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プロ野球参入のDeNA、本業揺さぶる「場外乱闘」

模倣・訴訟…問われるソーシャルゲーム業界の健全性

「風営法に抵触する広告がモバゲーに掲載されているのではないか」「そういう認識はありません」――。12月1日午前、東京都内のホテルで開かれたプロ野球の実行委員会。楽天陣営は、ディー・エヌ・エー(DeNA)の春田真会長に最後の一矢を放った。しかし午後のオーナー会議での評決は、楽天の反対1に対して賛成11。「横浜DeNAベイスターズ」が誕生した。

球界加盟が承認され、記者会見するディー・エヌ・エー(DeNA)の春田真会長(左)と守安功社長(1日、東京都内)=共同

2日、春田会長が球団オーナーに、DeNA子会社で携帯電話向け小説サイトを運営するエブリスタの池田純社長が球団社長に就任した。それぞれ42歳、35歳と、ともに球界最年少。社歴も13年目と楽天の15年目を抜いて最も浅い。加藤良三コミッショナーが「新しい風を吹かせてくれる」と語ったように、若き血への期待が球界に広がる。

だがDeNAの前途には茨(いばら)の道が続く。4年連続最下位、20数億円の赤字を抱える球団運営のことではない。相次ぐ「場外乱闘」の勃発で、本業が揺さぶられているのだ。

六本木ヒルズの上場企業2社が法廷闘争へ

ソーシャルゲームを提供する開発会社、KLab(クラブ)は自社のゲームを模倣されたとして、同じくソーシャルゲームを手がけるクルーズを相手に、ゲーム提供の差し止めと5500万円の損害賠償を求める訴訟を起こすことを決めた。著作権侵害と民法の不法行為を根拠とし、6日にも東京地裁に提訴する。

紛争の舞台はDeNAの携帯電話向けゲームサイト「Mobage(モバゲー)」だ。

両社はモバゲーに多くのゲームを提供する有力な開発会社で、クルーズはジャスダックに、クラブはマザーズに上場している。直近四半期の売上高はクラブ(6~8月)が22.8億円、クルーズ(7~9月)が20.9億円。営業利益は同5.9億円、同5.1億円と拮抗。同じ六本木ヒルズ(東京・港)に本社を構え、モバゲーを舞台にしのぎを削る両社が、法廷でも争うことになる。

クルーズがモバゲーで提供している「チーム×抗争 ギャングキング」の画面

クラブが問題視しているのは、クルーズが今年9月からモバゲーで提供している「チーム×抗争 ギャングキング」というソーシャルゲーム。マンガ雑誌「ヤングキング(少年画報社)」で連載中の「ギャングキング」をモチーフにしており、自分で入れ墨を彫った不良高校生の主人公を中心にケンカバトルなどをしながら成長させていくもの。より強いギャングを仲間として集めた方がゲームを有利に運べる。

クラブが模倣されたとするのは、同社がモバゲーで11年4月から提供している「真・戦国バスター」。こちらの原作はオリジナルで、戦国武将となって天下統一を目指すゲームだ。ギャングキングとは一見、全く異なるように見えるが、絵柄やストーリーなどの「見た目」ではなく、ルールや進め方といった「ゲームシステム」が酷似しているという。クラブ関係者はこう話す。

「これまでの『パクリ』騒動とは次元が違う」

「違うのはカードの絵柄だけで、あとは細かいルールやアイテムの種類、ヘルプの説明書まで何から何まで丸ごとコピーされた。ソーシャルゲーム業界では類似している、マネされたという話はありふれている。その程度なら我々も訴訟まではしない。でもクルーズがやったことは、これまでの『パクリ』騒動とはまるで次元が違う」

例えば、真・戦国バスターは「行動する」ボタンを押し、一定の体力を削りながら淡々とストーリーを進める。その途中でさまざまな武将と対決し、勝つとその武将を仲間に誘ったり、仲間の武将を強化できる「巻物」などのアイテムが得られたりする。有料の「杯」アイテムを使えば、必ず仲間に入れることが可能だ。

左はクラブが提供している「真・戦国バスター」の画面、右はクルーズの「チーム×抗争 ギャングキング」

一方、ギャングキングも「行動する」ボタンを押しストーリーを進める途中でさまざまな不良と出会い、勝つと仲間の不良を強化できる「強化本」を得られたり、新たな仲間として引き入れたりすることが可能。真・戦国バスターの杯にあたる有料アイテムは「友情の入浴券」だ。こうしたアイテムを販売するショップでの配置や価格までもが「全く一緒」だという。

