社会を変える日本の研究、革新力 産業に成果生かせ
技術で創る未来(上)

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2011/12/2 10:00
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企業の研究開発投資がどれだけ付加価値を生み出したかを示す指標(研究開発効率)は「1990年代半ば以降低下し、米国やドイツを下回る」と、みずほ総研の大塚哲洋シニアエコノミストは話す。特許の実施料など技術貿易で日本は受け取りが多い黒字国だが、実は海外子会社から入る実施料がほとんど。親子間取引を除くと収支はとんとんが実態。特許収入で稼ぐのはむしろ米国だ。

科学技術創造立国の看板が危うい状況だ。

何が足りないのか。「社会の変化を誘導するイノベーション(技術革新)力が求められている」と、経済協力開発機構(OECD)の原山優子・科学技術産業局次長は指摘する。日本の産業は変化に適応するイノベーションには強いが、社会に新しい価値を示し変えていくのは決して得意ではない。

無論、技術だけで社会を変えられるものではない。ユーザーなど社会の様々なステークホルダーを巻き込み、その気にさせる力が要る。スマートフォン(高機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)」で携帯を大きく変えた米アップル社の手法が典型だ。

■若手の力、発揮できる環境を

政府は有望成果に集中的に研究費を投入するなど研究と社会の橋渡しに力を入れてきた。しかし予算を増やしてインセンティブを高める手法は必ずしも効率的ではない。特定の領域に研究者が群がり、お役所が予算増で太るだけだ。

必要なのは研究環境の自在さだろう。実用化を進めるのに窮屈な規制、研究者を縛る規則や義務を思い切って取り払う。研究費が真に役立てられるよう効率的に使える仕組みに改めなければならない。

日本の大学などが海外に1年以上の長期派遣する研究者は10年前のピーク時の半分に減った。内向き志向は学生だけではない。中長期でみて、研究力衰退の兆しとも受け取れる。現実に、世界中で引用される優れた論文に占める日本のシェアが落ち始めた。

今の日本を幕末動乱期に例える見方がある。維新を成し遂げた志士たちは若かった。幕府側も若かった。例えばペリー来航時の老中首座、阿部正弘は34歳。備後福山藩主から老中に抜てきされたのは25歳だった。「旧態依然と思われがちな体制側にも優れた人材登用の仕組みがあった」と、木村孟・元東工大学長はみる。人材の競い合いが歴史を開いたといえる。

若手研究者が存分に力を発揮できる環境をつくることも、イノベーション推進に不可欠だ。

(編集委員 滝順一)

[日経産業新聞2011年9月27日付]

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