/

慶大ベンチャーが挑むEV普及、開発に「オープンソース」手法

設計図を公開して参加企業を募る「オープンソース」型の電気自動車(EV)開発プロジェクトが進んでいる。慶応義塾大学発のベンチャー企業が主導し、このほど公開された試作車は1回の充電で航続距離351キロメートルという業界最高水準の性能を達成。今後も段階的に性能の向上を進めていく計画だ。独自モーター技術をベースに、部品、素材、デザインなど100近い企業・団体(現時点)の要素技術を持ち寄り、2014年ころの量産化を目指す。IT(情報技術)ではオープンソースは一般的な手法になりつつあるが、自動車分野の新車開発といえば大手メーカーが秘密裏に進めるのが一般的。これを"開放"することで、最先端の技術を取り込みつつ開発スピードを早めることを狙っている。

開発の旗振り役を務めるのは慶大学発のEVベンチャー、シムドライブ(川崎市、清水浩社長)。清水氏は同大環境情報学部の教授で、自らが発案した独自モーターを使ったEVを設計。これを実用化するために、日本や海外の企業からEV開発に使える技術やノウハウを広く募ることにした。

すでに2010年には試作1号車を、11年からは2号車の開発にも着手した。EVにとって最大の課題であるコストダウンと長い航続距離、安全性を実現するため、「軽量化」「断熱」「強度」などをテーマに設計図を公開し、広く企業・団体から参加メンバーを集めた。

「大手自動車メーカーは独自にEVを開発しているが、すべての素材・部品を自己調達するのは難しく、価格も高くなってしまう」。シムドライブで車両開発を統括する真貝知志執行役員は、既存の大手メーカーの開発手法について、こう指摘する。同社は「最高の要素技術を持ち寄れば、最小の費用で短期間でも開発できるのでは」(真貝氏)と考えた。

慶大の清水教授が30年間温めてきたEV開発の「仕様書」をオープンにし、10年から共同開発を始めた。参加する企業・団体は参加費2000万円を支払い、技術者も派遣して他社のエンジニアと机を並べて開発作業を進める。

モーター、ボディー、シャシーなど5つのグループに分かれてEVの基本構造を決定。各社が提供する部品や素材を取り入れながら、設計・デザインが進められ最終的なスペックを決定する。参加企業は、自社の技術がどのようにEVに応用できるかを探りつつ、実車で強度試験などの数値結果を得ることができる。それをもとに完成車メーカーや自動車部品メーカーに売り込むことも可能で、シムドライブがいわばEV開発の「実験台」「ショールーム」として機能するわけだ。

試作2号車は「軽量化」「断熱」などを重点テーマを掲げて開発中で、3号車はスマートハウスと連携した蓄電システムなどを視野に入れている。

 試作2号車にボディー外板塗装やフロアマットなどの先端素材が採用されたデュポンの石岡治道執行役員(デュポンオートモーティブセンターセンター長)は「完成車メーカーに自社素材をアピールするための重要な実験場となっている」と話す。同社でEV開発を担当する喜久山鈴恵氏も「材料メーカーにとってEVは新たに生まれる巨大市場。自動車メーカーの潜在的なニーズを知り、実車で検証ができる上でもプロジェクトに参加する意義は大きい」と語る。

自動車部品のミクニは、2号車の前方に取り付けられた「グリルシャッター」とよばれる空気抵抗と熱交換の切り替えのための部品を担当している。今後、エコカーが普及するにしたがって、エンジン(内燃機関)からEVへの需要シフトが起きる。現在、自動車産業に関わっている企業は、いや応なしにEV関連の技術開発を迫られる。

先端素材の接着剤として採用されたサンスター技研ケミカル事業部の西田貴富氏は、「材料メーカー単体ではこれまで難しかった実車での強度評価などが得られる」と話す。

シムドライブの「オープンソース」型による開発手法は、従来の完成車メーカーのアプローチの逆を行くものだ。

「部品や素材メーカーは完成車メーカーが要求する仕様通りに部品を納入していたが、EVの時代になると自社製品を『提案する』ことができるようになる」(シムドライブの真貝氏)。これが思惑通りにいくかは、今後の試作車のでき次第ともいえそうだが、開発計画が着々と進んでいる。

5月には、試作4号車(13年2月に開発開始予定)の参加企業の募集を始めた。矢継ぎ早にプロジェクトを立ち上げ、これまで自動車業界とはあまり縁がなかった部品・素材メーカーにも注目してもらう思惑がある。

試作2号に採用された部材の一例
クラレ真空断熱材
サンスター技研グループシール材・接着剤
デュポンボディ外板塗装
東レ炭素繊維強化プラスチック
(CFRP)
ミクニグリルシャッター
(放熱器ふた)

日本では自動車需要は減少に転じているが、世界を見渡せば「車を使える人口のはわずか10%。自動車に携わる企業にとってまだまだ飛躍のチャンスがある」というのが清水社長の持論だ。1号車を13年中に量産開始し、販売価格を200万円後半におさえるという目標を掲げる。

EVを巡っては充電スタンドといったインフラの整備や心臓部品であるリチウムイオン電池の低コスト化など様々な課題が横たわる。世界の大手完成車メーカーもEVを相次ぎ量産化しているが、清水社長はあえてアンチテーゼとして新たなものづくりのあり方を提案する。

米EVベンチャーのテスラモーターズがトヨタ自動車と技術提携するなど、次世代エコカーでは既存の業界秩序が崩れつつあるのも確かだ。「クローズ、垂直統合」ではなく「オープン、水平分業」という手法を採ることで、シムドライブは1年で試作車を世に送り出した。自動車産業に風穴を開ける可能性のある試みとして注目される。

(電子報道部 杉原梓)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン