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世界一の秘密 ニッポンの知られざるオンリーワン企業

円高、高い法人税率などいわゆる「6重苦」に直面する産業界。そんな逆風下でも世界市場でトップシェアを持ち、輝き続けている日本企業は少なくない。力の源泉は様々だが、共通するのはグローバル市場で首位の座を維持するすべを見いだし、ほとんど他社の追随を許さない点だ。知られざるガリバーの秘密を探ると……。

桐生市、織物技術生かし液晶偏光板の産地に

奈良時代から日本有数の織物産地として知られる群馬県桐生市。この地に根を下ろす西工業は、液晶画面に必ず使われる「偏光板」をつくる装置の最大手だ。全世界で生産される偏光板の5割が同社の装置から毎日、生まれている。世界ナンバーワンに押し上げたのは長い歴史のある桐生の伝統のワザだった。

偏光板は薄い樹脂フィルムをヨウ素で染めた後、強い力で縦方向に引き伸ばすことで特定の角度の波だけを通す。桐生で染色機械を製造する会社を経営していた西貞造社長に台湾企業から「原理は染色機械と同じだから」と、装置開発の話が舞い込んできたのは1997年のこと。伝統技術にこだわり続けてきたことが、後の世界的なヒットにつながった。

偏光板製造装置の肝は、いかに樹脂フィルムにシワやムラが入らないように伸ばせるかにある。同社はフィルムを搬送するための専用のカーボンロールやベアリングを自社で手がけてきた。これが大手の顧客が内製化の動きを強めるなかでも、高シェアを維持できる理由だ。

2011年2月期の売上高は39億円弱、最終利益は2億円弱だった。売り上げの7割を偏光板製造装置が占める。世界を見回しても「この分野でライバル会社はいない」(西社長)。

地方には、他社がまねのできない技術でニッチ道を極める企業がほかにも存在する。

微弱光を見つめる機械で世界トップ

ホタルの光の1万分の1の明るさから、物質の劣化を計測――。東北電子産業(仙台市)は物質が劣化する際の発光現象(ルミネッセンス)をとらえる「極微弱発光計測装置」でほぼ100%の世界シェアを握る。

地球上の物質は空気に触れることで少しずつ酸化し劣化する。同社の装置はその過程で出るわずかな発光を計測し、劣化の速度や特徴を分析できる。ビールメーカーなどに納入してきたが、最近は素材メーカーの利用も多くなってきた。

強さを支えるのは「世界トップの高感度」(山田理恵社長)。光をつかまえる「光電子増倍管」をメーカーから仕入れ、独自に微調整する。計測の妨げになる自然界の電子の動きを零下20度で抑え込むなど、関連技術の特許は約20にのぼり他社を寄せ付けない。

研究のきっかけは70年代の石油危機だった。大手電機メーカーからの仕事が激減するなか、佐伯昭雄会長(当時社長)が母校の東北大のレーザー分野の教授から「これからは光の時代」と言われて奮起した。

同大との研究でインスタントラーメンの油が酸化の度合いに応じて発光することを発見。80年10月に発売して食品メーカーなどで需要が広がり、あとは「高感度を追求していった」(佐伯会長)。10年12月期は売上高約10億円に対し、営業利益1300万円を確保した。同装置が売り上げの1割を占める。

日本企業の多くは国内のシェア争いで疲弊してしまい、なかなか世界の舞台に進めない。だが、代替のきかないオンリーワン技術と製品を抱える企業はグローバル時代にこそ輝きを増す。

ダイソー、日本発の強み、DAP樹脂

中堅化学のダイソーがほぼ100%の世界シェアを持つ高機能樹脂のジアリルフタレート(DAP)。地味だが、日常生活で目に触れない日はまずない日本発の素材だ。

「食品などの紙容器にはたいてい使われているはずですよ」。佐藤存社長はこう話す。DAP樹脂は菓子箱や牛乳パックなど食品の紙包装などで、印刷の鮮明度を高めるために添加剤として使われる。印刷するとすぐ乾く点や、食品のおいしさをダイレクトに伝える高い鮮明度が食品メーカーの信頼を勝ち得た。

