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「ソニー体験」をもう一度、復活の鍵は度肝を抜く技術に

編集委員 大西康之

「ソニーが変わるのは今しかない!」

4月12日の経営方針説明会の冒頭で平井一夫社長が叫んだ。ソニーは2012年3月期の最終損益で5200億円の赤字を計上する。「ここで変わらなくて、いつ変わる」。株主も消費者もそう思っているはずだ。

経営方針を発表するソニーの平井一夫社長兼CEO(4月12日、東京都港区)

しかし「ソニーを変える。ソニーは変わる」と題した平井社長の40分のスピーチからは、ソニーがどう変わるのか、具体的なイメージはつかめず、筆者は不安な気持ちで品川のソニー本社を後にした。

ところが、である。翌日の報道やインターネット上の書き込みは「どうしたソニー」より「がんばれソニー!」の論調が強かった。やはりこの国で「SONY」は愛されている。

理由の1つは、私のような40歳代から上の日本人の多くが強烈な「ソニー体験」を共有しているからだ。

ソニー・ウォークマンのCMに出演したニホンザルの「初代チョロ松」(1987年ころ)

個人的な話になってしまうが、筆者にとって最初の「ソニー体験」は「ウォークマン」だった。今から30年前の高校生の頃。友達が買ったばかりのウォークマンのヘッドホンをいたずら半分に奪い、自分の耳に押し当てた。その瞬間に景色が変わった。

後にソニーはヘッドホンをかけたサルがうっとり音楽(?)に聞き入るテレビCMで一世を風靡したが、あのときの私はまさに、あのサルだった。

1979年に発売されたソニーの初代ウォークマン=企業提供

「どうせ、オモチャだろう」という予見を裏切る音質。それをどこにでも持ち運べる驚き。今も我が家のテレビは「ブラビア」、パソコンは「バイオ」だ。強烈な「体験」は消費者にブランドへの忠誠心を植え付けるらしい。

だが往年のソニーファンは、このところの「ソニー体験」の質の低下を心配している。

ソニー製の携帯音楽プレーヤーを買ったら、手持ちのソニー製のスピーカーとつながらない。スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)と映像を共有できると思ってタブレット端末を買ったら、簡単には共有できない(アップル製のスマホとタブレットは「iクラウド」という仕組みで簡単にコンテンツを共有できる)。そんな「逆体験」が多いと聞く。

「なあんだ、つながらないのか」。「逆体験」はブランドを毀損する。

業種は違うが、米国にこんな例がある。

コーヒーチェーンのスターバックスは2000年代半ば、行き過ぎた利益追求がたたって業績不振に陥った。2008年に最高経営責任者(CEO)に復帰した実質的な創業者、ハワード・シュルツ氏がまず手掛けたのは「逆体験」の排除だった。

例えば、朝食メニューに入っていた「ホットサンド」の販売をやめさせた。ホットサンドのチーズが焦げるにおい(それ自体は食欲をそそる、いいにおいだが)が、「店舗に入った瞬間に豊かなコーヒーの香りに包まれる」という「スターバックス体験」を妨げるとシュルツ氏は考えたのだ。

経営方針発表会での平井ソニー社長兼CEO(4月12日、東京都港区)

ホットサンドの利益率は高く、もとはと言えば「朝食に温かいメニューがほしい」という顧客の要望に応えたものでもあった。だがシュルツ氏はコーヒーとチーズのにおいが混ざるという「逆体験」を許さなかった。

店員には、香り高いエスプレッソを作るための研修を受け直させ、「スターバックス体験」をよみがえらせた。このあたりのいきさつは同氏が書いた「スターバックス再生物語」に詳しい。

「ソニー体験」が復活の鍵を握るという認識は平井社長にもあるようだ。12日のスピーチでは何度も「体験」という言葉を使った。

「(超高精細の)4Kテレビで圧倒的な顧客体験を届ける」

東京都港区のソニー本社

「UX(ユーザー・エクスペリエンス=顧客体験)を横ぐしで見る組織を作った」

革新的な技術で顧客の度肝を抜くのが何よりの「ソニー体験」ではある。だが「つながらない」「使いにくい」「パッケージが安っぽい」「店舗のデモ機が汚れている」。ささいな「逆体験」がソニーファンの夢を壊していることにも気づくべきだ。

東京・銀座にあるソニーのショールームとアップルストアをはしごすれば、どちらが周到に「逆体験」を排除しているかわかるはずだ。

その上で、もう一度あの強烈な「ソニー体験」を味わってみたい。「サル」になりたいファンは少なくないはずだ。

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