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イノベーションの「仕掛け人」、VCと起業家が経済を活性化する

シリコンバレーの風(5)

「在米ベンチャーキャピタリスト」――。この肩書を見て、どれだけの読者の方に私の職業を正確に理解していただけるであろうか?

伊佐山元(いさやま・げん) 1973年2月生まれ。97年東大法卒。日本興業銀行からスタンフォード大学ビジネススクールに留学し、ベンチャーに目覚める。現在、米大手ベンチャーキャピタルのDCM本社パートナーとしてITサービスやネットメディアの投資を担当。日米のテクノロジーベンチャーを発掘し、世界に広めることを生き甲斐とする。プライベートでは子供にゴルフを教えながら頭と心を鍛えることを趣味とする。

実際に、私の子供は「お父さんの職業は?」と聞かれて「"VC(ブィーシー)"、良くわからないけど、色々見たことない製品やサービスを試せて楽しそう」と言い、妻は「なんだか分からないけれど、色々な人と会って人生相談にのっているみたい」と答える。

友人からは「なんだか儲(もう)かりそうで、すごそうだな。で、何をやっているの?」といった具合である。

「ベンチャーキャピタリスト」とは何者か?

実は、これらの回答は、VC(ブィーシー)、すなわちベンチャーキャピタルの仕事のエッセンスをうまく捉えている。

つまりVCの仕事は、「新しい技術やサービスなど、新鮮な刺激や出会いを求めて世界中を動き回り、多くの起業家たちと夢を語り、投資を通じて彼ら彼女らのアイデアをビジネスに変え、株式上場し大企業に成長させることで、社会にインパクトを与える」という一連の作業の繰り返しである。

筆者が勤務するDCMオフィスの入り口。建物が美術館を兼ねているという変わったオフィスです(筆者撮影)

日本のウィキペディアによれば、次のように定義されている。

「ベンチャーキャピタル(Venture Capital、略称VC)とは、ハイリターンを狙ったアグレッシブな投資を行う、投資会社(投資ファンド)のこと。主に高い成長率を有する未上場企業に対して投資を行う。彼らは、資金を投下するのと同時に、経営コンサルティングを行い、投資先企業の価値向上を図る。担当者が取締役会等にも参加し、経営陣に対して多岐にわたる指導を行う」

正直これは、かなり誤解を招きそうな表現である。まず「ハイリターンを狙うアグレッシブな投資」という表現が、何だか胡散(うさん)臭さと悪そうな雰囲気であふれているように感じるのは私だけであろうか。

また、「高い成長率を有する未上場企業」という説明も、分かるようで意味不明だ。最後の「経営者に指導」というのも、ずいぶんとぞんざいな表現だ。せめて「支援」だろう。

DCMオフィスの駐車場。実はものすごく田舎です(筆者撮影)

英語のウィキペディアだと、「創業間もないハイポテンシャル・ハイリスクの成長企業への投資で、通常斬新な技術やビジネスモデルを持つIT(情報技術)やバイオテックの業種が多い」とある。まだ、まともな表現だ。

私なりに実態を要約してみる。

ベンチャーキャピタリストは、将来多くの人間や社会に役に立つ、または利用されそうな技術やサービスの原石を見つけ、それを事業化しビジネスにするまでの資金を株式と引き換えに投資する。

大株主になる一方で、社外役員として人材の紹介、他社・他業種との連携や交渉の支援、事業戦略の提案、さらなる資金の調達など多方面で協力し、ベンチャー企業の良き相談役になる。時には経営陣が聞きたくないことを言う憎まれ役にもなる。

典型的なベンチャー企業のオフィス風景。DCMの投資先の一社(筆者撮影)

そうした試行錯誤の積み重ねで、最初は数人の会社が、数十人、数百人の雇用を生んで組織体となり、売り上げや利益を生み、証券市場で上場または大手企業に買収されることで、投資された資金は何倍にもなって我々ベンチャーキャピタルに戻ってくる。

