/

ソーシャルゲーム「換金市場」の実態とは、競売サイトを温床に膨張

ゲームジャーナリスト 新 清士

グリーの看板ゲーム「探検ドリランド」にあったバグ(ソフトの不具合)を利用してレア(希少)アイテムを複製し、オークションサイトを介して高額で売りさばくケースが出ている。パソコン向けのオンラインゲーム業界では長年、ゲーム内で流通する仮想通貨やアイテムを現金化する「リアル・マネー・トレード(RMT)」の問題に苦慮してきた。これがソーシャルゲーム分野にも波及したことで、ゲームやオークションのサイト運営会社は対応に追われることになる。だが、RMT市場に関する制度や法律は国・地域によって異なり、ゲームの健全性と自由度を維持しながら不正行為を排除するか、日本の業界なりの知恵が問われている。

グリー「探検ドリランド」の公式ページ

現時点でRMTを禁止する法律はない

RMTを巡っては、2004年ごろ、パソコン向けオンラインゲームで深刻な問題として広がった。舞台は「ラグナロクオンライン」(ガンホー)や「ファイナルファンタジーXI」(スクウェア・エニックス)などに代表されるオンライン大規模RPG(ロールプレイングゲーム)。ゲーム内で使う仮想通貨を売買する専門の仲介業者が登場して、その存在が注目されるようになった。

同業者を使えば仮想通貨を容易に現金化できる。このため様々な不正ツールを駆使し仮想通貨を複製したり、中国など海外からインターネットを通じて換金目的で組織的にゲームにアクセスしたりする行為も目立った。

仮想通貨やアイテムが不正に作れるとなると、不公平感が生じ、ゲームの楽しみが失われてしまう。ゲーム会社側が適切な取り締まりの策を講じなかったことに対してユーザーが怒り、「ラグナロクオンライン」などでは、大規模な抗議行動に発展したこともある。

ゲーム会社は「利用規約」でRMTを禁止しこの問題と争ってきたが、日本ではRMT自体を禁止する法律や規制は存在しないのが現状だ。

2010年には愛知県警が、オンラインゲームで仮想通貨などを入手、換金して数千万円を稼いでいた少年グループを摘発したケースがある。しかしRMT行為自体で逮捕された訳ではない。他人のIDとパスワードを使い、本人になりすましてゲームに侵入した「不正アクセス禁止法」容疑での逮捕になっている。

このため、各ゲーム会社は規約違反行為をしたユーザーを割り出す分析ツールで本人を特定してアカウントを削除したり、高度化する不正手段をサーバ内で使えないようにしたりと、イタチごっこを続けている。それでも、仮想通貨やアイテムを換金する国内の専門業者は、現在も存在している。

RMT問題は多くの「追従者」を生む

オンラインゲームの場合、ユーザーはお金と時間を費やしてゲームを進めていく。このため自分の「キャラクター」や、入手した「アイテム」が単なるデジタルデータにもかかわらず、"資産性"を感じるようになる。

また、本来であれば、ゲームごとに決められたルールに沿ってしか、レアアイテムは入手することができない。だから、現実の世界と同じような希少価値が発生し、それを求めるニーズが生まれる。

それを現実の社会における価値に変えるのが「換金市場」であるRMTだ。ゲームの人気が続き、アイテムなどのニーズが存在する限り、換金目的のユーザーはありとあらゆる手段を使って、システムの脆弱性を突こうとする。不正行為に手を染めるグループとゲーム会社との争いはエスカレートしていく。

携帯電話やスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)向けのソーシャルゲームでも、アイテムを他のユーザーと交換する機能があるため、RMTを巡るトラブルは原理的に起こりえることだった。ただ、パソコン向けのゲームは広い仮想世界を歩き回って遊ぶのに対し、携帯向けゲームは構造が比較的単純なため、RMT行為はそれほど広がらないと考えられてきた。

