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「危機」を「好機」に、経済合理性の高い電力システムを目指せ

村上憲郎のグローバル羅針盤(37)

東日本大震災と東京電力福島原子力発電所の事故に端を発する電力危機、特に今夏の電力需給の逼迫を巡るこのところの一連の議論の中で、ともすれば忘れ去られがちな極めて重要な点があるので、今回は、それへの注意を喚起しておきたい。ひと言でいえば「この危機は、好機でもある」ということである。

「好機」なんてことを言うのは、一方でいまだに不自由で不安な生活を強いられている福島県の人々、事故現場で苦闘を続けられておられる人々に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。しかし、そのような犠牲や献身に応えるという意味においても、私は、この危機を好機に変えるのに微力ではあるが少しでも貢献するのが、自分の責務であると感じるのである。

事故に先立つこと2年前の2009年初頭、米国でオバマ政権が誕生した。リーマン・ショック後の疲弊した米国経済を立て直すために、同政権が打ち出したのが、グリーン・ニューディール政策であった。

その中でIT(情報技術)に関わる3本柱の1つとして打ち出されたのが、「スマートグリッド」であった。

日本や韓国に大きく後れを取っている「ITインフラとしてのブロード・バンドの整備」、様々な問題が指摘されている教育と国民皆保険へ向けての「アプリケーションとしての教育ITと医療ITの推進」、老朽化した「電力システムを再構築するためのITを使った"賢い電力網=スマートグリッド"の構築」が、その3本柱であった。

経産省産業構造審議会情報経済分科会の委員を仰せつかっている私は、このことを分科会で伝えるとともに、特に、日本もスマートグリッドの構築を検討すべきだと主張した。

幸いにして、多くの委員の賛同を得るとともに、民主党のマニュフェストにも「スマートグリッドの構築」が、掲げられることになった。その民主党が政権を奪取し、2009年12月に発表された同政権の成長戦略にも、「スマートグリッドの構築」が組み込まれた。

もちろん、2009年のほぼ一年間を費やした様々な議論の中で明らかになったのは、老朽化した米国の送配電網に比較すれば、日本の送配電網、特に、系統と呼ばれる発電所に近い上流の送電網は、すでに「スマートグリッド」といってもいい賢さを備えているということであった。

ただ、需要家に近い配電網については、「スマートグリッド」とは言い難いということも明らかになった。これは図らずも、それから1年後、原発事故後の計画停電で露呈することとなる。

ご記憶のように、計画停電では、医療機関と遊戯場への給電を選択的に遮断することが、できなかったのである。

このように、事実で証明される1年以上前に、日本におけるスマートグリッドの構築は、需要家に近い配電網を対象とした、つまり、需要家の存在する「地域社会=コミュニティー」を覆う、「コミュニティーグリッド」に限定できるということが、明らかになった。それは、単に「コミュニティーグリッド」のスマート化にとどまらず、コミュニティー全体のスマート化、つまり「スマートコミュニティー」の実現を目指すべきことも、明確となった。

2010年4月には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が事務局となってスマートコミュニティーをオール・ジャパンで推進することを目的として、「スマートコミュニティ・アライアンス」が結成された。

現在の会員企業数は、334社に上り、その目的は、そのホームページのトップに、以下のように掲げられている。

「スマートコミュニティ・アライアンスは、再生可能エネルギーの大量導入や需要制御の観点で次世代のエネルギーインフラとして関心が高まっているスマートグリッド及びサービスまでを含めた社会システム(スマートコミュニティ)の国際展開、国内普及に貢献するため、業界の垣根を越えて経済界全体としての活動を企画・推進するとともに、国際展開に当たっての行政ニーズの集約、障害や問題の克服、公的資金の活用に係る情報の共有などを通じて、官民一体となってスマートコミュニティを推進するために平成22年4月6日に設立いたしました」

「スマートコミュニティ・アライアンス」は、コミュニティーの構成要素として最も重要な「スマートハウス(略称:スマハ)」の実現へ向けてのワーキング・グループを直ちに発足させて、活発な検討を続けてきている。

ただ、残念ながら、それが、上に掲げた目的を達成しつつあるかどうかについては、私は、この連載の30回「『スマハ』『スマビ』時代到来、国際競争にらんだ法制度の整備を」で、次のような警鐘を鳴らしておいた。

 複数の発電会社の競争を自明のこととし、スマートグリッドやDR(デマンド・レスポンス)を備えた経済合理性の高い電力システムは、今後の我が国の発展途上国への戦略的なインフラ輸出技術として重要である。同様に、それに呼応するスマビやスマハも、今後、本格的な海外展開が期待できる。そのためにも、国内の法制度や規制もスマビやスマハ時代にふさわしい形にするため、早急に改正に取り掛かる必要性を感じている。

この警鐘の具体的な根拠は、30回全体をお読みいただきたいが、要は、スマートコミュニティアライアンスの目的の中にうたわれている「国際展開に当たっての行政ニーズの集約、障害や問題の克服」が、不十分であるということである。

原発事故という不幸な出来事が、今回、振り返ったような、日本におけるスマートグリッドの推進の動きをさらに加速した。特に、スマートメーターの普及やDRの導入の背中を押しつつあることを、好機と呼ぶのである。

特にこれまでの我が国の電力システムの特徴であった、ピーク需要を賄うに足る発電設備、つまり、過剰な遊休設備を用意して無管理の需要に応えるという経済的に非合理な電力システムに国際競争力はない。1000万キロワットのピーク需要を無管理のまま賄うのに、旧来の日本の電力システムでは1100万キロワットの設備を応札するしかなかった。

一方、スマグリ、スマメ、DRを援用した今後の日本の電力システムであれば、800万キロワットの設備で応札できる。発展途上国が必要としているのは、瞬間電力キロワットの曲線のピーク値の高さではない。その曲線と時間軸がつくる面積、つまり、キロワット時という、「仕事をする電気エネルギー」である。

需要を管理しない旧来の日本の電力システムの山谷の振幅の大きな瞬間電力キロワットの曲線と時間軸がつくる「面積=電気エネルギー」と、この危機を通じて今、導入されようとしている、スマグリ、スマメ、DRによって、需要を管理し、なるべくまっ平らに近づけられた瞬間電力キロワットの曲線と時間軸がつくる「面積=電気エネルギー」の大きさは、同じなのである。

もしあなたが、発展途上国の電力システムの担当者で、これから最先端の電力システムを導入するとしたならば、どちらを選ぶかは、自明のことであろう。

【デマンド・レスポンス(DR)】スマートメーターなどを通じて需要家の電力消費状況を常時把握し、需給が逼迫した時には、電力供給サイドが一律・強制的な停電や使用制限をしなくても、需給状況にきめ細かく対応した料金体系や節電した電力を発電された電力とみなして買い取るサービスを提供することで、需要側でのピークカット、ピークシフトなどが柔軟に行える経済合理的な節電の仕組み。

(「村上憲郎のグローバル羅針盤」は原則、火曜日に掲載します)

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