あるベンチャー投資の物語

当然これはうまくいった場合の話であって、投資先で上場までたどり着くベンチャー企業は、全体の数パーセントという世界である。ただ、成功したときの感動とロマンを求めて、我々ベンチャーキャピタリストは新しいダイヤの原石を探して日々奔走する。

では具体例で説明しよう。

過去の投資先であるスリング・メディア(Sling Media)という米国のベンチャー企業の物語である。創業メンバーの兄弟が、大好きな地元の野球チームの試合が、仕事で他州や海外に出張しているときにテレビで視聴できないという不便を解決したいという思いで設立された。

「自宅のTVを世界のどこからでも見たい」

どうしたら自宅のテレビを世界中のどこからでも視聴できだろうか――。こんな課題に対し、インターネット回線と高度な画像転送の技術を利用して、自分のパソコンや携帯電話へ再配信する仕組みを作ろうという構想を描いた。

ベンチャー企業には"お約束"の卓球台とマッサージチェア(筆者撮影)

我々が投資した当時は、創業メンバー数名で、プロトタイプがある状況。コスト削減のため、開発の一部はインドに外注していた。初めて会社を訪問した日は、あまりきれいとはいえないインドのテレビ番組の画像が、米国のオフィスにあるパソコンの画面にリアルタイムで送信されていた。

投資するにあたっては、著作権の問題や消費者の期待に応える品質で製品化できるかどうかなど不安は多分にあった。しかし、投資後は優秀な人材を紹介し、いかに同社独自の消費者受けする商品にするかという議論を日夜続け、量産化するための資金も追加で提供し、大手の量販店に販売をお願いし、全米だけでなく欧州でもヒット商品になった。

いまだに覚えているのは、いかにこの商品にアップル社の製品に感じるような、質感や心が躍るようなテイストを加えるかということをまじめに議論したことであった。

"How to give emotional excitement and attachment to the product?"

単なる家電製品ではなく、そのデザインや、テレビの横に置いたときの存在感までも気にして真面目に議論する。私は投資家の立場でありながらも、そんな議論に入って真剣に語り合った体験は、一生忘れないだろう。結局、最初の製品がアメリカ人の大好きなチョコレートの形状で、メタリックな色に落ち着いたのには、そのような背景がある。

同社は、投資してから3年後の2007年に米大手のCATV会社のエコスターに3億8000万ドルで買収された。最初の投資からわずか3年で数百人を超える企業に成長し、製品は全米で認知される大ヒット商品になり、我々VCは多くの利益を得ることになった。

スリング・メディア社が開発した初代「スリングボックス」。懐かしい……

ここで私が得た最高の経験は、投資で大きなリターンを得たという事実に対しての喜びよりも、何より消費者に感謝され、わくわくさせるような商品が世の中に生まれる瞬間を見た感動にある。それこそがVCという仕事の真の醍醐味だと思っている。

ベンチャーキャピタルの役割、革新の「触媒」

米国のVCは自分たちがイノベーションの触媒である、IT革新のエンジンである、米国経済の成長力の源泉の仕掛け人である、雇用の供給者である、という高い自負心を持っている。そのうえで、投資という活動を通じてベンチャーの支援を続けている。

つまり、単なる資金運用というようなスケールの小さい発想ではなく、我々はいつも社会に衝撃を与え、人々の生活や行動を変化させるような技術やサービスを世の中に生み出す可能性のあるベンチャーを探し求めている。

日本でも、景気低迷と社会の閉塞感が漂っている今であるからこそ、VCとベンチャー起業家が立ち上がり、新しい産業の育成や社会の活性化に寄与するような循環を作らなくてはならない。

次回は実際に米国のベンチャーキャピタルが社会にどのような貢献をしているのかを解説することで、ベンチャーの社会的な意義についても考えてみたい。

"We are here to put a dent in the universe. Otherwise why else even be here?"

(我々は宇宙に衝撃を与えるために生きている。そうでなければ、何のための人生か?=故スティーブ・ジョブス氏、アップル創業者)

(在米ベンチャーキャピタリスト)

(「シリコンバレーの風」は原則月曜日に掲載します)

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