ダイソーがDAP樹脂の合成法を編み出したのは60年代。カセイソーダが主力の同社は得意の塩素化技術を武器に、様々な高機能素材を生み出してきた。DAP樹脂もそのひとつだ。

原料の塩化アリルは引火しやすく、扱いが難しいが、触媒や圧力・温度を工夫しながら様々な反応実験を繰り返し、ある条件下で非常に効率よく反応が進むことを発見。生産コストを大幅に低減し、高品質の製品を安定的に生産できる手法を生み出した。様々な分子量のDAP樹脂を作り分けることができるダイソーに他社は太刀打ちできず、一社、一社と脱落。80年代にはダイソー1社だけが残った。

製品を供給できるのは世界で同社1社のため、円高でも競争力低下の恐れが少ないのが強み。新興国の経済成長を背景にアジア向け輸出は3割以上の伸び。DAP樹脂を含む機能化学品事業は連結売上高(800億円強)の約4割を占め、11年3月期は前の期比14%伸びた。営業利益は4.5倍の26億円だった。

得意技術にひたすら磨きをかけ、マイウエーを行くうちに気がつけばオンリーワンとなったガリバーたち。事業をはじめたきっかけには偶然や運もあったが、他社の物まねに走らず、道なき道を突き進んだことが世界への扉を開いた。経営者と研究者のこだわり、情熱、そして幾つもの壁を乗り越えたホンモノの技が強さを支えている。

鹿児島南さつま市。人口4万人足らずの地方都市にあるエルム(宮原隆和社長)は独自開発したDVD自動修復装置を欧米を中心に世界37カ国に輸出する世界企業だ。DVDレンタル会社はもとより、米国の州立図書館などにもユーザーは広がり、自動装置ではシェア9割以上だ。

エルム、DVD自動修復で世界シェア9割

表面に傷がついたディスクは研磨して修復する。それまでの修復機は1枚ずつディスクをセットする必要があり、研磨剤などを塗るなどの手間がかかる手動装置だった。エルムはこれを完全に自動化、ディスクをセットしスイッチを押すだけで研磨できるようにした。しかも1度に50枚以上研磨でき、作業効率も大幅に向上する。2011年8月期の売上高は14億円で経常利益は1億円前後。売り上げの7割を修復機で占める。

大学卒業後6年で故郷にUターンした宮原隆和社長は「下請けをせず、世界で勝負する」会社を目指し1980年にエルムを設立した。以来、農業関連の自動化機械や半導体関連の検査装置など様々な独自商品を生み出してきた。

鹿児島は第2次産業の割合が低く、他県に比べ高い技術力のある中小企業が比較的少ない。そのハンディをバネに自分で研究に没頭した。これが電気工学、機械、ソフトウエアといった技術を独力でバランス良く高めることにつながった。長年の刻苦の末に今の匠(たくみ)の技がある。

数年前からは微妙な調光が可能な業務用の発光ダイオード(LED)照明の開発に取り組んできた。「LEDは調光が難しい。他社はまねできないでしょう」と宮原社長。大手量販店やガソリンスタンド、ホテルなどの採用が決まり「自分の顧客をつかまえる」スタンスは変えないつもりだ。

焼き物のまち、佐賀県有田町。部品のほこりや汚れを落とす洗浄機のガリバーがいる。8月に今泉鉄工所から社名を変えたアクアパス。ラテン語で水を指す「アクア」にこだわりを込めた。

洗浄機は約1500億円市場といわれるが、有機溶剤を使う化学洗浄機が9割以上を占める。その中でアクアパスは溶剤や排水処理が不要でランニングコストも安い水を使う洗浄機に専念。その水洗浄機の電子基板向けでは8割を占める。極めて限られた市場だが、そこで同社は事実上のオンリーワンだ。

