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モノづくりVB、成功の3法則 フォーカス・シンプル・センス

私が留学のため渡米した2001年、貧乏学生だった我が家の最初のテレビは、大手ディスカウント店、コストコ(COSTCO)で購入した武骨な韓国サムスン製だった。大手の家電販売店ベストバイで売っているソニー、パナソニックやシャープのおしゃれな日本製のテレビは高すぎて手が出ず、いつか手に届く日が来るのだろうかと思ったのをつい最近のことのように覚えている。

伊佐山元(いさやま・げん) 1973年2月生まれ。97年東大法卒。日本興業銀行からスタンフォード大学ビジネススクールに留学し、ベンチャーに目覚める。現在、米大手ベンチャーキャピタルのDCM本社パートナーとしてITサービスやネットメディアの投資を担当。日米のテクノロジーベンチャーを発掘し、世界に広めることを生き甲斐とする。プライベートでは子供にゴルフを教えながら頭と心を鍛えることを趣味とする。

そのころのネットでの検索はもっぱらヤフーやエキサイトといった大手ポータル経由。スタンフォードの学生にグーグルという便利な検索ツールがあると紹介された時には、正直あまりの簡素さに戸惑った。

最初に買った電話も北欧のノキア製で、それこそ小さいレンガの塊のような不細工な携帯だった。日本の薄くてデザインの美しい携帯電話に慣れていた私には、世界の携帯電話は日本に10年は遅れていると、優越感に浸り、日本のハイテク産業のすごさを大学院の同級生に自慢したものだ。

2012年、格安店のコストコではシャープやパナソニック等日本製のテレビが一番目立つ入り口においてある。ベストバイの店内はサムスン、LGなど韓国製のテレビが半分以上のスペースを占領している。

筆者宅の近所にあるベストバイの店内写真。日本製も陳列されているが、明らかに韓国製家電が優位の薄型テレビコーナー(筆者撮影)

ネットの世界でもヤフーは今や過去の会社の代表格で、グーグルやフェイスブックがシリコンバレーを席巻している。携帯電話の世界でいえば、5年前には存在もしなかったアップルのiPhone(アイフォーン)が、市場の3割を占めるまでに躍進して、あの格好良かった日本製品は、いまだに世界の市場で日の目を見ていない。

ハイテク産業の栄枯盛衰

質素に見えても不思議と毎日使ってしまうサービス。そのデザインや質感が素晴らしく、持っているだけで気持ちが高揚するような商品。ハイテク業界に限らず、そんなモノやサービスを開発した先には大きなビジネスの成功と社会の賞賛が待っていることを、アップル社は証明してくれた。

5年前まではデザイナーやエンジニアといった一部のファン層をとりこにすることがコアのビジネスであった大企業が、アイフォーンという誰もが使える一つの商品をきっかけに、時価総額を100倍にもして、世界一価値のある会社なった。

しかも、発売当初アイフォーンは既存の携帯メーカーからも、著名なコンサルやアナリストからも絶対に失敗するといわれていた。決して商品が斬新で、真新しかったわけではない。むしろ、日本の製品やデザインをヒントにして、そこに新しいライフスタイルを提案し、すでにあった要素を組み合わせて出来上がった製品である。

当然、「組み合わせの妙」は言葉でいうほど単純ではないが、そんなアップルの躍進は、挽回の兆しが見えずに苦心する日本の電機大手含め、未来への成長に悩む世界中の多くの企業やベンチャーにとって大きな励みと希望である。

私の専門とするハイテク業界がそれだけ流動的で、栄枯盛衰が早いということは、投資家としては大きなチャンスでもある。つまり、挑戦者には誰にでも成功のチャンス、逆転のチャンスが与えられているということだ。

今日のように安価にモノを設計し、プロトタイプを作成し、実際に少量でも生産して世界中に販売する手段が確立すると、このチャンスは、一介のモノづくりベンチャーにも与えられるという意味でもある。実際に、次のアップル、ソニー、サムスン、トヨタ、ホンダを夢見ているベンチャーの数はシリコンバレーで増えている。

今回は、私が実際に出会って、投資を検討し(そのいくつかには実際に投資した)、成功したベンチャー(主にモノづくり系)で感じた共通点をご紹介したい。

勝者の特徴 その1:フォーカス(Focus)

私の出会った多くの成功した起業家は、"razor focus" "hone in"といった言葉を多用する。Razorは剃刀(かみそり)、Honeは砥石という名詞だが、両表現とも極度に集中する、フォーカスするという意味である。それこそ、鋭い刃のようにある分野の技術、ビジネスに集中するのだ。

我々ベンチャーキャピタリストも、起業家に会うたびに、"Focus Focus Focus"と呪文のように唱えている。つまり、ベンチャーの成功の秘訣はその商品やサービス、ビジネスモデルのフォーカスにあるというわけだ。

一方で、総合デパート型モデルは、正反対だ。過剰機能、過剰品質。技術的な優位は誇れても、それを利用する消費者には難しく見えてしまう。より多くのニーズにこたえようとする姿勢は一見正しいようでも、デンマークのことわざにもあるように、多くの人の意見に基づいて家を建てると不格好になるという結果になる。(He who builds according to every man's advice will have crooked house)

グローバルで国境なき時代では、いかに多くの選択肢の中から際立つ異彩を放てるか、人を魅了するものがあるかで成功は決まる。これは大企業も、ベンチャーも、我々個人も同じだ。100人並んだ時に際立つ特徴やストーリーが求められる。

特にベンチャー企業にとっては深刻な問題である。我々ベンチャーキャピタルから出資を受けるためには、我々が年間数百社出会うベンチャーの中の、片手に入らなくてはならないからだ。また、投資を受けた後も、少ないリソースで大企業や他の同業ベンチャーと競争しなくてはならない。そもそもフォーカスがなければ勝負にもならない。

