2019年2月19日(火)

"デザイナー・ジョブズ"の魂に触れた日本人
アップル 「シンク・ディファレント」の傍らで

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2011/10/13 7:00
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「やあ、スティーブだ。エスプリの本にあるようなショップを作りたいと思っている。プロジェクトのディレクションをしてくれないか」

開口一番、電話口でそう話したジョブズ氏は、84年にアップルを離れ、ソフト会社のNeXTやピクサーを経営していた時から八木氏に着目していた。

■日本の文化を好んだジョブズ氏

グラフィックデザイナーの八木保氏

グラフィックデザイナーの八木保氏

八木氏が渡米し、サンフランシスコ発祥のファッションブランド「エスプリ」のアートディレクターとなったのも84年。広告からカタログ、パッケージ、ラベル、ストアサインまで、すべてのビジュアルコミュニケーションを担い、ブランド価値の向上に大きく寄与した。その実績やエスプリのデザイン精神は89年、1冊の書籍にまとめられた。

ジョブズ氏は、エスプリ創業者のダグラス・トンプキンス氏と友人で、八木氏とも顔見知りだった。この本も愛読しており、その中の数ページからアップルストアの内装デザインのヒントを得たという。電話口でジョブズ氏は八木氏にこう伝えた。

「条件がある。ミーティングの要請があったら、いつでも出向くこと。そしてもう1つ。日本人のインテリアデザイナーをプロジェクトに加えてほしい」

寿司や蕎麦(そば)を好んだジョブズ氏は「日本通」として知られる。それは、プライベートジェット機に乗り、家族で京都旅行を楽しむ、といった類いの話にとどまらない(実際、昨年も"お忍び"で訪れている)。禅や日本発祥の食事法「マクロビオティック」を学び、欧米で活躍する日本人デザイナーの仕事もつぶさに見ていた。そうした素地が、八木氏らの発掘につながった。

八木氏は古くからの知人で、日本人で初めてニューヨーク近代美術館のインテリアデザインを手がけるなどの実績があった植木莞爾氏を紹介。1週間後には最初のミーティングに臨み、かくしてジョブズ氏と日本人デザイナーとのプロジェクトが本格始動した。

■倉庫に原寸大の模型

「デザインは2カ月で固め、最初の店舗を6カ月で完成させたい」。ジョブズ氏が提示した計画は相当にきついものだったが、結論からいうと成功裏に終わった。八木氏は、プロジェクトをけん引するジョブズ氏の能力があってのことだと回顧する。

アップルの直営店には随所にジョブズ氏のこだわりがちりばめられている(東京・銀座)

アップルの直営店には随所にジョブズ氏のこだわりがちりばめられている(東京・銀座)

「普通、オーナーは最初だけ出てきてあとは部下に任せるものだけれど、スティーブは最後まで頻繁に現場に出てきました。プロジェクトへの明確なビジョンを持ち、ブループリント(青写真、設計図)を読み取る能力が高く、決断も早い。気に入らないところがあると、自らスケッチを書いて現場に意志を伝えようとする。そんなオーナーは、なかなかいないでしょう」

八木氏らは、「アップルの世界観をストレートにコンシューマーに伝え、直接コミュニケーションするのに最適な環境を作りたい」というジョブズ氏のビジョンにもとづき、木材や曲線を多用した温かで有機的なデザインを提案。ここでジョブズ氏は、図面ではなく模型を要求した。

しかも、アップル本社近くの倉庫を空け、そこでアップルストアを原寸大の模型で再現し、検討したいという。壁、床、パネル、家具、すべてを紙やダンボール、発泡スチロールなどを利用して、リアルに再現。ジョブズ氏はそれらを1つ1つ動かしながら、あるいは色を変えながら、納得のいくまで検討を重ねた。まさに微に入り細をうがつ。八木氏は言う。

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