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米違法コピー防止法案で対立過熱、コンテンツvsネット サイバー攻撃も

ITジャーナリスト 小池良次

米国で海外での違法コピー摘発を狙った「オンライン海賊行為(著作権侵害)防止法案(SOPA)」と「知的財産保護法案(PIPA)」を巡り、コンテンツ産業を代表するハリウッドとインターネット業界が対立を深めている。

ネット百科事典のウィキペディアが法案に反対して一時、サービスを停止するなど抗議行動が強まる一方、米司法省と米連邦捜査局(FBI)はオンラインストレージの「メガアップロード(Megaupload)」を違法コピーの温床とみて摘発。SOPAに反対する勢力によると見られるサイバー攻撃も発生している。混乱が拡大していることから米下院はSOPAの審議を延期することを決めた。

ネットが世界経済を動かすインフラとなり、映画や音楽、書物などの著作権侵害が看過できない規模になっているのは事実だ。半面、SOPAなどによる規制が「ネットの自由」を脅かし、今後の成長の足かせになるとの懸念もある。政府、ネット業界、コンテンツ産業の利害が複雑に絡んでいることが、事態の先行きを見通せない背景になっている。

ハリウッドの働きかけで生まれたSOPA/PIPA

SOPA(Stop Online Piracy Act)法案は、連邦議会下院のラマー・スミス議員(共和党、テキサス州選出)が2011年10月に起草した。上院ではパトリック・リーヒー議員(民主党、バーモント州選出)が、11年5月に同様の法案PIPA(PROTECT IP Act)を提出している。

両法案は、アメリカ映画協会(MPAA)を中心とする映画スタジオやコンテンツ制作会社および大手ケーブルテレビ(CATV)などが議会に働きかけて生まれた。米国のエンターテインメントン業界は、映画やテレビ番組の違法コピーに長年悩まされてきた。こうした違法サイトは米国外を拠点に活動をおこなっており、その摘発を狙った法案は、今年だけでなく、過去数回にわたって起草されてきた。しかし、いずれも成立には至っていない。

今回注目を浴びているSOPA法案は、(1)裁判所の許可を得て司法省が海外にある違法コピーサイトの捜査を進め、(2)違法性が確認されればインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)やネット広告、決済機関など関連する事業者に取引停止を命令できる、(3)違法サイトへのアクセスを食い止めるためドメインサーバーからの削除をおこなうことができる――という特徴を持っている。

こうした内容に対して、「ネットの自由」を標榜して活動しているパブリック・ナレッジ(Public Knowledge)や電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation)などの一般市民団体、米グーグルや米フェイスブックなどのネット業界は、弊害が多すぎるとして反対した。反対派は違法コピーを容認しているわけではないが、両法案の内容はインターネットに"検閲制度"を設けることになり、言論表現の自由の阻害につながると主張している。

ウィキペディアのストライキで一気に関心高まる

SOPA/PIPA法案を巡る「賛成」「反対」の両陣営の対立は厳しさを増している。ハリウッドを中心とする推進派は、大物ロビイストを雇い、昨年秋から議会での働きかけを強めた。また、司法省を中心とする規制当局も法案成立による規制強化に前向きの姿勢を示した。

一方、反対派は、一般大衆が知らない間に連邦議会で成立を狙うハリウッドの姿勢を批判し、議会は「サイレント・マジョリティー(表面に現れない民意)の声を聞くべきだ」と主張した。こうして、11年末には業界誌や大手新聞などによるSOPA法案に関する記事が多数書かれるようになり、反対活動は盛り上がりを見せた。

しかし、推進派はクリスマス休暇をはさむことで反対勢力の盛り上がりの沈静化を狙う巧妙な戦略を展開。年が明け、議会では両法案の審議が再開され、1月下旬をめどに上下院小委員会で評決への準備が進んだ。

焦燥感を強めたネット業界や市民団体は、抗議活動を活発化させた。市民団体が電子メールやセミナーなどによる認知活動を強化したほか、グーグルは両法案に反対する署名ページを開設し、瞬く間に700万人を超える署名を集めた。

反対活動の中でもっとも注目を集めたのは、ネット百科事典ウィキペディアによるストライキだ。同団体は英語版サイトを抗議のために丸1日閉鎖した。これは大手メディアだけでなく、地方紙やミニコミ誌などにも取り上げられ、SOPA/PIPA法案に対する大衆の関心を一気に喚起した。

MPAAなど推進派は「ウィキペディアのストライキは同社のユーザーに不便を与えるだけでなく、利用者を人質とした悪質な行為である」と激しく非難している。しかし、同ストライキを支持する意見は多く、反対行動としては非常に効果が高かった。

日本のメディアも、このウィキペディアのストライキを契機に同問題に目を向け、報道で頻繁に取り上げられるようになってきた。

日本のネットユーザーにも無関係ではない

日本の業界関係者や一般消費者も関心を持たなければならないのは、インターネットへの規制介入を目指すSOPA/PIPA法案が、米国だけでなく日本を含む諸外国にも大きな影響を与えるからだ。

最近、開発者が無罪判決を勝ち取ったファイル交換ソフトウィニー(Winny)を巡る裁判のように、日本でも違法コピーは深刻な問題となっている。匿名サイトや交流サイト(SNS)などを舞台にした違法コピーの摘発が難しいのは日米に限らない。こうした状況下で、もしSOPA法案が成立すれば、日本のネットビジネスに対して米司法省が捜査に乗り出してくる可能性は否定できない。

