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「時代遅れ」の東電スマートメーター仕様、新たな電力システム構築に壁

村上憲郎のグローバル羅針盤(31)

スマートメーター(スマメ)を中核とする新しい電力システムの導入が原子力発電所停止による電力不足危機を解消する切り札として待たれている。前々回、前回では、期待されるスマメの機能像を、電力会社とつながる通信ルートである「Aルート」と、家庭やオフィスビルとつながる「Bルート」を中心に解説した。

村上憲郎(むらかみ・のりお) 元グーグル日本法人社長兼米本社副社長 1947年大分県佐伯市生まれ。70年京都大工学部卒。日立電子、日本ディジタル・イクイップメント(DEC)をへて、米インフォミックス、ノーザンテレコムの日本法人社長などを歴任。2003年から08年までグーグル日本社長を務める。

それを書いている一方、世の中では、東京電力の全需要家向け、つまり、最終総数2700万個に及ぶスマメの調達に関する説明会などが始まった。ところが、その調達しようとしているスマメが、私の前2回で記述した「期待される機能」を持ち合わせないであろうということが、明らかになりつつある。

すでに多くの論者から、その問題点が多数指摘されているので、私は、前2回で自分が描いてみせた理想的なスマメの機能像との乖離(かいり)を指摘していくことにする。

まず今回は、「Aルート」に関してである。

Aルートの最も基本的な機能は、月々の料金を徴収するための基本データである電気使用量の遠隔検針である。ハッキリ言う。東電が調達しようとしているスマメのAルートの機能は、「これだけ」である。

理想的なスマメの機能像との乖離といえば、例えば、私がこの連載25回「夏の電力不足回避へ、カギ握る事業者『節電アグリゲータ』の育成」で紹介したDR(デマンド・レスポンス)導入に必要な機能がある。

東電自身は、今夏の需給対策に向けて「ビジネス・シナジー・プロポーザル」として、1月からDRの実現に向けてパートナーを募集し、2週間ほど前に6件のビジネスプランが選定された。このDR導入の方向性と、今回のスマメの機能不足の整合性は、どのようにしてとっていくつもりなのであろうか、全く不明である。

なるほど、東電はスマメで30分ごとに消費電力を測定するという。それによって、これまでの固定料金制ではなく、時間軸に沿った変動料金制(ダイナミックプライシング)、つまり、需要逼迫時に料金を引き上げることで需要抑制を目指すのであろうか。ただし、30分刻みの検針で、ピークカットに対応できるつもりなのだろうか。少なくとも変動料金制の究極の方式である「リアルタイムプライシング」には対応不可能である。

これまでの連載の繰り返しになるが、DRとは、需給逼迫時に、電力会社が直接、あるいは、「DR節電アグリゲーター」と呼ぶ事業者を経由してスマメをコントロールし、消費電力の絞り込みや遮断など節電に協力してくれる需要家を束ね、需要を抑えこむ仕組みである。

しかも、節電により生じるネガワット発電の買い取りを導入するという、強制を伴わない、経済合理性の高い、新しい電力システムでもある。

電力不足危機を回避するため経済合理性の高い電力システムの構築が待たれる(発電を止めた東京電力柏崎刈羽原発6号機の中央制御室、3月26日未明、新潟県)

そうした方向性を、東電が調達を計画しているスマメの仕様で、どのように発展させようとしているのだろうか。全く気配すら感じられないというか、不可能である。

あえて言う。DRなんて高級なことを持ち出す必要もない。東電は、よもや、昨年の計画停電時に、医療機関と遊戯場とを選別して遮断できなかったあの苦渋を、もはや忘れたわけではあるまい!

「設定・制御機能も持たせてある」というつもりかもしれないが、その設定・制御機能とは、引っ越しや料金未払いの顧客管理用のものにしかすぎない。それを緊急時に流用するというのだろうか?

それでは、強制を伴わない経済合理性の高い新しい電力システムにはならない。昨夏と同じ、形を変えた統制経済である。

私がこの連載の23回「ネットがこの国の電力の未来を決める、動き出したスマートグリッド」の中で紹介し、「読者の皆様には、将来、この国の現在を決めたといわれる『ようになる』であろう、この歴史的文書の全文をお読みになることを強くお薦めしたい」とまで絶賛した「電力システム改革に関するタスクフォース 論点整理」には、以下のように高らかに宣言されている。

<新たな需要抑制策>
 論点1:
 需給逼迫時において、供給サイドからの一律・強制的な停電や使用制限によらず、需要側でのピークカット、ピークシフト等の取組が柔軟に行われるようにするための仕組みが重要。そのため、スマートメーターやインターフェースの整備を進め、市場メカニズムを通じた需給調整機能を強化し、需給状況にきめ細かく対応した料金やサービスの導入を図ることが必要ではないか。

そして、実は、東電スマメのAルートの決定的な欠陥は、上の文章の前段への考慮が全くなされていないことである。その前段の文章とは、以下である。

 理念としての「競争的で開かれた電力市場」を現実の制度設計に反映し、現実に電力市場を変革していくためには、以下のような様々な論点について、今後、具体策を検討していく必要がある。

この東電スマメ仕様のどこにも、複数の発電会社が、より良い電源とより良いサービスで需要家を獲得しあう公正な競争市場、つまり、「論点整理」のいう「競争的で開かれた電力市場」など想定すらされていないことは自明である。

こんな時代遅れのスマメを配られるとしたら、需要家の一人としては、迷惑千万である。

なぜかというと、このスマメのコストも「総括原価主義」とやらで、きっと月々の電気料金の一部として、我々需要家は支払わされることになるのであろうからだ。

さらに近い将来、"新生第二東電"や"第三東電"(いずれも仮称)と契約する時、彼らは新たに素晴らしいスマメを配ってくれるかもしない。あるいは、私が街の量販店で買ってきたWiFi親局と一体化した複合スマメを使うことになるかもしれない。

その時、東電がこの「東電スマメ」を、私が料金の一部として支払った分の代金を払い戻して引き取ってくれるとは、思えないからである。

新しく契約した新生第二東電や第三東電は「そのまま東電スマメを流用するのではないか」と思われるかもしれないが、それは100%ない、と断言しておく。

その理由は、細部にわたるので今回は触れないが、なにしろ東電スマメが、Aルートに採用しようとしている通信方式が問題である。

そこでは「(インターネットの通信方式である)TCP/IPプロトコルは非実装」とご丁寧にもうたっていることだけを指摘しておけば、十分だろう。

(「村上憲郎のグローバル羅針盤」は原則、火曜日に掲載します)

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