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任天堂、失地回復へ「WiiU」で賭け 居間の和みを演出

ゲームジャーナリスト 新 清士

6月4日、米ロサンゼルスでゲーム展示会「E3」が始まった。例年通り、家庭用ゲーム機のプラットフォーム企業である米マイクロソフト、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)、任天堂が大規模なプレス向け発表会を行った。今年の最大の注目点は、新型の家庭用ゲーム機「WiiU」を年末に発売する任天堂がどのように製品を仕上げてくるのかという点だ。独自技術にこだわり、その魅力を訴えるという意味では、失地回復に向けた最初のアピールは成功したといえるだろう。

任天堂のE3特設ページ

リビングのデジタルハブ化を目指すゲーム機

据え置き型ゲーム機を巡り大きな焦点になっているのは、リビングルームの中心を占める「デジタルハブ」をどこの企業が押さえるかである。インターネット接続が前提となり、様々な汎用アプリがゲーム機にも乗り始めている。ハブを握れば家庭市場を有利に攻略できる。来週11日に予定されているアップルのプレス向け発表会も含め、今後を占う重要なポイントになる。

マイクロソフトは、米国内の映画やテレビドラマのレンタルサービスへの対応拡大や、モーションセンサー「Kinect」による音声操作などを強化。さらに、インターネットエクスプローラーといったブラウザーを「Xbox360」に搭載しつつ、タブレットやスマートフォン(スマホ=高機能携帯電話)へと機能を拡張していくことをアピールしてきた。

米マイクロソフトXbox360の公式ページ

SCEは、「プレイステーション3」と「PSVita」の連携強化をアピールしつつ、「ハリー・ポッター」シリーズの原作者と開発している同社が持つAR(拡張現実)機能を使った新しいゲームを提案してきた。また、PSVitaやソニー・エリクソンのアンドロイド端末に向けて開発されたゲームが、初めてソニーグループ以外の台湾のHTC製端末でも動くことも発表している。

新作ゲーム、「暴力」など成人向けに傾斜

上記の点以外では、E3は新作ゲームの発表が中心となった。この2社のプレゼンテーションでは新大型タイトルのデモが次々と行われたが、筆者は少し気分が悪くなった。

いかに敵のキャラクターを派手に殺せるのか、というゲーム内での争いが、例年以上に激しくなった印象がしたからだ。米国で人気がある一人称シューティング(銃で撃つ)に加え、殴る・蹴る・刺すは当たり前。プレゼンテーションの最中は、銃声の他に、死を迎えた人の苦悶(くもん)の声が響き続け、そこら中で起きる爆発と破壊の繰り返しに、血しぶきが飛び散っていた。見ているだけで、かなりの緊張が強いられるものだった。

一人称シューティングの「CallofDuty」シリーズといった大ヒットタイトルに引きずられる形で、どのゲームでも、豪華なグラフィックスの中で、より派手な殺し方が競われるようになっている。

米SCEのE3特設ページ

この5年あまり、ハイエンド機能を持つゲーム機では、ハリウッド映画をいかにゲーム内で体験できるようにするかが競われてきた。今では映画以上に生々しい。

米国の家庭用ゲーム機市場の中心を占めるパッケージ販売の売り上げは、昨年88億ドルと、10年の94億ドルから8%減少している(数値等はいずれも米業界団体のESA発表のもの)。ピークの08年の117億ドルと比べると、25%も減少している。これは、ブラウザー上のソーシャルゲームやスマホのダウンロードゲームに売り上げを奪われているためだ。

さらに、数十億単位の開発費をかけた上位の大型タイトルに売り上げが集中する傾向がある。昨年は上位10タイトルのうち、暴力表現の激しさから、購入できるのが17歳以上に限られる「Mature(成人向け)」の区分が6タイトルを占めるという状態で、そうしたジャンルのゲームが好まれる傾向が鮮明になっている。

