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急成長フェイスブックが「新社屋」に込めた思い

「ハードワーク」「スピード」を支える巨大本社の居心地は

交流サイト(SNS)最大手の米フェイスブックが、新本社への引っ越しを完了した。年率5割という驚異的なスピードで社員を増やしている同社が新たなホームグラウンドとして選んだのは、東京ドーム5個分という広大な敷地に建つビル群だ。

記者はいち早く現地を訪れて内部を取材。シリコンバレー随一の急成長企業が新たな拠点に込めた思いを探った。

敷地は東京ドーム5個分と広大
引っ越しが完了した新本社

米カリフォルニア州メンロパーク市。スタンフォード大学に近接する同州パロアルト市の旧本社からクルマで15分ほどの距離にある新本社は、サンフランシスコ湾に面した立地で、シリコンバレーを南北に貫くハイウエー101の出入り口に近い。

サンフランシスコ湾を横断するダンバートン橋にも近接しており、旧本社よりも交通の便は良い。

現地を訪れるとまず迎えてくれるのは、フェイスブック利用者にはおなじみの親指を突き立てた手を模したマーク。

フェイスブックでお馴染みの「いいね!」の看板が出迎えてくれる

ここはIT(情報技術)機器大手の米サン・マイクロシステムズの旧本社で、数カ月前まではサンのロゴを描いた看板がかかっていた。それがいつの間にか「親指印」に変わっていた。

指定された建物の入り口に向かう。上場時の時価総額が1000億ドル(約7兆7000億円)とも噂される企業の正面玄関としては小さく地味な印象だ。

時価総額1000億ドルといえば、米IT企業ではヒューレット・パッカード(HP)やアマゾン・ドット・コムを上回り、日本企業ではトヨタ自動車に次ぐ水準だ。

玄関をくぐると、「質素」という印象が一層強くなる。床はコンクリートむき出しで、カウンターはベニヤ板のような素材で4席しかない。旧本社に比べれば大きくなったが、これで来客をさばききれるのかと心配になってしまう。

新本社の正面玄関は意外と質素
受付のスペースもさほど大きくない

受付の後ろにはエアブラシで描いたような絵画が掛かり、オフィスに足を踏み入れたところ、落書きかアートか判別が難しいような"作品"も。

かつての本社は、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が「創業の地」である学生寮と同じような雰囲気をつくるために壁画を描かせたが、この伝統は新本社にも引き継がれているようだ。

フェイスブックがこの地への移転を決めたのは2011年2月。それから半年程度をかけて改装工事を進めた。だが、いまだに「工事中」の香りがするのは、実際に工事が終わっていないという事情のためだけではない。

一人一人の執務スペースを仕切るパーテーション(ついたて)は一切なく、周囲の社員と気軽に話ができる空間にした

完成した区域でも床はコンクリートむき出しで、天井も空調のダクトや各種配線がそのままになっている。

もともとあった床や天井を外してこの状態にしたそうだが、その狙いは「未完成という雰囲気をつくり、まだやるべき仕事が残っているということを社員に周知するため」(不動産担当のディレクター、ジョン・テナネス氏)という。

社員が3000人を突破したフェイスブックはもはやベンチャー企業とは言い難いが、それでもベンチャー精神を維持するのに懸命だということが伝わってくる。

社員の執務エリアに目を向けると、1人あたりのスペースはそれほど大きくない。

机の上はパソコンのモニターが相当のスペースを占め、机の下にもキャスターの付いた引き出しがある程度。米国の企業で一般的なパーテーション(ついたて)はなく、「隣や後ろの社員とすぐに話ができる距離」(社員の一人)だ。

休憩スペースは社員のコミュニケーションにとって大きな役割を果たしている
社内の至る所にある黒板も重要なコミュニケーションの道具

一方、目立つのがあちらこちらに設けられた休憩スペースだ。

カーペットと籐製の椅子でリビングルームのような演出をしたり、カラフルなソファを配したりと遊び心がある。

一人ひとりの執務スペースはやや窮屈な半面、こうした空間でリラックスして過ごすことを推奨しているかのようだ。

その背景には、フェイスブック、もしくは急成長企業ならではの事情がある。

社員の増加に応じてヤドカリのように拠点を移転・拡張してきた同社は、これまで本社が複数の拠点に分散していた。

本社移転に際して担当者は「社員間のコミュニケーションを円滑にすることが狙いのひとつ」と話していたが、多くの休憩スペースにはこうした考えが反映されている。

飲料や軽食がずらり。すべて無料
トイレには歯ブラシやマウスウオッシュも

IT企業の集積地であるシリコンバレーでは、優秀なエンジニアの争奪戦が繰り広げられている。

グーグルやアップルを含め有力な各社とも、世界中から集まってくる「頭脳」の力を十分に発揮してもらえるよう社屋の快適さや福利厚生を競っており、フェイスブックも例外ではない。

社内のあちこちにはキッチンが設けられ、飲料や軽食は無料。もちろん社員食堂もタダだ。

トイレには無料の歯ブラシやマウスウオッシュなども多数、備え付けられており、オフィスで生活ができるくらい至れり尽くせりという印象だ。

もっとも「厚遇」の背景には、信賞必罰の評価制度と、ハードワークがある。無料の軽食や社食も、仕事に没頭させるための仕組みにほかならない。

好きな料理を好きなだけ食べられる
社員食堂はシリコンバレー流でもちろんタダ

さらに興味深かったのは、机付きのルームウオーカー(室内歩行器)だ。

電話が備え付けられており、パソコンも持ち込むことができる仕掛けだ。

「運動中も仕事をせよ」というメッセージなのだろうか。冗談か本気かにわかには判断できない代物だ。

一方、明らかに冗談だと分かる"備品"の代表格は「スーパーマンの衣装と着替え用の電話ボックス」。しかし、ルームウオーカーは使われている形跡があり、いくつも設置されている。

「考えがまとまらないときには歩くのが有効」(広報担当のアリエル・アリア氏)という声もあったので、歩行器は冗談ではなく、社員の脂肪と知恵を同時に絞る道具なのかもしれない。

仕事しながらウオーキングができる歩行器。「脂肪」と「知恵」を絞る
スーパーマンの衣装と電話ボックス。冗談で置いてある"備品"

フェイスブックの新本社はスピード感のある事業展開を支える「コミュニケーション」と、急成長の原動力となる「ハードワーク」がキーワードのようだが、もうひとつ挙げるとすれば「環境への配慮」だろう。不動産担当のディレクター、テナネス氏は移転に際してブログに「新しいドアは1枚もない」と書いているが、実際に足を運んでその意味が分かった。

多くの壁やついたてを外して大きな空間にしているので、そもそもドアがあまり必要ないという事情もあるが、会議室などでは前の"住人"であるサンのロゴが入ったドアを再利用している。

最初見たときはぎょっとするが、環境対応はもちろんのこと、シリコンバレーを代表するIT企業だったサンへの尊敬の念を示しているようにも受け取れる。

社内の仕切りには「旧住人」であるサンのロゴが残っている

サンはスタンフォード大学発祥の名門IT企業で、UNIXで一世を風靡(ふうび)した。だが技術革新の波に乗り遅れて業績が悪化し、2010年に米オラクルが買収して姿を消す。

30年足らずの歴史の中での栄枯盛衰は、IT業界の変化のスピードの速さと、変化に対応できなければ存続すら許されないという厳しい現実を象徴している。

再び、フェイスブックの新本社。取材を終えて最初に見た親指を模した看板の写真を撮ろうと近づくと、はっと息をのんだ。

なんとかつて長らくこの場所に設置してあったサンの看板が裏側にそのまま残っていたからだ。かつてのサンの"顔"が、新たな住人でにぎわうフェイスブックの新本社を見つめる格好になっている。

看板の裏側にもサンの名残

フェイスブックは世界の利用者が8億人を超え、広告収入も順調に拡大。米IT企業としては過去最大規模の新規株式公開(IPO)が間近とされている。

目下、絶好調といっても差し支えないが、それでも自己革新のスピードを遅めたら歴史の藻くずとなりかねない。数々のサンの"足跡"にはそんな戒めが込められているように感じられた。

(シリコンバレー=奥平和行)

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