さらにゲーム内容を説明するギャングキングの「ヘルプ」は酷似の域を超えているとクラブ関係者は憤る。確かに見比べると、「武将」が「ギャング」、「物語」が「ストーリー」になど一部文言が置き換わっているほかは、ほぼ同じ説明書きが並んでいた。文章表現から箇条書きの並び方まで、コピーペーストをしたかのような内容だ。

今回、クラブが訴えるのはギャングキングのみ。だが、クルーズがこの11月からモバゲーで開始した、本宮ひろ志氏の人気漫画「俺の空」をモチーフとするゲーム「痛快×対決!俺の空」も同様に、真・戦国バスターのゲームシステムやヘルプを模倣した内容だと見ており、別途、対応を検討しているという。この件に関しクルーズにコメントを求めたが、現時点までに返答を得ることができなかった。

玉石混交のソーシャルゲーム市場

これら開発会社は業界で「SAP(ソーシャル・アプリケーション・プロバイダー)」と呼ばれている。2010年1月にDeNAが、同年6月に「GREE」を運営するグリーが、自社のゲームプラットフォームを外部の事業者にも開放する「オープン化」に踏み切って以降、頭角を現した。

ソーシャルゲーム業界には、その収益性の高さと参入障壁の低さから、大小入り乱れて数百社が参入しており、玉石混交の様相を呈している。そして、このような「いざこざ」がありふれている。いざこざは、ゲームタイトル数が1000本近いモバゲーで目立つ。

今年9月、大手ゲームソフト会社のコナミデジタルエンタテインメントは、プロ野球をモチーフとした同社製ソーシャルゲームの知的財産権を侵害されたとして、ソーシャルゲームの開発会社、gloops(グループス、東京・港)を相手に、ゲーム提供の差し止めと損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

コナミが提訴したグループスのカードバトルゲーム「大熱狂!!プロ野球カード」の画面

問題となったのは、gloopsが8月からモバゲーで提供しているプロ野球のカードバトルゲーム「大熱狂!!プロ野球カード」。コナミは同社が今年3月から携帯電話向けゲームサイト「GREE」で提供している「プロ野球ドリームナイン」と、ゲームシステムや画像の演出などが酷似していると主張。一方gloopsは「日本野球連盟(NBP)からも正式に許諾されたゲームであり、法廷において当社の正当性を主張していく」とし、全面的に争う姿勢だ。

ヒットを追随する文化

このgloops、モバゲーでの課金額が月間20億円を超える有力なSAPで、モバゲー上で同社が抱える登録ユーザー数は累計で1000万人を超えている。中でも大熱狂!!プロ野球カードは、モバゲー躍進の契機となったDeNAの人気ゲーム「怪盗ロワイヤル」に匹敵するほどの人気を博しており、ゲームの情報交換などをするサークルの加入者は約107万人と、怪盗ロワイヤルの100万人より多い。

gloopsは優勝劣敗が見えて来たソーシャルゲーム業界にあって明らかな勝ち組のSAPであり、3割ほどの課金手数料を得られるDeNAにとっても重要な存在だ。両社はこの11月、戦略的な提携を交わしたと発表。ソーシャルゲームの開発や運用を共同で行うほか、gloopsはモバゲーへ優先的にゲームを提供することを決めた。仮に法廷でコナミの主張が認められれば、DeNAにとっても痛手となることは間違いない。

そのDeNA自体も09年5月、モバゲー上の「釣りゲータウン2」が、GREE上の「釣り★スタ」の意匠と酷似しているとして、グリーからゲーム提供の差し止めと、3億8385万円の損害賠償を求める訴訟を起こされ、係争中だ。こうした模倣の紛争が頻発する背景には、ヒットしたアイデアやビジネスモデルを追随してきた、ソーシャルゲーム業界全体の文化がある。

そもそもSNS(交流サイト)とモバイルゲームを組み合わせるビジネスはDeNAが始め、それをグリーが追随した。しかしアイテム課金の草分けはグリーの釣り★スタで、一時、DeNAはグリーに収益で抜かれた。だがDeNAは怪盗ロワイヤルというバトルゲームのヒット作で息を吹き返しグリーを抜き返すと、GREEにもバトルゲームが増えていった。

次に業界の流れを決定づけたのはコナミが10年9月からGREEで提供している「ドラゴンコレクション」。強いカードを集め、それぞれのカードを成長させ、バトルで勝つというゲームだ。1年で400万人以上のユーザーを集め、強力な収益力を見せつけると、業界全体が似たようなゲームに傾いた。訴訟沙汰となったクラブやクルーズ、gloopsのゲームがまさにそうであり、グリーでいえばGREEの「探検ドリランド」や「海賊王国コロンブス」もそれにあたる。

