■日本で法整備・規制は進むのか
それでは、日本ではRMTに対する法規制まで進むのだろうか。家庭用ゲーム機の業界団体であるコンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、いち早く、06年に「オンラインゲーム運営ガイドライン」を発表している。
この中では、「オンラインゲーム内での不正はオンラインゲームデザイン等に基づきサービス提供会社が定義するものであり、当協会はこれを尊重する」「不正行為については各運営企業の判断により対処」するなど、基本的に各企業に任され、業界団体として統一的な見解を持たないことが規定されている。
当時、CESA加盟各社は、国の法整備によってRMT問題を解決することを望んでいなかった。法律や規制により硬直したルールができると、結果的にゲームの開発や運営の自由度が下がり、弾力的に事業やサービスを展開できなくなるという懸念を持っていたからだ。
所轄官庁の経済産業省も当時、RMTの問題が社会的に注目されているのを認識しつつも、経済規模が(多めに見積もっても)1000億円以下であることを考慮すると、日本経済への影響も小さく、早期から行政が動く必要性はないという姿勢だった。
また、RMTを「ギャンブル」と規定するには、かなり難しい議論が想定された。ゲームのRMT以前に、パチンコをどう扱うかという問題にぶつかるからだ。
ギャンブル行為は刑法第185条で明確に禁じられているが、条文の制限事項「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」に該当するとして、パチンコはすでに50年以上、扱われてきている。
パチンコホールで勝った場合に、景品問屋から卸される特殊景品が提供され、それを換金所に持ち込んで現金化するという仕組みは、「三店方式」と呼ばれる。
違法状態にあることを管轄官庁の警察庁も認識しているが、現在は、表向きは換金所も景品問屋も存在がないものとして成り立っている。
この矛盾を解決するため、業種として定義する「パチンコ業法」の成立が求められてきた。10年には民主党も動いたが、結局、現在まで成立していない。この曖昧な問題が解決できていない状態で、RMTをギャンブルとして行政が規制の網をかけることはハードルが高いだろう。
だからこそソーシャルゲーム会社には、今回起きたカードの不正複製とRMTの問題を自助努力で早期に解決することが求められるだろう。健全な娯楽のツールとして、また、日本経済のエンジンの一つである産業として、ゲームが社会とどう折り合いをつけるかが問われている。
新清士(しん・きよし)
1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表、立命館大学映像学部非常勤講師、日本デジタルゲーム学会(digrajapan)理事なども務める。