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中学生の歌がチャート入り 希望を届けた復興ソング

名曲の仲間入りをした歌、今までと違う輝きを得た名曲……。東日本大震災を境に、新たな脚光を浴びているメロディーがある。人の心と音楽のつながりが改めて問い直されるなか、被災地の人々、被災地を見守る人々に希望を届ける作品、音楽家を追う。

仙台市立八軒中学校吹奏楽・合唱部

個性的なアーティストが並ぶオリコンのインディーズ音楽チャート。2月27日付の同チャート週間シングルランキングの14位に異色の名前があった。「仙台市立八軒中学校吹奏楽・合唱部」――。被災地の子どもたちが奏でる合唱曲「あすという日が」(山本瓔子作詞、八木澤教司作曲)が感動の輪を広げ、とうとう上位入りを果たしたのだ。

「あすという日が」は昨年3月19日に福島市で開かれる予定の「声楽アンサンブルコンテスト全国大会」で八軒中学校吹奏楽・合唱部が歌うはずだった曲。大震災のため大会は中止に。同中の校舎自体が避難所として4月12日まで使われる中、部員たちが奏でた「あすという日が」は被災者100人に希望を与えた。その模様がテレビで紹介され、昨年7月には復興応援プロジェクト「シング・オール・ジャパン」の自主制作盤として発売された。大みそかのNHK「紅白歌合戦」でも夏川りみ、秋川雅史のデュエットで歌われるなど、大震災後を象徴する名曲の仲間入りをした。

同曲はそもそも震災前の2006年に作られた。「いま 生きて いること」を「なんて なんて すばらしい」と歌い、「あすと いう日が くるかぎり」「自分を 信じて」「しあわせを 信じて」と結ぶ詩はそのまま、大震災に遭い、愛する人々や土地を失った人々の心に響いた。今年2月末、日本コロムビアがコンピレーションCD「LIGHTS OF LIFE~明日のために」に同じ音源をそのまま採用したことで、さらに多くの聴衆を得ることになった。

震災をきっかけに新たな命を得た名曲の究極は、1914年(大正3年)に尋常小学唱歌として発表された「ふるさと」かもしれない。大震災直後の11年4月、世界的テノール歌手のプラシド・ドミンゴが周囲の反対を押し切って来日、東京のNHKホールやサントリーホールで日本の人々を励まそうと、不慣れな日本語で懸命に歌った。その姿が放映されて以来、震災後にダウンロード件数が急増した「アメイジング・グレース」や「上を向いて歩こう」などとともにチャリティー公演の定番に躍り出た。

この唱歌は高野辰之作詞、岡野貞一作曲との説が有力。鳥取県出身の岡野(1878~1941年)は米国人宣教師に音楽の才を発見され、東京音楽学校(現在の東京芸術大学音楽学部)へ進学。後に同校の教授を務めるかたわら40年近く、本郷中央教会で礼拝のオルガンを弾き続けた熱心なキリスト教徒。「ふるさと」のほかに「春の小川」「春が来た」「もみじ」などの名作を遺した。現代の作曲家、三枝成彰は「素朴ながらも祈りに満ち、いい曲が多い」と評価する。

三枝は今年3月23日、「岡野貞一へのオマージュ」と題した演奏会を「とりぎん文化会館梨花ホール」で企画している。自身のほか千住明、小六禮次郎、服部克久ら一線の作曲家が新たな編曲を施し、ソプラノの佐藤しのぶ、中丸三千繪、ピアノの横山幸雄、熊本マリ、バイオリンの川井郁子、ボーカルの白井貴子、倍賞千恵子ら豪華アーティストが出演する。熊本が弾く「ふるさと」は自身の編曲。岡野再評価の好機だろう。

天平らが立ち上げた被災地支援プロジェクト「ライジング・サン」のチャリティーコンサート(2012年3月7日、かつしかシンフォニーヒルズ)写真提供=Project Rising Sun

