2019年8月18日(日)

この夏に読みたい10冊 1~7月書評閲覧ランキングから

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2012/8/11付
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■歴史小説は黄金期の入り口に

歴史が時代を映す鏡ならば、時代小説は時代の光を最も反射する鏡の一つだろう。直木賞候補作となった短編集「城を噛ませた男」(伊東潤著、光文社、3位)は小心、保身、気まぐれな主君に振り回されながらしぶとく生き残っていく戦国の男たちを描いた作品だ。古戦場や城跡を現地で丹念に調査し、幾種類もの史料を読み込んだ筆者の姿勢がリアリティーあふれる設定を生んでいる。今は歴史小説黄金期の入り口にあるのかもしれない。それほど毎年良質な作品が相次いでいる。著者も「ポスト司馬遼」候補の一人か。残念ながら龍馬のような未来志向の明るいキャラクターは出てこない。実力がありながら組織と時代の流行の中で翻弄される主人公を乾いた筆致で描く。それが東京・丸の内などオフィス街での売れ行きが際立つというこの著者の背景につながっている。

■男性にこそ読んでほしい「働く女性」

9位の「働く女性 28歳からの仕事のルール」(田島弓子著、すばる舎)は3度の転職を果たした著者のキャリアが重みを持つ。ただ女性の部下を持った男性にこそ読んでほしい本でもある。日ごろはこちらを圧倒するほど優秀な彼女ら。しかし時々不思議な感覚に包まれているようにも感じる。そのナゾが一瞬だが分かったような気になった。10位、「会社員とは何者か?」(伊井直行著、講談社)は夏目漱石から現代まで「会社員小説」をキーワードにした文学評論だ。

            

最後にイチオシの1冊を。「明日もいっしょにおきようね」(絵・竹脇麻衣、文・穴澤賢、草思社、5位)は頼りにならない若い女性とあまりかわいくない猫との物語である。しかし理屈抜きで慰められる。ペットを飼っている人だけではない。日ごろ肉親の介護に心を砕いている皆さんにも一読をお薦めしたい大人の絵本だ。

            


◆自著を語る――3位「城を噛ませた男」の伊東潤氏
 小説の登場人物は無名ながら実在の人物。ただ一級史料にはほとんど活躍が記されていない。軍記ものに当たったり、実際の合戦場を見たりして実際にあり得たであろう可能性が高いストーリーに仕上げるようにしています。今の読者は要求レベルが高いですから。5作の短編を収録していますが文庫本にする時は第2章と4章の順番を変えようかなと。その方が読者にスーと読んでいってもらえるかなと考えています。
 手に取ってくれる読者は多くは30歳、40歳以上のビジネスマン。自分は純粋な文学青年ではなく、外資系企業で営業をしていた経験があるからそうなるのかな。映画化原作の作品に他の場所では負けていてもオフィス街の書店では多く売れていることもあるようです(笑)。次回作はWeb版で北条早雲を。出版物では今川氏真らの短編集を出します。戦国時代の「負け組」は本当に負けていたのかを見直そうというものです。

(電子整理部 松本治人)

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