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常識を崩した欧米での「カードバトルゲーム」のヒット

ゲームジャーナリスト 新 清士

グリープラットフォームの「Zombie Jombie」ページ

日本の携帯電話向けにヒットしている「カードバトルゲーム」は海外では通用しないというのがこれまでの常識だった。ところが、3月15日に日本を除く全世界で、アップルのiPhone向けにリリースが始まった「ZombieJombie」(グリー)が、北米でゲームのダウンロードランキングで堂々の4位に入った。これは前例のない快挙である。今年、世界中のソーシャルゲーム企業にとっての最大の焦点は、スマートフォンで自社のゲームを成功できるかどうかだ。日本企業にとっては日本で人気のあるゲームをそのまま、海外に展開できないことがハンデになっている。しかし、今回の成功は、日本で蓄積されたカードバトルゲームのノウハウが、世界でもビジネスになるという点で大きな意味を持つ。

北米のスマホランキングにないカードバトルゲーム

このゲームは、グリーの米国法人、グリーインターナショナルが開発したもので、海外展開に向けた初めてのタイトルだ。日本のカードバトルゲームに近い、比較的簡単な操作で遊べる内容になっている。強いゾンビを育てて、悪い人間を倒すというものだが、グラフィックスは北米で受けるようなデザインに改良した。

iPhone向けアプリのランキング調査サイトAppAnnieによると、ゲーム部門でダウンロード数では164位(4月8日現在)まで後退したものの、売上高ランキングは3月20日に26位、現在でも51位と固定客を獲得しているようた。4万本のゲームがひしめくiPhoneアプリ市場で、まずまずの成績をあげている。

AppStoreの「DragonVale」のページ

スマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)向けに有料(売り切り型)で提供されているアプリの平均単価は1ドル前後と安い。そのため、ゲームそのものは無料で提供し、アイテム課金で稼ぐソーシャルゲーム型が、収益を生みやすいという傾向が強まってきている。欧米は一般的に課金プラットフォームが脆弱なため、ゲームの販売では課金の仕組みが比較的しっかりしているiPhone市場が相変わらず強みを発揮している。

現在、米国のゲームでトップのソーシャルゲームは「DragonVale」(BackflipStudios)。かわいらしいドラゴンのテーマパークを育てるという典型的な農園ゲームだ。また、ジンガを中心に、「ポーカーゲーム」などのカードゲームのコインを販売するのも定番になっている。ただ、日本市場において携帯電話とスマホの両方で存在感が強まりつつあるカードバトルゲームは、米国には存在しない。

カードバトルはヘビーユーザーだけが遊ぶという「常識」

欧米圏でカードバトルゲームに対する評価が低い理由は、一部のヘビーユーザーしか獲得できず、大ヒットさせるのが難しいと考えられているためだ。

カードバトルゲームの原型は、1993年に発売されて以来、一貫して人気が続いている「マジック・ザ・ギャザリング」(米ウィザーズ・オブ・ザ・コースト)というトレーディングカードだ。各カードには、モンスターなどのイラストが描かれ、ゲーム内で利用できるルールが規定されている。決まった枚数で構成するデッキと呼ばれるものを用意し、手札を揃えて、対戦相手に立ち向かうタイプのものだ。

「マジック・ザ・ギャザリング」日本語版公式ページ

基本セット以外に、新しいカードがシリーズとして次々と追加され、5枚入り(400円前後)のブースターパックという形で販売される。パックにどのようなカードが含まれるのかはランダムで、事前に確認することができない。そのため、強いカードには、プレミアが付く。このあたりはアイテム課金に似ている。

日本でも「遊☆戯☆王」(コナミ)、「ヴァンガード」(ブシロード)など、様々なカードゲームが主にオモチャ屋や専門ショップで販売されている。

一度"はまる"と、ゲームの奥行きの深さに魅了されるが、その半面、様々なカードのルールを覚えなければならず、初心者には取っつきにくい。

「マジック・ザ・ギャザリング」は過去、何度も家庭用ゲーム機向けに移植されてきたが、カードの機能説明が狭いテレビ画面では表現しづらいため、敷居が高く、多くのユーザーには受け入れられなかった。それでも、日本国内での成功例として、2000年のゲームボーイ向け「遊☆戯☆王デュエルモンスターズIV最強決闘者戦記」(コナミ)が、250万本を売り上げたケースはある。

Facebook内の「Clash Of The Dragon」(筆者のページ)

現在では、家庭用ゲーム機向けには大ヒットを生みにくい分野と考えられている。

ブースターパックを追加していくという概念は、ソーシャルゲームと相性がよさそうに思えるが、なかなかそうでもない。Facebook向けのゲームでも、スマホ向けのゲームでも、大ヒット作は登場していない。

Facebook向けの「ClashOfTheDragon」(5thPlanetGames)の月間アクセスユーザー数はわずか3万人、「BattleCards」(CrearaUSA)は1万人と人気が振るわない。iPhone向けのカードゲーム「Ascension」(Playdek)の移植版が、450円(5ドル)で売られているが、全体の販売ランキングは400位にとどまっている。