勝者の特徴 その2:シンプル(Simple)

フォーカスした先に待っているのは、おのずとシンプルな商品やサービスである。フォーカスで、徹底的にシンプルにした商品が世界一の会社を生む。

しかし、この「シンプル」というものは、その言葉が意味するところとは反対に、実行が難しい。

私が過去も現在も支援しているベンチャーの多くは、目新しい技術やビジネスモデルで勝負をしているので、最初に作るプロトタイプやサービスは大半が過剰機能で、説明が極めて難しい作りになる。そこから機能を削る作業が始まる。

それこそ、製品を作り上げてきたエンジニアや経営陣にとっては身を削るような思いで、一つ一つ機能を絞り、多くの消費者に受け入れられるような製品やサービスに仕立て上げ、一方で会社の特徴を味付けして世の中に出すのである。

A: nest (スマート温度計)        B: Sling Media (ロケーションフリーテレビ)-投資先

C: Fisker Automotive (電気自動車) D: Basis (健康維持腕時計)-投資先

E: Tesla Motors (電気自動車)     F: Jawbone (携帯用ヘッドホン)

G: Lytro (ピンぼけしないデジカメ)  H: Miselu (電子ピアノ)

I: Jambox (無線式スピーカー)     J: Pebble Watch (スマートウオッチ)

K: Flip Video (デジタルビデオ)     L: Lit Motors (電気バイク)

M: Ouya (ゲーム機器)

私が実際に投資して成功した会社や、今注目を浴びているモノづくりベンチャーが世に送り出した製品は、驚くほどシンプルなデザインで、機能を絞っているものが多い。(上記写真を参照)

余計な機能を排除した徹底したユーザー視点のものづくり。考えてみれば、携帯電話の機能をすべて使ったことがあるだろうか?実感として、家にある家電製品の機能は20%使われているが、その他の80%は必要ないかもしれない。むしろ説明書を分厚くして、消費者を混乱させている感もある。

これだけ情報過多、刺激過多の時代に我々が求めているのは、シンプルで必要な機能だけを簡単に取り出せるサービスであり、商品である。

外から見た日本は、実はすでに何でもそろっている国である。私から見れば、どの電機大手も、単体のベンチャーになる素材と人材を多く抱えているようにも思える。

それを生かす一つの方法は、徹底的に解体できるところは解体して、それぞれのユニットにフォーカスとシンプルを徹底させる。そんな単純なことかもしれないと考えている。

勝者の特徴 その3:センス(Sense)

今日のように簡単にサービスや製品がコピーできる時代になると、ハイテク業界ではますます製造する能力の勝負から、ブランド力やデザイン力といった感性に訴える力がますます重要になる。

既述のモノづくりベンチャーも、よく話題にあがるスクエア(電子決済)、ドロップボックス(クラウドストレージ)、インスタグラム(モバイル写真アプリ)といったインターネットベンチャーも、簡素なユーザーインターフェースと簡単な操作性、そして万人受けするすっきりとしたデザインで成功している。

純粋な技術力や製品の品質で勝負できた時代は、特許や職人の腕が勝ち負けの大きな要素を占めた。

しかし、最近のベンチャーの商品やサービスの企画には、心理学や統計学、素材や色彩学の知識が不可欠になってきている。利用する人間の理解を深め、その感性に訴える勝負という、極めてアナログなセンスや能力が問われる時代になっている。

思えば、これは昔から日本企業、日本人が得意とされている分野ではないか。私は常々、ブランド=信頼、デザイン=文化と考えている。だとすると、その両方に長い歴史と世界的評価を得ている日本にとって、今ほどの好機はないと考えるのは、少し楽観的すぎるであろうか?

先日もある起業家の集まるパーティーで、参加する外国人に日本と聞いて何をイメージすると聞いてみた。すると、不況だとか政治がだめだという話は一切なく、食事やサービスのクオリティーが素晴らしい、社会が安定していて、通りすがりのどの人も親切で信用できる、世界一おしゃれという答えが返ってきた。

多少お世辞はあったとはいえ、国内にいて見える日本像とはまるで違う。感性の時代。それは我々日本人にとって極めて大きなチャンスのはずだ。

意外かもしれませんが、シリコンバレーの海岸です。この海の先には日本が……(筆者撮影)

最後はリーダーシップ次第

最近日本に出張して経営者や幹部と話していると、大半の日本企業にとって「変えなくてはならないこと」「やるべきこと」はすでに明確になっているという印象だ。ただ、それも実行できなくては、ただの絵に描いた餅にすぎない。どんなに素晴らしい戦略やアイデアも、実行力次第である。

その意味で、"こんな人がベンチャー起業家として大成功する"のコラムで書いたような、強烈な個性や動機を持った経営者の実行力、つまりリーダーシップが不可欠である。

見渡してみよう。世界全体が不況と不安で包まれる中、世間から見ても何となく元気のある企業には一つの共通点がある。

日本でいえば、ソフトバンク、楽天、ユニクロ、トヨタ、日産自動車、日本マクドナルド等々。シリコンバレーでいえば、グーグル、フェイスブック、セールスフォース・ドットコム、オラクル等。それぞれ、強烈な個性とリーダーシップを持つ経営者が指揮をとっている会社ばかりである。

フォーカス、シンプル、センスに強いリーダーシップが掛け合わせることで、日本からも世界中を熱狂させるような製品やサービスが生まれることを願わずにはいられない。

在米ベンチャーキャピタリスト 伊佐山元 (e-mail: gen.isayama@gmail.com)

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