発表された新作タイトルでより暴力的な表現が激しくなるのは、ユーザーのニーズに合わせているともいえるが、それだけ高コストでハイエンドなスペックで作ることができるゲームの選択肢が絞られているとも言える。

2011年北米ビデオゲーム販売本数ランキング(緑が任天堂のタイトル、赤がMatureタイトル)

昨年は苦戦した任天堂

一方で、昨年の上位20タイトルのうち、この5年ほど強力な存在だった任天堂製品が2タイトル(いずれも「ポケモン」)しか入っておらず、苦戦を印象づけた年でもあった(10年は7タイトル)。昨年3月に発売した「ニンテンドー3DS」の普及の遅れと、「WiiU」の発売を控えて、有力な「Wii」タイトルがなかったことが大きい。

そのため、今年は、任天堂が失地回復できるかどうかに注目が集まっている。任天堂は、自らのアイデンティティーを「独創性」に置き、自社がデザインするハードウエアのコントロールに強みを持たせることを意識しているため、他社ハードにゲームを展開することはない。

成功すれば、ハード・ソフトの相乗効果による好循環を生むが、逆にいうと、もし「WiiU」が失敗すれば、今後何年にもわたって、任天堂は苦戦を強いられることになる。

任天堂はE3でアピールの仕方を変えてきた。他社が、デジタルハブへの広がりの強みを主張するなか、YouTubeなどの動画サービスや、ウェブブラウジングには対応するとした上で、その役割とは別に「『WiiU』が『リビングルームのエンターテインメントをどう変えるのか』に絞ったのだ。付属するタッチ画面付きコントローラー「WiiUゲームパッド」を利用した、新しいゲームの体験を紹介する内容である。

アピールの仕方を変えてきた

しかも、E3でのメディア戦略が極めてユニークだ。自らの発信力を強めることで、ロサンゼルスまで足を運ぶことができない一般ユーザーにも情報が届くような工夫を凝らしている。

E3開催直前の4日には、「プレE3」として、岩田聡社長が「WiiU」のハードウエアの基本的な機能を紹介する動画を発信した。そして、プレス向け発表会では、7日に3DSの新作ゲームについても別の動画を流す予定を発表した。また、ソーシャルメディアにも力を入れている。

過去、E3で、プラットフォーム企業が、会場以外のユーザーをこれほど強く意識して、事細かく情報を発信したケースはない。ゲーム好きのユーザーを中心に、口コミを形成しようと意識的に動いているようだ。

「一緒であるとよりよい」というコンセプト

プレE3動画で、岩田氏は「Alone Together(直訳:一緒でも孤独)」と名付けられた状態を紹介した。これは米マサチューセッツ工科大学(MIT)のシェリー・タークル教授の著書だ。

スマホなどのコンピューターデバイスが個々人の生活に密着し、インターネットの世界と自分とを切り離せなくなったとき、家族は同じリビングルームにいても切り離されてしまう。親がスマホでメッセージを打っている間、子供の呼びかけは後回しにされる。その状況を、10歳代の子供たちへのインタビューを中心に紹介している。

一方で、任天堂は発表会の結論として「Better Together(直訳:一緒はよりよい)」というコンセプトを掲げた。WiiUを今の孤独な状況を変える存在と位置づけてきた。発表会終了後に任天堂のサイトで公開した動画で、岩田社長は「任天堂は部屋の中にいる複数の人をつないで笑顔になってもらいたいということに長年取り組んできた」と、述べている。

発表会の直後に発表された動画では、ハード発売と同時リリースと発表された「Nintendo Land」や「Wii FitU」のイメージビデオでは、3世代の家族でも分け隔てなく遊ぶことができることを説明している。

Wiiコントローラーを使って複数人で競って遊んだり、WiiUゲームパッドを持つ人がタイミングを計ったり、おばあさんが手にしているだけでも十分に楽しめるようなゲームを紹介したり、リビングルームの誰もが何かの役割をもって一緒に遊んでいる姿が紹介されている。