曲だけではない。被災から1年。一過性のイベントや話題先行の新曲は姿を消したが、息の長い支援活動を続ける音楽家の存在感は逆に増している。

コンポーザー&ピアニストの天平は大震災が発生した時、ニューヨークの自宅にいた。阪神淡路大震災に遭い、自宅が全壊した当時は「中学2年生で、何もできなかった」という。「レクイエム」「Rising Sun」の2曲を完成すると日本の新聞社や写真家から画像を取り寄せ、動画サイトで組み合わせて公開、世界中に支援を呼びかけた。

「阪神淡路大震災では街の復興に2年かかった。東北はもっと大変だろうが、建物が整ったら次は精神の復興。音楽を通じた心のケアとか、楽器の調達が必要になる」と確信。被災地へのピアノ寄付を募り、受け入れ先とつなぐプロジェクト「ライジング・サン」(projectrisingsun.info@gmail.com)を立ち上げた。3月7日には東京・かつしかシンフォニーヒルズで「被災地とピアノでつながろう」と呼びかけ、同プロジェクトのチャリティー・コンサートを開いた。

日本を代表するミュージシャンも印税を義援金として活用するための新曲を相次ぎ発表した。坂本龍一は小林武史と組み、細野晴臣と高橋幸宏のほか布袋寅泰、今井美樹、一青窈、小泉今日子、桜井和寿、トータス松本ら30人と「JAPAN UNITED with MUSIC」を組織し、チャリティー・ソングの「All You Need Is Love」を配信した。大手音楽事務所のアミューズは桑田佳祐、福山雅治、BEGIN、ポルノグラフィティ、Perfumeら所属アーティストを総動員、「チーム・アミューズ」の名称で桑田がテーマ部分を作詞・作曲したスペシャルソング「Let's try again」を発表。さらにAKB48は「風は吹いている」、EXILEは「Rising Sun/いつかきっと……」と人気グループも復興支援ソングを出した。

異彩を放ったのは福島出身のアーティスト4人による猪苗代湖ズ。2010年9月に裏磐梯高原で開催された「風とロック芋煮会」を機に結成されたグループだ。昨年末の「紅白歌合戦」に出場して歌った「I love you & I need you ふくしま」も元々は「アイラブユーベイビー 福島」という曲名で、結成直後からのレパートリーだった。震災を機に改名してレコーディング、福島県出身の俳優の西田敏行らが出演したビデオクリップも制作され、印税をすべて、義援金に充てた。「あすという日が」と同じく、大震災以前に作られた楽曲が新しい意味を担った。ひたすら「ふくしまが好き!」と絶叫する楽曲の芸術性を問う声もあるが、被災現地から発信する骨太のメッセージには、プロデュースされ尽くされた集団にはない強さがあった。

最後に異色の復興支援曲をひとつ。フランスの作曲家、モーリス・ラヴェルが1928年に発表した管弦楽曲「ボレロ」である。ドミンゴの来日と同じ昨年4月、「常任指揮者としての来日は当然の責任」と言い切り、読売日本交響楽団の指揮台に上ったフランス人シルヴァン・カンブルランは、同じ旋律を執拗に繰り返した後、ただ一度の転調で大爆発に至る「ボレロ」を大震災に重ね、味わい深く再現した。

「『ボレロ』の意味は華やかな通俗名曲にとどまらない。ほぼ単調な毎日の繰り返しがある日、瞬間的に崩壊する苦い真実を深くえぐった作品だ」と、カンブルランは強調する。10~11月にはフランスのバレエダンサー、シルヴィ・ギエムが欧州で参加してきた日本支援のプロジェクト「HOPE JAPAN」を携えて現れ、2005年から原則封印してきたベジャール振付の「ボレロ」を福島県いわき市で踊った。「この作品はエネルギーがあり、勇気を与えてくれる」。全身全霊をこめた踊りに、いわき芸術文化交流館アリオスを埋め尽くした観客は静まり返り、大団円の直後、激しい歓声が爆発したという。「ボレロ」は作曲者と国籍を同じくする2人の芸術家により、震災後の日本で新たな意味を獲得した。

今年の3月11日。被災地の人々、被災地を見つめる人々それぞれの胸に響いたのは、どのような音楽だったのだろうか。

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