また米司法省の要請によって日本の捜査当局が協力し、インターネット・サービス・プロバイダーが情報提供などを求められることも予想される。もし日本のプロバイダーが摘発され、それが事実誤認だったらどうなるか。摘発されたことで決済機関や銀行から取引停止処分を受けるなどの影響(損害)があった場合、当事者は米国で裁判を起こし争うことになり、これは日本の事業者にとっては非常に大きな負担となる。

米国の反対派は、こうした国をまたいだ越境捜査の効果について懐疑的で、「SOPAのような規制法を導入しても違法サイトが秘密活動を強めるだけであり、一掃するのは難しい。逆に、誤認による風評被害や損害が発生したり、検閲によって表現の自由が阻害されたりする」と反論している。

そのほか、法案に盛り込まれたドメインネームの削除は大きな論議を呼んでいる。ドメインネームとは、特定のサーバーにアクセスするためのアドレスで、インターネットを運営するための基幹部分にあたる。郵便であれば住所や郵便番号にあたり、もし削除されれば、郵便を受け取ることができなくなる。SOPA/PIPA法案の推進派は、違法サイトのドメインネームを削除すれば、一般大衆がアクセスすることができなくなるため、違法コピーを撲滅する切り札として期待している。

だが、このドメインネーム削除問題は、難しい側面を持っている。米国でも日本でも、わいせつなコンテンツや違法コピーなどに対して、プロバイダーや通信事業者が自主的にフィルターをかけてアクセスを制限することは認められてきた。その場合、事業者や一般ユーザーが同制限に納得できなければ、プロバイダーを変更するという選択の余地がある。

しかし、SOPA法案ではプロバイダーに削除を強制するもので、ユーザーに選択の余地が残されていない。また、ドメインネーム・システムは世界中のネットユーザーが利用しており、国際的な資産といえる。米国政府がSOPAを導入することで「国際運用されているインターネットにハリウッドの利権問題を持ち込むことになる」との声もある。米国に対抗して、ほかの国も利権問題を持ち込むようになれば、インターネット自体が分断され、グローバルな運営が難しくなることが懸念される。

このドメインネーム操作は、多岐にわたる問題を抱えていたため、審議の過程でSOPA法案から削除された。

勢いそがれた法案賛成派、次のチャンスを狙う

ストライキや大規模署名を展開する反対派の動きにより、現在、SOPA/PIPA法案は頓挫している。1月上旬、ホワイトハウスは「技術スタッフ報告」という形式で、同法案に対する反対姿勢を示したほか、共和党を中心に同法案の支持撤回を発表する議員が相次いだ。

1月20日には、上院院内総務の談話としてPIPA法案の評決が延期になる一方、下院司法委員会も「十分な同意が得られていない」としてSOPA法案審議の延期を決めている。

ただ、連邦議会が審議中断を決める直前、米FBIはニュージーランド警察などの協力を得て、国際的な違法コピー活動を行っているとされるMegaupload.comを摘発、幹部を逮捕した。同団体は世界各地にファイル共有サーバーを展開し、2005年から1億7500万ドル(約135億円)の違法な利益を得ていたという。

この摘発直後、米司法省やユニバーサル・ミュージック・グループなど少なくとも6カ所のサイトに対してサイバー攻撃がおこなわれ、司法省のサイトは一時閉鎖に追い込まれた。米フォックス・ニュースの報道によれば、同攻撃は国際組織のアノニマス(Anonymous)が、Megaupload摘発に反発しておこなったという。

アノニマスは、政治的ハッカー活動を展開する「ハクティビズム(hacktivism)団体」として知られている。昨年秋、アノニマスは「ホリデーで大衆の眼をそらせ、その間にSOPA法案を成立するようなことになれば、実力で対抗する」とサイバーテロを予告していた。関係団体は今後もサイバー攻撃が繰り返される恐れがあると警戒している。

米捜査当局が言及を控えているため事実確認はできないが、米国メディアではSOPA/PIPA法案で劣勢に立たされた推進派を擁護するために「捜査当局が摘発による世論形成を狙ったのではないか」との観測も飛び交っている。

現時点で、審議は中断されているが両法案が正式に廃案になったわけではない。法案関係者も成立をあきらめておらず、タイミングを見て法案成立に向けた動きを活発化させると予想されている。反対派もキャンペーンを継続しているため、両陣営の緊張感は高まっている。

日本の大手メディアはウィキペディアのストライキが起きるまで、SOPA/PIPA法案を巡る騒動にはさほど関心を示していなかった。また、現在も日本への悪影響について指摘したニュースは、ほとんど見られない。

越境捜査など日本に少なからぬ影響を与える両法案に対して、日本のネット業界団体や企業、政府機関はより注意を払うべきだろう。ネット上での著作権侵害は日々起きており、また、ネットが誰でも使える自由なメディア環境を維持することも重要だ。インターネットが地球を覆う巨大な通信網となった今、安全かつ自由で、高度な知的財産権を扱うビジネスにも安心して使えるインフラであり続けるためにはどうすればよいのか。この問題は決して「対岸の火事」ではない。

小池良次(Koike Ryoji)
 米国のインターネット、通信業界を専門とするジャーナリストおよびリサーチャー。88年に渡米、93年からフリーランスジャーナリストとして活動している。サンフランシスコ郊外在住。主な著書に「クラウド」(インプレスR&D)など。

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