付き合いのあった自動車部品メーカーに洗浄機の開発を依頼されたのが全ての始まりだった。化学洗浄では「洗浄液メーカーだけがもうかって機械会社はもうからない」。価格競争に巻き込まれない手立てを考えた末に出てきた答えが、「水」だった。ノウハウゼロからのスタートだった。

売り上げの85%が洗浄機。設備投資の落ち込みで10年7月期の売上高は前の期比18%減の7億2000万円、経常利益も16%減の6700万円。今期も減収減益の見込みだが、今泉浩一社長の表情は明るい。エコカー向け電池関連で大型受注をしたためだ。「環境負荷の小さい水洗浄は今後も伸びる」(今泉社長)。

地方のグローバル企業、日本の底力に

山梨県北杜市のベンチャー企業、クリスタルシステム(進藤勇社長)は超電導向けなどの新材料を製造する「単結晶製造装置」で世界シェア7割を誇る。売り先は国内外の大学や研究所などだ。11年3月期の売上高は4億5900万円。償却費が膨らんで最終損益は2800万円の赤字に転落したが、前期までは黒字を続けた。

自然界の物質の大半は通常は結晶の方向がばらばら。これを多結晶という。単結晶はどこをとっても方向がそろっている。物質の性質が際立つため、先端研究では単結晶を扱うのが普通だ。クリスタルシステムの装置は、研究者がもくろむ単結晶をイメージ通りに製造する技術が売り物だ。

材料の粉を混ぜ合わせて作った「原料棒」を製造装置にまず装着する。装置内の赤外線ランプを使ってセ氏2200~3000度の高温で原料棒を四方からむらなく照射すると単結晶ができる。「従来、四方から高温照射すると溶けて単結晶にならなかった。溶融を回避し、単結晶を効率的に製造する特許技術が決め手」と進藤社長は話す。

進藤社長は独立行政法人、物質・材料研究機構(茨城県つくば市)の前身である無機材質研究所の主任研究員。材料研究では知られた存在だったが研究者の枠に収まらなかった。「自分が作りたいクリスタル(単結晶)をどうしたら生み出せるかを考えたのが起業の原点」。供給側ではなく利用者側の発想を併せ持つことが追随を許さないシェアにつながっている。

特殊工具で「20年に一度の大ヒット」との呼び声が高い製品がある。07年に旭ダイヤモンド工業が発売したエコメップ。直径1ミリ以下の細いピアノ線にダイヤモンドの小さな粒がびっしり付いている。12年3月期は連結売上高(485億円)の3割近くを同製品で占める見通し。これを追い風に純利益は前の期比14%増となる見通しだ。

機能は太陽電池材料のシリコンの塊を押しつけて切断するだけだが、従来と比べ切削にかかる時間は半分以下。桁違いの切れ味の秘密はダイヤを固定する技術にある。

「電着」という手法でダイヤを金属に付着させる技術は一般的ながら、それを直径1ミリ以下のワイヤに均一に固定させるとなると、とたんに難度が上がる。99年ごろに開発を開始。ダイヤの保持力やワイヤの断線など数々の壁を乗り越えて製品化にこぎつけた。技術を守るため、千葉県にある工場には、役員であっても許可がなければ立ち入りを許さないなど情報管理の徹底で虎の子技術の外部漏洩を防いでいる。

新興国から世界企業が次々生まれ、米国も交流サイトのフェイスブックに代表されるグローバルIT(情報技術)企業を今なお出し続ける。だが日本はものづくり力では競争力を失っていない。電機、ITなどで日本企業は押される一方だが、知られざる地方のグローバル企業がニッポンの底力を見せつけている。

(鹿児島支局=高橋伸夫、甲府支局=保田井建、佐賀支局=檀上泰弘、前橋支局=原孝二、工藤正晃、神宮佳江、牛込俊介)

日経産業新聞では10月18日以降、50%以上の世界シェアを持つ企業群を順次、紹介していきます。

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