とはいえ、人気のあるソーシャルゲームでは、「Yahoo!オークション」を中心にカードやアイテムのRMT行為は広く存在している。グリーの場合、バグを突いて複製されたカードを大量に売買するユーザーがいたため、その行動がより目立ちやすかった。さらに、アイテム課金の額が高いことから、苦労してレアカードを入手したユーザーの間に強い不公平感が生まれている。

レアアイテムを容易に手に入れ、換金する方法の存在がわかった以上、それが不正行為であっても、他のゲームで同様のやり方によって収益を得ようとする多くの追随者が登場してくるだろう。

韓国でゲームを発売する前には公的機関「ゲーム物等級委員会(GRB)」の審査が必要(同委員会のウェブサイト)

RMTに対する各国の温度差

RMT問題は国・地域ごとに状況が違うため、日本固有の側面があることを理解しておいた方がよい。

オンラインゲーム先進国の韓国では06年ごろ、RMTが社会問題になった。オンラインギャンブルの仮想通貨が、暴力団の資金源になったからだ。同国は06年、RMTを包括的に禁止する「ゲーム産業振興に関する法律」を制定。現在、韓国でゲームを発売する前には、この法律で定められた公的機関「ゲーム物等級委員会(GRB)」の審査を受け、賭博性を持っていないかどうかのチェックを受けなければならない。

ただ07年には、RMT行為を行っていたユーザー2人が同法に基づいて起訴され、最高裁まで争われた。ユーザー側は「ゲーム参加者の『努力』『経験』の積み重ねで仮想通貨を獲得することは、ギャンブルにはあたらない」との立場を主張し、最終的に勝訴するというケースが出ているため、法律には解釈の余地が残されている。

中国から米国に向けてRMTのサービスを提供している「Playerauctions.com」のウェブサイト

米国では06年に「インターネットギャンブル禁止法」が成立し、RMT行為が禁止されている。例えば、オークションサイトのeBayで、米ジンガの3000万人ユーザーを抱える「ポーカー」で検索をすると、「フェイスブック、マイスペース、iPhoneなどすべての種類のポーカーゲームのチップについて」という注意書きが現れる。そこでは「オンラインギャンブリングにあたる仮想アイテムや、違法行為のプロモーションは認められない」とし、抵触する行為をした場合には「禁止品として削除する」としている。RMTが皆無という訳ではないが、大手のオークションサイトではほとんど見当たらない。

10年には、中国から米国に向けてRMTのサービスを提供している「Playerauctions.com」に対して、ジンガは自社の利用規約に反して、仮想通貨やアイテムを販売しているとして提訴した。「Playerauctions.com」のサイトでは現在も、RMTの仲介業者として大規模オンラインRPGの仮想通貨などを取り扱っているが、ジンガなどフェイスブック上のソーシャルゲームのタイトル名はない。

もう一つのオンラインゲーム大国、中国では、RMTは実体経済に組み込まれている。

中国で市場占有率50%以上を誇るRMT専門サイト「5173」

昨年10月にはRMTの専門サイト「5173」が香港証券取引所に上場申請した。登録ユーザー数は4400万人超で、10年の売上高は70億元(896億円)以上だ。中国のRMT市場は1700億円以上といわれており、同社の市場占有率は50%以上に相当する。

中国のオンラインゲームは、遊んで得られるアイテムなどを換金できるギャンブル的な要素がないと大ヒットが難しいといわれている。日本のパチンコに近い娯楽として理解されており、換金目的のユーザーのなかには独自のハッキングツールを開発する人々もいる。政府も違法状態と見なしてはいるものの、本格的な取り締まりは行ってはいない。

オークションサイトが助長するRMT

日本では、業界団体の日本オンラインゲーム協会が09年に発表した「オンラインゲームガイドライン」で、「どのような課金方式を用いたゲームであっても、お支払いの有無にかかわらずお客様にデータ自体の所有権はございません」と明確に規定している。