「胴元=プラットフォーム」の責任とは

「ソーシャルゲームはどうしても似てしまう。そして、ヒットしたモデルはマネしてもいいんだという雰囲気に業界全体がなっていた。その中で行き過ぎた会社がいくつか出てきたということではないか。合法か違法かは判断しがたく、SAPは生き残りをかけて、とにかく新しいゲームを出すことに必死になっていた」

モバゲーにゲームを提供しているある有力SAPの役員はこう話す。ソーシャルゲームは家庭用ゲーム機向けソフトとは違い、開発にかかる労力やコストが格段に低い。同じゲームシステムでも、キャラクターやストーリーを変えるだけで全く別のゲームが簡単に出来上がり、月間で数億円の利益を生むことができる。それだけ、参入障壁が低く、紛争の可能性も増える。

「違法かもしれない」ゲームが広く消費者から収益を得ているとすれば、その"胴元"の責任も問われる。その会社がプロ野球のオーナー企業であれば、なおのこと社会的に注目を浴びる。しかし、対策は難しい。

球団オーナーにも就任したDeNAの春田真会長

すでにクラブがクルーズを提訴するという話は、DeNAの守安功社長に事前に伝えられていた。プロ野球参入を決めた翌日の12月2日、守安社長にコメントを求めると、こう話した。「(個別のタイトルがいいか悪いか)線を引くのは非常に難しい。みんなが納得できるルールがきちっとできればいいと考えています」

現状、モバゲーにゲームを提供するSAPについては、基本「来る者拒まず」のオープンな姿勢で受け入れている。公序良俗に反する企業やゲーム内容でないか、という簡単な審査はするが、ゲーム内容が模倣であるか否かまでの審査はしていない。

詳細な審査についてDeNAの春田真会長は「そろそろちゃんとやった方がいいと思います。しっかりとやります」と話したが、具体策は見えていない。今後も、模倣を火種とする法廷での場外乱闘は増えると見られ、プラットフォームの運営者として対策が求められるのは必至だ。DeNAが抱える場外乱闘は、これだけではない。

プロ野球参入の議論が行われているさなかの11月21日、グリーがKDDIとともにDeNAに対して10億5000万円の損害賠償請求訴訟を起こしたことは記憶に新しい。訴訟の根拠は今年6月、公正取引委員会がDeNAに出した排除措置命令だ。公取委は、DeNAが昨年夏から年末にかけて、GREEにゲームを提供する一部SAPのゲームをモバゲーから締め出すといった妨害行為を行ったと認定した。

グリー田中社長が主張する新たな「疑惑」

これについてDeNAは争わず応諾。この公取委が認定した期間、グリーとKDDIは、DeNAの妨害行為によって損失が生じたとして訴えた。のみならず、グリーの田中良和社長は記者会見で、こう語気を強めた。

DeNAを提訴した記者会見に臨むグリーの田中良和社長

「認定されているのはゲーム会社さんだけですけども、我々の認識では、ゲーム会社のみならず、さまざまな関連する会社さん含めて、グリーと取引するとDeNAとは取引できないと思ってください、ということを言われていると認識しております」

「DeNAさんは公取委からの勧告を受けて、こういった行為はもうやめるんだと一部のメディアで話しているのを拝見していますけれども、我々の認識ではそういった行為は、いまだに続いていると認識しております。DeNAという会社さんは、違法な行為を違法と知りながらやり続ける、コンプライアンスに対して非常に問題意識のない会社なのかなと感じております」

SAPだけではなく広告代理店やサーバー会社にも圧力をかけていた。そして、SAPへの妨害行為は今も続いている――。田中社長は記者会見で新たな2つの「疑惑」を告発した。DeNAは以前から「一部SAPへの行為は昨年12月の公取委の立ち入り検査があった時点で改めた」としており、広告代理店などへの圧力についても春田会長は「何を指して言ってるのか、全く分からない。裁判ではっきりさせたい」と、真っ向から争う姿勢を見せている。

当時、DeNAから妨害を受けたとされる数社のSAPに取材したところ、いずれも「状況は改善された」と話しており、今も続いている事実は確認できなかった。田中社長は、「DeNAの報復を恐れている」として、具体的な社名や事例を明らかにしていない。新たな疑惑の真偽は法廷に委ねるとして、そうした訴訟を抱えること自体、そして疑惑がメディアを通じて世間に広まることがDeNAのイメージを傷つけているのは事実といえる。

