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電力不足は「複合機」が救う、日本で普及するスマートメーターの条件

村上憲郎のグローバル羅針盤(29)

先週の月曜日、3月12日に、ほぼ1年1カ月ぶりで、私も委員を仰せつかっている「スマートメーター制度検討会」が、開かれた。その時の配布資料は、経産省のホームページ(トップページ→審議会・研究会→資源エネルギー庁→スマートメーター制度検討会)で、閲覧できるので、是非ご覧頂きたい。

村上憲郎(むらかみ・のりお) 元グーグル日本法人社長兼米本社副社長 1947年大分県佐伯市生まれ。70年京都大工学部卒。日立電子、日本ディジタル・イクイップメント(DEC)をへて、米インフォミックス、ノーザンテレコムの日本法人社長などを歴任。2003年から08年までグーグル日本社長を務める。

スマートメーターとは、現行の積算電力計が、インターネットにつながったもので、その目的は、まずは現行の積算電力計と同じように需要家ごとの月々の使用電力を測定するものである。

ただし、ネットにつながっているので、わざわざ検針員が出向くことなくコンピューターによる自動遠隔検針が行えるようになる。さらには、月単位どころか、リアルタイムに検針できるので、将来、電気料金が時々刻々と変動するリアルタイムプライシング(実時間価格制度)という最終的な料金体系に至ったとしても、その導入が容易に行える体制が整うことにもなる。

なぜ、最終的にはリアルタイムプライシング(実時間価格制度)に至る、時々刻々と変動する料金体系(実時間=リアルタイムに至らない場合は、ダイナミック・プライシングと呼ばれる)が要請されているのか。それは、時間軸に沿って大きく変動する現在の電力需要を、時間軸に沿って大きく変動しない、出来れば、なるべく真っ平らに近い電力需要にしたいからである。

そのためには、需要の大きい時間帯の電力料金を高くすることで需要を抑制し(ピークカットという)、逆に、需要の低い時間帯の電力料金を低くすることによって、需要の大きい時間帯からこの時間帯へ需要を誘導する(ピークシフトという)、必要がある。

賢明な需要家の中には、料金の安い時間帯に蓄電池に蓄電をし、料金の高い時間帯に蓄電池から放電して需要を賄うといった行動をとる者も現れるであろう。さらには、大規模蓄電装置を備えて、料金の安い時間帯に買電した電気を蓄電池に蓄電をし、その蓄電してある電気を、料金の高い時間帯に蓄電池から放電して売電して利ざやを稼ぐ業者も登場してくるかもしれない。

この連載の第25回「夏の電力不足回避へ、カギ握る事業者『節電アグリゲータ』の育成」で紹介した、DR(デマンド・レスポンス)という需要逼迫時の節電分を発電分(ネガワット発電と呼ぶ)とみなして買い取る仕組みも、時間軸に沿って大きく変動する現在の電力需要を、時間軸に沿って大きく変動しないようにする方策の一つであるが、そのネガワット発電量の測定にもスマートメーターが使われる。

さらには、この連載の第24回「通信会社が『電力会社』になる日 スマートグリッドが生む競争図」で解説した発送電分離を手始めに、我が国は今、電力産業の更なる自由化(現行の地域独占は廃止され、最終的に我々需要家は、互いに電源と価格とサービスで競争する複数の発電会社から、自分の好きな発電会社を自由に選択して、電気の購入ができる自由を手に入れることになる)に向けての方針を討議中である。

その自由化の為にもスマートメーターの普及は、必須である。その理由は、こうである。

電力の使用状況などを集中管理する「地域節電所」のシステムでは家庭や事業所でスマートメーターを使う(北九州市)=共同

発送電が分離された後、送電会社が各発電会社に求めるのは、同時同量規制と言われるものである。同時同量規制とは、発電会社が、送電会社の送配電網を使って、自分の顧客である需要家に電力を送配電する時に守らねばならない規制である。

具体的には、自分の顧客である需要家の電気の使用量と同量の電気を使用時と同時に送配電網に流し込まねばならないという規制である。その正確さは、現行法では、30分平均で使用量の3%の誤差範囲に収めなければ、罰金が科されるということになっている。

これは、送配電網に流れ込む電気(発電された電気のこと)と流れ出る電気(使用される電気のこと)との量の差が、30分平均で3%の範囲でなければ、送配電網の安定が保てないという自然科学的要請でもある。もちろん、自由化に向けて、この数値のより自然科学的に精密な見直しも必要であるが、いずれにせよ、数値はどうあれ、X分平均で、Y%の誤差範囲に収める同時同量規制は、不可欠である。

発電会社がこの規制を守るためには、リアルタイムに需要家の電気使用量を遠隔地のコンピューターから自動的に検針・観測できるスマートメーターが、必須となるのである。

以上のように説明した、コンピューターによるリアルタイム遠隔自動検針や、DRのための使用電力量の絞り込み制御や開閉制御に使われる、電力会社とスマートメーターとの通信ルートは、「Aルート」と呼ばれる。一方、DRのネガワット発電を生み出すシステムである、BEMS(Building Energy Management System)やHEMS(Home Energy Management System)とスマートメーターとの通信ルートを「Bルート」と呼ぶ。

Aルートの通信の物理層は、有線としては、光ケーブルやADSL(非対称デジタル加入者線)やPLC(Power Line Communication:電力線を使った通信規格)などが考えられ、無線としては、LTEやWiMaxなどが想定される。

Bルートの通信の物理層は、有線としては、光ケーブルや有線LANやPLCなどが考えられ、無線としては、WiFiやZig Beeなどが使われるだろう。

現行の積算電力計がそのような通信インターフェースを備えて、スマートメーターになるわけだが、ということは、検針員による目視検針の必要がなくなるため、戸外に設置する必要もなくなり、コスト的にも屋内設置が標準となっていくであろうと容易に想定される。

そうなるとスマートメーターは、メーター単品で製造されるよりも、BEMSやHEMSに組み込まれて一体となったり、少なくとも、例えばWiFi親局と一体化した複合機となったりする様相を早晩呈するものと予想される。

我々は、過去に類似の体験をしている。

1986年に電電公社が民営化されて通信産業が自由化されるまでは、各家庭には電電公社からいわゆる「黒電話」と呼ばれる無粋な電話機が配られていた。たいてい玄関の下駄(げた)箱の上かどこかに置かれていて、あまりのブサイクさに、お母さん達はかわいいプリント生地で作ったカバーを着せていたのを覚えてらっしゃる方も多いと思う。

その黒電話は、電電公社の民営化後、姿を消し、まずファクシミリと一体化し、今や、複合機として、プリンターなのかスキャナーなのかコピー機なのか、判断のつかないものへと変貌を遂げた。ここで重要なのは、そのように変貌した「電話機」を、我々は、街の電器店から自由に選んで購入しているということである。

政府の方針では、2015年までに、電力需要の80%をカバーする数のスマートメーターを普及させることになっている。100%普及に必要な8000万個の半数に相当する4000万個が設置されると見込まれている。

この4000万個は、電力会社が設置する形で普及されると見込まれているようだが、上に紹介したような複合機が、一気に出回り始めるようなことが起こらないという理由はない。2016年から2020年までには、100%普及に向けて残る4000万個の設置も見込まれているが、これは、ほぼ間違いなく複合機となるであろう。これが、今回の私の羅針盤の見立てである。

(「村上憲郎のグローバル羅針盤」は原則、火曜日に掲載します)

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