から町会議はスタート。町長とのテープカットと、地元グループによる太鼓演奏から始まった祭りは、昨年の来場者数の2倍となる約5000人を集めた。事前に新聞5紙が取り上げ、当日は2つのテレビ局が取材に訪れるなど地元メディアも注目。用意したニコ動関連グッズは、ほぼ完売だ。

続く祭りも同様に盛況で、第2弾の佐賀県鳴子町(現・大崎市)の「水光呼子港まつり」との共催には、ニコ動ユーザーを自認する知事の古川康が急きょ参加、盛り上げに一役買った。ただし、夏の全国ツアーの締めくくりとなる伊豆諸島の離島、八丈島での町会議は、共催ではなく単独開催。アクセスが困難ということもあり、ほかの町会議とは一風違った光景を見ることができた。

島の中高生がつなげた輪

八丈島の町会議は10万人が収容可能という広大な公園で単独開催。背景には八丈富士がそびえる(8月30日、東京都八丈町)

まだ南国の日差しがきつい8月30日、八丈島随一の公園に、広さを持て余すように町会議のステージやテントが並んだ。島の人口は8300人。うち20~30歳代の多くは本土へ出てしまうという。多くの島民からすれば意味不明なイベントで、人はまばら。スタッフの顔にも焦りがにじみ出た。

しかし、島にもニコ動の熱狂的なユーザーはいる。中高生たちだ。

会場に1番乗りしたという3人の女子高校生のお目当ては、人気ユーザーの「みうめ」さん(左)。夜の本番に備え、熱心に振り付けを習っていた

沖山琴音(16)、長田未来(16)、菊池李莉子(15)は保育園からの仲良しで、島唯一の八丈高校に通う同級生。この日を楽しみに会場へは一番乗りし、3人はニコ動で人気の踊り手「みうめ」と一緒にダンスをする出し物に応募した。「みうめさんはあこがれの人」「ニコ動は部屋に籠もってずっと見ちゃう」「勉強にならない」と口々に話す。

彼女ら中高合わせてわずか450人という島の子どもたちが集客に一役買った。口コミで広め、両親や祖父母を連れてきたのだ。日が暮れ始めると徐々に人が増え、昼間にはないにぎわいを見せた。フィナーレは島伝統の盆踊り。力強い八丈太鼓のリズムに乗り、ニコ動の人気ユーザーと島民が一体となって盛り上がった。

八丈島からの中継の視聴者数は町会議で最高となる延べ21万3000人。ネットのユーザーもコメントで合いの手を入れながら楽しんでいた。むろん、ドワンゴやニコ動ユーザーにとってのみ、よかったわけではない。

「また来年も来てください」と地元が感謝

日が暮れるにつれ、熱気を増した八丈島。人気ユーザーと地元民が一体となって盛り上がった

横澤は、地方活性をうたうのはおこがましいと言うが、蓋を開ければ地元から「また来年も来てください」と感謝された。八丈島でも同じだ。盆踊りが終わった後、熱気が残るなか、八丈島観光協会会長の宮代昌秀はこう話した。

「外からの話は抵抗感を感じてしまう。これが島民性なんですね。役場の方でもいろいろと厳しい判断があった。でも、徐々に輪になってつながり、ご覧の通りの盛り上がりになれる。これも島民性。今回、外からの新たなネット社会にじかに触れることで、子どもたちにとっては今後の何かにつながる大きなきっかけになった。大人にとっても、外につながっているんだという認識、外に発信していくんだという非常にいい気づきをいただけた。非常に感謝しております」

その夜、打ち上げで多少の酒が入った横澤は、感慨深げにこう言った。「集まれば強くなる、を肌で感じることができた。価値観を共有している人間が集まれば大きな力になるし、何かを変える可能性はあるなと。みんながいたから佐賀知事が来てくれたし、みんながいたから盆踊りが盛り上がった。それが結果として町おこしにつながるのであれば、本当にうれしいことです」

町会議を終えた横澤の頭は、すでに新たな仕掛けの準備でいっぱいだ。1つは町会議の定例化。横澤は町会議を夏祭りや町に限定せず、常時全国各地をまわる「入れ物」として育てるつもりだ。