日本国内ではカードバトルゲームで実績をあげている企業でも、海外のソーシャルゲームのプラットフォームからは高い評価を受けることがなかった。だからこそ、「ZombieJombie」のヒットは、余計に目立つ結果となっている。

テストを行った上での投入

では、なぜ成功に結びつけることができたのだろうか。

3月23日に行われた「グリーカンファレンス2012」で、グリー取締役執行役員CFO国際事業本部長の青柳直樹氏は「(ZombieJombieは)米国市場でも通用すると思っていたが、リリースをして"これはヒットの流れが来たな"と感じた」と発売前から自信を持っていたことを述べた。

グリー青柳直樹氏

世界のソーシャルゲーム市場を眺めてみると、主にFacebookで展開しているジンガに代表されるように、ユーザー数は日本の10倍にあたる数億人という規模だが、一人あたりの収益性は月1ドル前後と日本の10分の1程度だ。

だが、青柳氏は今回の結果から、スマホ市場で戦略的にしっかり攻めていけば、「日本の半分ぐらいまでは収益性を伸ばせるのではないか」と見ている。単純計算すれば、課金ユーザーからの収入が月に10ドル前後という水準だ。

まず、米国でのサービス開始の前に、「英語圏の中でも市場規模の小さいカナダ、オーストラリア、ニュージーランドで先行投入し、個人ユーザーの平均課金額を確認しながら、ゲームバランスのチューニング(調整)をした」ことが大きかったようだ。

AppStoreの「Kingdoms Of Camelot」のページ

かなり細かいゲームバランスなどの変更を実施し、ユーザーの評価を獲得していることが確認できてから、米国に投入した。そのため、事前にある程度の評価が得られることが予測できた訳だ。

こうしたテストマーケティングを行った上で、欧米圏全体に投入するというケースは増えてきているという。現在販売金額で15位当たりの好成績を収めている「KingdomsOfCamelot」(Kabam)という城を育てていくタイプのソーシャルゲームは、それらの市場で2~3カ月かけてチューニングを行い10位以内の販売額を達成した後に、アメリカに投入して成功しているケースだという。

そして、「最初にリリースした瞬間にどこまで注目を集められるかで、勝負が決まる」ため、現地の広告会社と積極的にプロモーションを展開して、成功に結びつけたという。スマホ市場では、一度リリースすると、そこそこの人気では、二度と浮き上がることがない傾向が高い。

拡大しつつあるスマホのソーシャルゲーム市場

ゲームの内容についても、「英語圏に合っているか」「グラフィックのテイストの問題もどうなのか」、さらに、「ユーザーがカードバトルゲームに慣れてきている日本は、欧米圏よりも何世代ぐらい先を行っているのか」ということも念頭にいれて"バランス"を取らなければならないという。

ソーシャルゲームは一定数のユーザーが毎日アクセスことが重要だ。その規模感を作るには、毎日アクセスするユーザー数で10万人、または「月に新規のインストール数が5万~10万ダウンロード」という状態が目安だという。

「日本で成功した手法を丁寧になぞることができれば、その数(毎日のユーザー数が10万人)でも月に100万ドル以上の売上高になる」(青柳氏)。現在のiPhoneのアプリのトップ5は500万ドル程度。半年前に比べるとソーシャルゲームの市場規模は5倍ぐらいにまで成長しつつあり、ユーザーの行動にも変化が出てきていると指摘する。

AppStoreの「Zombie Jombie」のページ

「市場の状況は半年前や1年前と比べて大きく変化しており、ダウンロードで数十位でも月に100万ドルを売り上げる企業が登場している」(同)。

スマホ市場の特徴は、購買力単価の低いユーザーを多数抱えるFacebookに比べて、高単価のビジネスを展開しやすい傾向がある。また、欧米圏のスマホユーザーが、ソーシャルゲームのアイテム課金に慣れ始めてきていることも推測できる。

青柳氏によると「今の米国におけるスマホのソーシャルゲーム市場は、2010年頃の日本に似ている」という。創業間もない企業が多く、決定的な勝ち組がまだ見えてこない。だが次の段階に入れば、一つ頭を抜け出した企業が出てきて、買収や寡占が進むと読んでいる。

今回の「ZombieJombie」のヒットは、「日本で培ったカードバトルゲームのノウハウを応用すれば、同ゲームが普及していない欧米圏でも十分に通用することがわかったことが大きな収穫」だという。さらに、「日本のソーシャルゲームの価値を高めていけば、先行している欧米のソーシャルゲーム会社の背中が見えてくるだろう」と青柳氏は自信をのぞかせていた。

ただ、欧米企業もスマホで確実に収益を上げるには、iPhone市場に依存した状態が続いている。

グリーは「グリープラットフォーム」という今夏から世界で展開するソーシャルゲームのプラットフォームの準備を進めている。成否の鍵は、課金プラットフォームを持つことができるかどうかにかかっている。個別タイトルのヒットを越えて、その領域にたどり着けるか、真価が問われることになる。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表、立命館大学映像学部非常勤講師、日本デジタルゲーム学会(digrajapan)理事なども務める。
 また、グリーが設置した外部有識者が議論する「利用環境の向上に関するアドバイザリーボード」にメンバーとして参加している。

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