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10年越しの「デジタルハブ戦略」、マイクロソフトが新サービス

ゲームジャーナリスト 新 清士

米ロサンゼルスで先週開催されたゲーム展示会E3で、マイクロソフトは「Xbox Smart Glass」というゲーム機の枠組みを超えたサービスを発表した。ゲーム機「Xbox360」を使い、テレビやスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)、タブレット端末などをコントロールしたり、セカンドモニターとして利用できる機能だ。

「SmartGlass」の映画イメージ(公式サイトより)

対応するスマートフォンには汎用性の高いHTML5の技術が使われている。「Windows Phone」にくわえ、米アップルの基本ソフト(OS)「iOS」を搭載した「iPhone」などの端末、米グーグルのOS「Android」を使った端末などマイクロソフト製品以外でも利用できるようにする予定だ。

これは、リビングルームでの中心となるコンピューターを誰が握るのかという、競争がさらに激しくなってきたことを示している。

この分野ではアップルがiPadとアップルTVで参入の準備を進めており、すでに争いが始まっているが、マイクロソフトは早ければ今年の後半にも発売するといわれている新OS「Windows 8」に全製品を統合して、業界をリードしていこうという意欲を感じさせるものだった。

Xbox360を通じたスマートTV化

iPhone、iPad用には、すでに「MyXboxLive」というアプリが提供されており、最新の動画へのリンク、Xboxの自分のアバターやゲーム内の実績、友人へのメッセージを送る機能が実装されている。

マイクロソフトは記者説明会で、簡単な操作で映画をレンタルできるデモンストレーションを行い、タブレットで操作したり、映画の詳しい情報を表示したりと、リッチな情報端末として利用できる可能性を見せた。

またゲーム利用では、アメリカンフットボールのキャラクターの戦術操作をタブレット端末で操作できる機能を見せた。Xbox360をテレビに接続すれば、簡単にスマートTVに変化させてしまうというわけだ。

Xbox360用YouTube(公式サイトより)

これは、任天堂が年末に発売する予定の「Wii U」のように、自社のハードウエアにセカンドモニターを接続する方式ではなく、他社も含めすでに普及しているハードウエアやサービスを巻き込むことで、効率よく自社のゲーム機の優位性を保とうという戦略だ。

Xbox360をWindows 8に統合する戦略は、昨年11月に「YouTube」のアプリケーションを利用できるようにしたことで、その方向性が鮮明になっていた。Windows 8で刷新される新しいユーザーインターフェースの「Metro」デザインに切り替え、操作性を格段に高めている。

パソコンで「登録チャネル」を指定したり「後で見る」を選んでおいたりすると、その番組が次々に再生される。ハイビジョン画質でアップロードされている場合には、それを自動的に選択するようになっており使い勝手がよい。

興味深いことに、日本のXbox360のサービス内では、今年のE3に関する情報の更新がまったくない。米国で3700万台(全世界では6700万台)を販売し好調であることを考えると、日本での販売台数(150万台程度)は極めて少ない。かつてはE3に合わせて日本でも様々な動画やデモが発表されていたが、今では日本の市場が立ち上がらない状態が続いている。

「Need For Speed Most Wanted」公式ページ

しかしYouTubeのアプリを使えば、いくらでもE3関連の動画を見ることができる。例えば、発表されたレースゲーム「Need For Speed Most Wanted」(エレクトロニックアーツ)のトレーラーは、ゲームのプレーヤーが操作している画面で表示されているため、Xbox360を通じて見るとゲームプレー画面そのものと印象が変わらない迫力だ。

マイクロソフトは自社の動画投稿サイト「Soapbox」を展開していたが、09年には撤退している。その代わりに、ライバル会社のグーグルのサービスであっても、積極的に取り込もうという姿勢に切り替えている。

開発コストの上昇とライフサイクル短縮のプレッシャー

米ハーバード大学のヘンリー・チェスブロウ教授の「オープンビジネスモデル」(翔泳社)によると、今、産業全体には大きな2つのプレッシャーがのしかかっている。

ひとつは開発コストの上昇だ。インテルでは1986年に半導体工場を建設する際に3000万ドルをかけていたが、06年には30億ドル以上にまで跳ね上がっている。

もうひとつは、それにもかかわらず製品のライフサイクルが短縮していることだ。いうまでもなく、ほぼ毎年のようにチップ性能や、カメラ、動画撮影、インターネット接続などスペックが向上しているスマホでは、最新技術といえども2年もたつと陳腐化してしまう。

