姿を現した「スマート・アプライアンス」、日本家電に危機感はあるか
村上憲郎のグローバル羅針盤(20)
先週(10~13日)、米ラスベガス(ネバダ州)で開催された国際家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES2012)は、スマートTVが展示や新製品発表の中で最も大きな位置を占める形で終わった。

そこで示されたスマートTVの方向性は、これまでの私の羅針盤の見立ての正しさを立証する結果となった。
読者諸兄に間違った見立てを提供して難破させるといったご迷惑は、少なくとも掛けていないということで気を良くしたところである。
ショーでの展示や講演の詳細については、現地取材に基づく報道が各所でなされているのでそちらにお任せすることにして、「スマートTVの方向性が立証された」と私が言う根拠として、過去のこの連載における記述を以下にあげて、私なりの本年のショーのまとめとしたい。
スマホ+タブレット+IOT
「iPhoneが切り拓(ひら)きAndroidが拡張するスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)の世界と、iPadが切り拓きAndroidが拡張するタブレットの世界と、そして、初回に紹介したIOT(Internet Of Things)が、轟(ごう)音を立てて合流する場所が、スマートTVである。その時、状況がこう叫ぶだろう。『ここがロードスだ、ここで跳べ!』」
(第2回「スマートTV」を目指して跳べ)
大型液晶TVのようなタブレットPC
「『スマートTVって、どんな物ですか?』と聞かれた時、私は、常々『大型液晶TVのようなタブレットPCですよ』と答えることにしている」「もちろん、それは『スマートTV』を特徴づける一面にすぎず、このままで『スマートTV』の構成要件を満たしているわけではない。」
(第14回 動き始めたスマートTV大戦争)

ところで、スマートTVは一体どのような姿をして、どんな機能を持ち、それをユーザーはどう操るのか。
今年のショーでは多くの試作品が展示され、タブレット端末やスマホをリモコンとしてスマートTVを操作したり、各機器間で自在にコンテンツをやりとりしたりするデモンストレーションも行われたようだ。
またこれまでの私の連載では、テレビや他の家電製品がネットにつながることで、開発競争が次元の異なるフェーズに入っていくことにも触れている。
スマホ、タブレットでテレビを制御
「私の目に留まったのは『(米投資銀行のアナリスト)Munster氏は、このテレビでは"Siri"をサポートし、音声でテレビを制御できるようになると考えている。さらにMunster氏の予想では、iCloudの統合に加えてiPhoneやiPadからも制御できるようになる』というくだりである。"Siri"とは米アップルが新型のiPhone4Sで実用化した音声認識技術のことだ。ここで語られていることは、私が常々、スマートTVの要件として、示し続けているものと等価であるからだ」
「前回、私は、スマートTVのリモコンに流用されるべきスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)とタブレット端末で出遅れ、その出遅れを取り戻せないかもしれない米マイクロソフト(MS)の『身ぶり手ぶりで画面を操作できる"Kinect"技術』のニュースを紹介して、これこそ、MSが提案してくだろうスマートTVの操作法だと考えていると述べた」
「スマートTVのリモコンに使われるべきスマホとタブレット端末で、他社を何歩もリードしているアップルが、iPhoneやiPadをスマートTVに統合してくることは、当然のことである。さらに、iPhoneに搭載している優れた自然言語処理アプリである"Siri"を利用しない手はない」
(第15回 カギ握るコンテンツの「断片供給」と「小口課金」)
アンドロイド端末と通信する白物家電
「白物家電などあらゆる機器をアンドロイド搭載端末と通信できるようにする『アンドロイド@ホーム』と呼ぶ取り組みを表明済みだ。家電などを遠隔操作できるほか、消費電力データなどもやり取りできる。将来は『洗濯が終わった』と、ミニブログ『ツイッター』などで知らせてくれる洗濯機も開発できる。豊富な家電製品を持つ日本勢と協力したい」
(第16回 「スマート家電」の時代がやってくる、グーグル、ラーゲリン氏へのインタビュー記事引用部分)
今回のショーでは、スマートTVや新しいスマホの報道の陰に隠れて、日本語の報道では注目されていない発表もあった。「注目されていない」ということは、逆にいえば日本の家電産業が未開拓の分野であり、ニッポン家電の危機を象徴しているともいえる。
その技術とは、米半導体メーカーのマーベル(Marvell)が発表した「スマート・アプライアンス・プラットフォーム」だ。
構成は次のようなものだ。
(1)家電製品(アプライアインス)に組み込まれて、家電品が相互にWi-Fiを使ってコミュニケーションを取ることのできる半導体チップセット
(2)(1)で連係できるように成った複数の家電製品の間をまたぐアプリケーションソフトを開発するためのソフトウエア。このソフトウエアは、アップルのiOSかグーグルのAndroidの上で動作する。

いよいよ、IOT(Internet Of Things)、グーグルの呼び方で言うと「アンドロイド@ホーム」を実現する具体的な製品が登場してきたというわけである。
確認はとれていないのだが、韓国サムスン電子が発表したスマート洗濯機・乾燥機と、同じく韓国LG電子が発表した、スマート冷蔵庫・スマートオーブン・スマート洗濯機が、このプラットフォームを使った製品であると思われる。
マーベルは初期のアプリケーションとして、スマートメーターや、HEMS(Home Energy Management System)との連係を強調しており、スマートグリッド向けの「スマート・エナジー・プラットフォーム」でもあるということも明言している。(この点に関連しては、IOTについて書いた連載第1回「スマートグリッドが創るネットの新地平」を参照していただきたい)
ちなみに、これら3社については、前回、以下のように伝えておいた。
スマート家電と半導体技術
「米グーグルは同社の公式ブログで、CESで韓国LG電子、同サムスン電子、ソニーが、それぞれGoogleTV標準のテレビ受像機を発表すると、CESに先立って明らかにした。同じブログでグーグルは、MarvellとMediaTekという2つの半導体メーカーが、GoogleTV向けの半導体製品を出すことも発表した」
(第19回 日本の若き技術者たちよ、テレビを面白くせよ)
これは、ショー直前の回でもあり、羅針盤の見立てがあたって当然ではあるが、「競争を『レイヤー』と『生態系』で考える」という視点は、「会場で、スマートTVのエコシステム(生態系)という言葉をよく聞きましたよ」という参加した数人の知人からの報告を聞いて、それこそ当然の想定通りではあったが、「してやったり」と一人ほくそ笑んだのも事実である。
レイヤーと生態系で競争を考える
「スマートTVについて考えるときは、レイヤーで考えなければならないということである。
『レイヤー』というのは、地層のように重なった層のことである。『レイヤーで考える』というのは、どういうことかというと、スマートTVは何か単一の製品があるととらえるのではなく、様々な役割を持った経済主体で形成される生態系だと考えなければならない。
そして、その生態系はレイヤーを成しており、様々な役割は、同一のレイヤー内では、同じなのである。言い換えると、同一レイヤー内で同じ役割を担っている経済主体は、通常、競合関係にあるとみなしてよい。異なるレイヤーは、相互に補完関係にあり、すべてのレイヤーが協業して、最終的にスマートTVと呼ばれる生態系を形成するというわけである」
(第19回 日本の若き技術者たちよ、テレビを面白くせよ)
ということで、前回は各レイヤーを説明した上で、その各レイヤーで日本勢がどのようにすべきかを述べ、最も重要なコンテンツレイヤーについて今回展開するとお約束した。しかし、残念ながら紙数が尽きたので、次回に先送りさせていただくことをお許し願いたい。
(「村上憲郎のグローバル羅針盤」は原則、火曜日に掲載します)