加盟企業がRMT行為の「完全禁止」を掲げているケースもあり、非加盟企業でも利用規約で禁じているのが基本。それはソーシャルゲーム業界でも変わらない。

それでも日本のソーシャルゲームではRMTが急速に浸透してきている。背景には「Yahoo!オークション」など、ユーザー間で売買が自由にできる市場が存在していることが大きい。同サイトには「出品にあたっての注意」のなかで、「禁止出品物」を定め、その一つに「他人の権利を侵害する商品」を規定している。RMTに関連する部分は以下となるだろう。

「著作権(複製権侵害については記録メディアを問いません)、無断複製した音楽CDや映画、ゲームソフト、コンピュータソフト、海賊版、テレビの録画テープ、ラジオの録音テープ、許諾のないプレインストール販売など」

問題はRMTで換金されているソーシャルゲームのアイテムが、ゲーム会社が所有する「著作権」に該当するのかどうか、という点だ。Yahoo!は06年から、ユーザーが出品する仮想通貨の販売を認めている。現在でも「ファイナルファンタジーXI」などの仮想通貨を簡単に見つけることができ、ソーシャルゲームのRMT行為にも同様のスタンスでのぞんでいると考えられる。

このことから考えると、Yahoo!はデータ自体に著作権があるとは見なしていないようだ。実際、ユーザーがゲームで遊んだ「記録」や「成果」に相当する「セーブデータ」に著作権があるかどうかは、現在でも判例がないため、不透明な部分だ。

日本で法整備・規制は進むのか

それでは、日本ではRMTに対する法規制まで進むのだろうか。家庭用ゲーム機の業界団体であるコンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、いち早く、06年に「オンラインゲーム運営ガイドライン」を発表している。

コンピュータエンタテインメント協会(CESA)のウェブサイト

この中では、「オンラインゲーム内での不正はオンラインゲームデザイン等に基づきサービス提供会社が定義するものであり、当協会はこれを尊重する」「不正行為については各運営企業の判断により対処」するなど、基本的に各企業に任され、業界団体として統一的な見解を持たないことが規定されている。

当時、CESA加盟各社は、国の法整備によってRMT問題を解決することを望んでいなかった。法律や規制により硬直したルールができると、結果的にゲームの開発や運営の自由度が下がり、弾力的に事業やサービスを展開できなくなるという懸念を持っていたからだ。

所轄官庁の経済産業省も当時、RMTの問題が社会的に注目されているのを認識しつつも、経済規模が(多めに見積もっても)1000億円以下であることを考慮すると、日本経済への影響も小さく、早期から行政が動く必要性はないという姿勢だった。

また、RMTを「ギャンブル」と規定するには、かなり難しい議論が想定された。ゲームのRMT以前に、パチンコをどう扱うかという問題にぶつかるからだ。

ギャンブル行為は刑法第185条で明確に禁じられているが、条文の制限事項「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」に該当するとして、パチンコはすでに50年以上、扱われてきている。

パチンコホールで勝った場合に、景品問屋から卸される特殊景品が提供され、それを換金所に持ち込んで現金化するという仕組みは、「三店方式」と呼ばれる。

違法状態にあることを管轄官庁の警察庁も認識しているが、現在は、表向きは換金所も景品問屋も存在がないものとして成り立っている。

この矛盾を解決するため、業種として定義する「パチンコ業法」の成立が求められてきた。10年には民主党も動いたが、結局、現在まで成立していない。この曖昧な問題が解決できていない状態で、RMTをギャンブルとして行政が規制の網をかけることはハードルが高いだろう。

だからこそソーシャルゲーム会社には、今回起きたカードの不正複製とRMTの問題を自助努力で早期に解決することが求められるだろう。健全な娯楽のツールとして、また、日本経済のエンジンの一つである産業として、ゲームが社会とどう折り合いをつけるかが問われている。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表、立命館大学映像学部非常勤講師、日本デジタルゲーム学会(digrajapan)理事なども務める。

春割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で申し込むログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で申し込むログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で申し込むログイン