ハードウエア以上にソフトウエアの技術革新はすさまじい。わずか3~4年で全世界に交流サイト(SNS)の「フェイスブック」が広がり、その上で展開されるソーシャルゲームが既存の家庭用ゲーム機ビジネスの根幹を揺るがすまでになった。

Xbox360に新規に対応したチャンネル(公式サイトより)

そのため、ひとつの企業のなかでイノベーションを管理する「クローズド・イノベーション」のスタイルによる開発の継続が難しくなっている。

Xbox360がYouTubeを積極的に利用する背景には、オープン化が進む技術やサービスを取り込み、一方で、自社が有利な分野に注力していくという戦略に切り替えるほうが得策であるという判断がある。

もちろん、ユーザーにも技術を開放し、データそのものを生み出してもらう。アップルやグーグルのように開発環境を公開して、多くの開発者の参入を促し、自社単独では難しい開発速度を実現するというのも一つの戦略だ。またSNSのようにユーザー自体が書き込みなどを通じてコンテンツを生産するのも一つのアプローチだろう。それによってイノベーションの速度を高め、肥大化する開発コストを引き下げるのが狙いだ。

自社で開発のすべてを管理してゲーム機を5年単位のサイクルで更新するビジネスモデルは、多種多様なサービスをカバーするには効率が悪くなりつつあるのだ。

大きな損失を生み続けてきたゲーム機ビジネス

マイクロソフトは01年に発売した「Xbox」で、ゲーム機をリビングルームのデジタルハブとして育てる戦略を掲げてきた。しかし、当時のソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステーション2」との争いに負け、4年間で37億ドルもの損失を生んでいる。

05年の「Xbox360」では、何としても「プレイステーション3」よりも先に発売する目標をたてハードウエアに設計上の欠陥があるにもかかわらず発売を断行。そのため製品の24%が2年以内に故障するという事態を生み、不良品交換のために10億ドル以上の損失を被った。これが品質に敏感な日本市場での失敗の要因になった。そのため、Xbox360の事業が、本当に収益を上げているのかどうか、わからないような状態に陥っていた。

ただ昨年は「Kinect」によって普及台数が増え、11年第2四半期(10~12月期)のエンターテインメント&デバイス部門の売上高は前年同期比で15%増の42億4000万ドルとなるなど、年末商戦で大きな成功を収めている。特に米国内での成功には自信を深めている。

達成が見えてきたマイクロソフトの10年越しの目標

マイクロソフトは数年前に「デジタル・エンターテインメント・ライフサイクル」というチームを設立した。テレビを見る、ストリーミングで音楽を聴く、映画や写真、ビデオなどゲーム以外のコンテンツを楽しむための「デジタルハブ」を生み出す環境を整えるための専門チームだ。

Xbox360とKinect

そのチームの成果が、今回の「Smart Glass」として姿を現したのだ。

Xbox360の後継機種に関する噂が流れ始めており、一部の企業に対しては初期情報の開示が始まっているようだ。しかし、その高性能さを理由に、ユーザーが買い替えることはないだろう。家庭用ゲーム機だけでなく、スマホやタブレット端末もどんどん性能が変化していくため、それらを取り巻くデバイスも、性能が違うものが混在する状態が一般化してくるだろう。

ゲーム機をめぐるマルチモニターの時代は、「Wii U」のようにスペックを固定した専用のハードウエアが有利になるのか、それとも、サービスやハードウエアの変化を前提とした方法が有利になるのか、まだはっきりとは見えない。

ただ「Smart Glass」を通して、マイクロソフトが10年越しで追いかけてきた目標がやっと見えてきたと同時に、ゲーム機が、単にゲーム機である時代の終焉(しゅうえん)を示している。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表、立命館大学映像学部非常勤講師、日本デジタルゲーム学会(digrajapan)理事なども務める。
 また、グリーが設置した外部有識者が議論する「利用環境の向上に関するアドバイザリーボード」にメンバーとして参加している。

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