GREEでも模倣疑惑

DeNA関係者は、「逆に、グリーを名誉毀損で訴えようという話も出ている」と明かす。しかし「よくよく聞くと(田中社長は)伝聞形式でしか話していない。ものすごく用意周到にやっているとしか思えない」(同)ともいい、名誉挽回は一筋縄ではいきそうもない。

DeNAを取り巻く場外乱闘は、プロ野球参入後もしばらく続く。もっとも、モバゲーを舞台とするいくつかの係争は、まだ違法と認定されたわけではない。そして、模倣はモバゲーに限った話ではない。

「『ヒメこい』は、2010年8月10日にサービスを開始して以来、多くの方々にご利用いただいておりましたが、2011年2月28日をもちましてサービスを終了することとなりましたのでご案内申し上げます」

今年1月、GREE上で提供されていた「ヒメこい」というゲームが突然、中止になるという告知がなされた。理由は公表されていないが、ゲームを提供していたウインライト(東京・千代田)というSAPが、コナミから「模倣にあたる」という内容証明を受け取ったことに起因すると見られる。

「どう見ても『ラブプラス』のトレース」「完全にパクリだ」……。昨年11月、ヒメこいの美少女キャラクターがコナミの人気ゲーム「ラブプラス」のキャラクターとそっくりだという指摘がネット上を駆け巡った。その後も、「いもこい!」「契約★魔法少女」など、GREE上のゲームのキャラクターが著名な意匠とそっくりだという指摘が続いた。

「ソーシャルゲーム業界全体のために、このままではよくないと思っている。業界全体が健全に成長し、発展していくためにも、今ここで業界全体が立ち止まり、襟を正す必要がある」。今回、提訴に踏み切るクラブの真田哲弥社長は、コメントを求めるとこう話した。

業界の盟主としての「覚悟」

ソーシャルゲーム市場が急速に立ち上がったのは、ここ数年の話。SAPも含めた市場拡大は1、2年の出来事である。あらゆる問題は、あまりに急拡大したがゆえの「成長痛」と見ることもできる。しかし調査会社のシード・プランニングによると、ソーシャルゲームの市場規模は11年、1820億円に達する見込み。数千万人のユーザーを抱え、テレビCMの広告出稿で1、2位を独占するソーシャルゲームは、すでに一大産業といえる。

12月2日、横浜DeNAベイスターズの森本稀哲選手は、さっそく親会社となったDeNAの新作ゲーム発表会に参加し、広告塔として活躍した

特に税制優遇のあるプロ野球という公益性の高い世界に参入したDeNAは、成長痛と看過して許される立場にはなくなりつつある。DeNAの春田会長はプロ野球参入決定の直前、参入の裏にある思いや狙いを、こう明かした。

「球団を持つというのは世間からかなり注目されるわけで、今以上にサービスの質を上げなければならないし、社員の行動も外から見られているというのをもっと意識しないといけない。当然、プロ野球というのは、健全性や公益性というものをより厳しく求められる世界だと思っている。それに応えていきたいという意志があるからこその、参入なんです」

12月4日、楽天市場の流通総額が通年で1兆円を超えたことを記念するセレモニーで挨拶する楽天の三木谷浩史社長。DeNAに関しては「めでたい席なんだから。ノーコメント」とした

早速、その洗礼を浴びた格好になったのが、楽天によるDeNA参入への反対表明だ。「プロ野球を使ってモバイルゲームをプロモーションするのは、青少年の教育という観点からどうなのかなという疑問があるだけですよ」「プロ野球が教育的な観点を主目的にしているなかで、それはやめておこうよと」

三木谷浩史社長は、課金ビジネスが青少年に与える影響や、モバゲーやGREEが未成年の援助交際の温床となっていた事実などを問題視した。球界の総意は「問題なし」だったが、DeNAのプロ野球参入によってソーシャルゲームの浸透に拍車がかかれば、未成年者の「使いすぎ」などが社会問題化し、批判の声が上がる可能性もある。

会社のステージを上げるために、厳しい監視の目や制約という「足かせ」をあえて自らに課す――。業界の盟主としての「覚悟」をプロ野球参入で見せたDeNA。援助交際の問題には業界で率先して取り組み、被害児童数をいち早く激減させた。今回はどう向き合うのか。相次ぐ場外乱闘は、DeNAの覚悟を問うている。

(電子報道部 井上理)

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