任天堂 Wii U公式ページ

また、任天堂独自のミニブログ要素を持たせた「Miiverse」という世界中の他のプレーヤーがどのゲームでどんなことを感じているのかを発信するソーシャル機能も発表された。「たとえ、部屋にいる人が一人であったとしても、世界中に楽しんでいる人がいて、自分と同じように感動したりおもしろがったりしている人がいる」(岩田氏)と述べ、この新しい機能が生み出す可能性について触れている。

任天堂は、これまで家族や友人といった顔が見える範囲でのコミュニケーションを重視してゲーム機を設計してきた。「Miiverse」は、そこから一歩踏み出すことになるが、それでも、他のソーシャルメディアのように大きく開かれず、任天堂のサービスの中での独立性を重視しているようだ。

そして、笑顔を強調する分、デモンストレーションの中では、それほど暴力的な表現は前面に押し出さず、ゾンビを倒すアクションゲーム「ZombieU」(仏UBI)でさえ、ゲーム的な新しい操作に焦点が当てられていた。据え置き型ゲームが激しい騒音を出す方向ばかりに発展していないことは、かなりホッとさせられる面があった。

価格、対応ソフト…WiiUが抱える不安材料

もちろん不安材料は少なくない。

まず、価格がいくらになるのかが重要な焦点になるだろう。コンピューター性能はPS3と同等と言われるが、「WiiUゲームパッド」といった豪華な付属ハードを考えると、値段を3万円以下におさえることは容易ではないだろう。現在3万4800円で販売されている「iPad2」といったタブレット端末との争いにもなってくる。

また、対応タイトルの少なさも難しい課題だ。発表になったのは23タイトルで、そのうち任天堂のタイトルは6タイトル。「NewスーパーマリオブラザーズU」「ピクミン3」など、「WiiUゲームパッド」を使った新しい遊び方が追加されており、それぞれのゲームは魅力的にみえるものの、とても「潤沢なラインアップ」とはいえない。

ハードウエアの最終仕様が固まったのは、昨年の晩秋と言われており、その分、他社製タイトルも含めて開発が遅れていると考えられる。これは立ち上げの足を引っ張る可能性がある。

また、任天堂は、今後「Miiverse」を3DS、ウェブ、スマホでも利用できるように広げていくとしたものの、現状では自社内部でソーシャル機能を完結させる戦略を選ぶようだ。過去、ネットワークサービスで大きな成功を遂げていないため、効果的に機能するかは、サービスが始まってみないとわからない。

ゲームソフトの開発も同様に、企業以外にはオープンにしない従来戦略を守るようだ。その場合、一般のユーザーでもアプリ開発に参加できる環境を持つスマホなどに比べ、どうしても量的にタイトルの開発速度でかなわない面が出てくる。

ゲームパッドのジャイロ操作を利用した「NintendoLand」のドンキーコングのアトラクションが紹介され、非常におもしろそうだと感じた。ただ、同じような体験ができるゲームをタブレットPC向けに作るのは、技術的にはそれほど難しいものではないため、実際にまねたゲームが低価格で登場してくるだろう。それでも、なお任天堂向けのパッケージゲームを購入してもらえるのかという、疑問はついてまわる。

任天堂は、「マリオ、ゼルダなど、作りだしたキャラクターブランドが、任天堂以外のゲーム機に登場することはない」という点を強調し、ブランド力を高めることによって、ユーザーのロイヤルティーを高め、この課題を乗り越えようとしているように見える。

ともかく、誰もが「一度は触ってみたい」と感じさせる魅力的なハードウエアだと強く印象づけることには成功した。このE3での盛り上がりを発売時期までけん引できるかどうかが注目されるだろう。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表、立命館大学映像学部非常勤講師、日本デジタルゲーム学会(digrajapan)理事なども務める。
 また、グリーが設置した外部有識者が議論する「利用環境の向上に関するアドバイザリーボード」にメンバーとして参加している。

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