ジャンル・区分問わず、幅広い年齢層の応募を

2012/1/30付
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18日に「共喰い」で芥川賞受賞が決まった田中慎弥さんが記者会見でこうユニークな感想を述べていた。

「シャーリー・マクレーンがアカデミー賞をもらった時、『私がもらって当然だ』と言ったが、大体そんな感じ。4回も落とされて、断るのが礼儀だが、私は礼儀を知らないので」

幼い時に父を亡くし、母の支援で高校卒業後も働くことなく、毎日机に向かってきた人らしい真情を吐露していたといえる。

文学賞はただちに文芸復興や文芸隆盛につながるものではない。しかし、田中さんのように頑張ってきた人、未知の輝く才能をもった人を発掘して、光をあてて世の中に押し出していく役割を果たしてきた。文芸誌と並んで文壇を下支えしてきた両輪だ。

文学賞は出版社、新聞社、テレビ、一般企業、はては地方自治体までが創設していて総数は400を超える。芥川・直木賞はすでに雑誌や本などで発表された作品から選ぶ賞だが、これからデビューしたい新人に向けては未発表の小説を広く公募する公募新人賞が数多く創設されている。

小説の公募新人賞をみると、「文学界」「新潮」「群像」「オール読物」「小説すばる」などの文芸誌の名を冠した新人賞と、「江戸川乱歩賞」「城山三郎経済小説大賞」「日本ホラー小説大賞」などのジャンルを絞った新人賞が目につく。

2006年に本紙創刊130年を記念して創設された「日経小説大賞」は300枚以上の長編が対象。物語性が豊かで、時代性、社会性、娯楽性を兼ね備えていれば、ジャンルのみならず、純文学やエンターテインメントの区分も問わないのが特色だ。賞金1000万円と高額だったことでも話題を集めた。

これまでに3回(06年、08年、11年)実施し、第1回は受賞作に武谷牧子「テムズのあぶく」、佳作に三輪太郎「ポル・ポトの掌(て)」、第2回は受賞作に萩耿介「松林図屏風」、第3回は受賞作に梶村啓二「野いばら」が決まった。

注目したいのは恋愛、冒険、歴史時代、ミステリー、政治社会、ファンタジー、SFなど応募作品のジャンルが多彩だったこと。意外にも経済小説はそう多くはなかった。

武谷さんの「テムズのあぶく」は本格的な恋愛を、三輪さんの「ポル・ポトの掌」は現代日本社会を、萩さんの「松林図屏風」は長谷川等伯の生涯を、梶村さんの「野いばら」は悲恋の物語を描いている。第2回受賞者の萩さんと第3回受賞者の梶村さんはその前の回では最終候補に残ったものの落選しており、再度の挑戦で賞を射止めた。2人のように連続しての応募者が多いのも特色だ。

日経小説大賞は今年から賞金を500万円にして毎年実施することとし、選考委員は伊集院静、高樹のぶ子、辻原登の作家だけとするなどのリニューアルをした。これだけ間口の広い公募新人賞は少ない。幅広い年齢層の応募を期待したい。(編集委員 浦田憲治)

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