町会議は「何でもありのインフラ」、学園祭めぐりにも流用

「町会議は、全国とつながる『リアルメディア』としてブランド化することで、今後、いろんなところと組めると思っているんですね。地元の行政や会社も参加できるし、東京でやっていることも持っていける。そして、中継を通じて全国とリアルタイムでつながれる何でもありのインフラ。僕はそれが作りたかった。可能性はすごくある」

こう町会議の行く末を話す横澤は、冒頭の松江市でのイベントで、その一歩を踏み出した。さらに、この10月中旬からは町会議の学園祭版、「ニコニコ文化祭キャラバン」という出張イベントも開始する予定。企画内容やオペレーションなど町会議の枠組みを流用する計画だ。

もう1つ。横澤は「超会議2」の準備にも追われている。

今年8月、来年も4月27、28日に再び幕張メッセで超会議が開催されることが公表された。

今年4月の超会議の開催中、川上は「来年は絶対にやらない。やれない」と公言していたものの、水面下では幕張メッセの予約を取り付けていた。「やれない」としていた大きな理由は赤字とスタッフの疲弊。しかし、会場に訪れた9万人を目の前にした川上は、気が変わったようだ。川上が強調する赤字にも、からくりがある。

超会議は4億以上の赤字、「超会議2」で圧縮目指す

ニコファーレで記者を相手に超会議の収支報告などを行う川上会長(左)と夏野取締役。赤字額の大きさに、ネット中継でも多数の突っ込みが入った

今年7月18日、ドワンゴは超会議の最終報告発表会をニコファーレで行った。壇上の夏野が「あまりやりたくないんですけど」と言いつつ赤字額が4億3000万円だったと公表。川上も「1億くらいの赤字だろうと思っていたけれど、成功するためにこれは必要だろう、あれも必要だろうと積み上げたら、こういう結果になった」と説明した。ただ、額面通りに受け取ってはいけない。

横澤いわく「劇場型ウェブサービス」のニコ動はユーザーからの課金収入で成り立っており、昔からユーザーに共感してもらう術を身に付けている。経営すらもネタにするドワンゴにとって、赤字を巻き返す課程もコンテンツの一部。だから、わざわざ強調する。ただし、赤字額は、経費からリアルとネットのチケット収入、物販収入、スポンサー収入を差し引いたもの。そのほかの「効果」は勘案されていない。

効果には、ユーザーの満足度を高め、ニコ動ブランドをさらに強固にする販売促進効果、そして、広告宣伝効果がある。超会議の取材に訪れたメディアは、国内外合わせて543。ウェブ媒体を中心にテレビや雑誌などにも波及した。ドワンゴ内部で同等の露出を広告宣伝費に換算したところ、その額は5億円を超えた模様だ。

とは言いつつ、2回目をやるからには興行単体として成立させるべく、今年よりも赤字額を減らすことは至上命令。横澤は今年を超える驚きを演出するというプレッシャーと、赤字額を億円単位で減らすという2つのプレッシャーと戦っている。

「川上がいなければドワンゴにはいない」

「僕はコンテンツホルダーとの交渉はずっとやってきているから、ある程度、勘所が分かるんですね。でも企業相手の営業ってしたことがない。超会議の赤字を減らすには、企業協賛を募ればいい。シンプルなんですけど、何か気恥ずかしいというか、すみませんみたいな。だけど、僕は統括だから、僕がやらなければいけない。必ず驚かせてみせますよ」

横澤を育て、気づきを与えてきたのは川上にほかならない。横澤は、師と仰ぐ川上をこう評する。「川上のミッションがあまりにも面白すぎて、クリアしたくなっちゃうんですよね。クリアした先に何が待っているんだろう。これを実現したら、あの人はもっとすごいことを考えるんじゃないかって。それがなかったらドワンゴにはいない。意味がないんで」

川上と横澤。ニコ動の本当の強さは、この師弟関係なのかもしれない。前例のないことを次々とやってのける2人の快進撃は、しばらく続きそうだ。

(電子報道部 井上理)

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