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認知症、根治・予防に光明 京大発VB、ウコンから候補物質

高齢化に克つ(4)

技術で創る未来

エーザイが1997年に世界に送り出した代表的なアルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」。生みの親である同社の元研究者、杉本八郎・京都大学客員教授がアリセプトを超える新薬開発に挑む。アリセプトは病気の進行を遅らせる対症療法。「根治薬はいつできますか」。患者から何度も聞かれて奮起、杉本氏を含め社員約15人の京大発ベンチャー、ファルマエイト(京都市、宗像敬一社長)に舞台を移した。

13年治験めざす

アルツハイマー病の治療薬を研究する京大客員教授の杉本氏(中)ら(京都市左京区のファルマエイトの研究室)

きっかけは数年前の学術論文。インドのアルツハイマー病発症率が米国の約4分の1とする報告だった。杉本氏らが動物実験などで詳細に調べるとカレーの黄色の粉、ウコンの関与が判明、この成分をもとに約1000種の分子を設計して候補化合物を絞り込んだ。産業革新機構の支援を受け、2013年から米国で臨床試験開始を目指す。

認知症になると何度も同じことを言ったり、今がいつで自分がどこにいるのか分からなくなったりする。国内の認知症高齢者は推定で約230万人。アルツハイマー型と脳血管型が大部分を占め、国内の約6割を占めるとされるアルツハイマー型(アルツハイマー病)では脳全体が萎縮する。

アルツハイマーはがんなどに比べて高齢になるほど発症しやすく、70歳を超えると加速度的に患者が増えるといわれる。医療の進歩もあって体の多くの機能を長く保てても、肝心の脳が正常に働かなくなる――。重症化すると入浴や排せつに介助が必要になり、家族も社会も負担は増す。ヒューマンサイエンス振興財団が代表的な疾患について医師にアンケート調査したところ、とりわけアルツハイマー病は治療に対する薬の貢献度は低い。超高齢社会が医療に突きつける最大の難題の1つだ。

 「元気なうちから毎日食べれば、高齢になってもアルツハイマー病を発症せずにすむはずだ」。東京大学の石浦章一教授が力を込めるのは、「食べるワクチン」だ。年をとると脳内にアミロイドβ(Aβ)と呼ばれるたんぱく質が蓄積し、アルツハイマー病を起こすとされる。石浦氏は独立行政法人の東北農業研究センター(盛岡市)と組み、Aβをつくる遺伝子を組み換え技術で入れた「ワクチン米」を開発した。Aβを作らせるワクチン米を食べるうちに、体内でできた抗体がAβを攻撃して蓄積しにくくなる仕組みだ。石浦氏らはマウスを使った実験で、脳内にたまるAβを減らすことに成功した。

発症の謎解明へ

発症メカニズムの解明にも光明が見えてきた。

世界で最もアルツハイマー病を正確に模したモデルマウス――。開発したのは理化学研究所・脳科学総合研究センターだ。このマウスに期待をかけたアステラス製薬は11年11月、同センターの西道隆臣・神経蛋白制御研究チームシニアチームリーダーらと5年間の共同研究契約を結んだ。

研究用のマウスは脳内でAβを効率よくつくり、同病の前段階の軽度認知障害(MCI)に似た症状を発症する。従来はアミロイド前駆体たんぱく質を作る遺伝子を改変してマウスの染色体にまるごと挿入し、この性質を持たせていた。ただ挿入の際、マウスが本来持つ遺伝子を壊してしまい、短命になるなど難点があった。研究チームはマウスの遺伝子を生かしつつ部分的に変異を起こす手法を採った。「このマウスで発症のメカニズムを解明し、症状悪化や改善に関係する『受容体』や酵素を見つければ予防薬開発につながる」と、西道氏は意気込む。

早期診断も世界的テーマだ。東京大学の岩坪威教授は「症状が出る前に治療を始めることが重要」と話す。岩坪氏が率いる経済産業省などのプロジェクトが60~84歳の600人を調べたところ、アルツハイマー病の症状のない人の4人に1人程度からAβが見つかった。Aβがたまると症状は出なくても、記憶を担う脳の海馬が萎縮しやすくなる。東大病院では12年度から予防や進行抑制につながる臨床試験に着手。国内企業から開発を中断した治療薬の提供を受け、MCIや早期アルツハイマー病の人に投与して効果を調べる。

世界は多くの病を克服しながら社会と産業を発展させてきた。長寿に伴い深刻化してきたのはアルツハイマー病に限らない。がんや糖尿病、心臓の血管障害など様々。少なくとも超高齢化を克服する医療イノベーション(技術革新)を起こさなければ、成長どころか衰退は免れない。世界に先駆けて活力ある長寿大国を実現できるのか。日本の未来はそこにかかっている。

(小田修司、村松進、吉野真由美、松田省吾、草塩拓郎)=この項おわり

[日経産業新聞2012年1月10日付]

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