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投資家は何を求める? 独創性、米進出の理由、ベータ版…

起業家とシリコンバレーを歩く(中)

「日本製品は品質が最高でも世界では売れないことが多い。一方、製品は悪くても世界標準になるケースもある。どうしてか分かりますか」。8月1日、午後。米シリコンバレーのベンチャー育成施設「プラグアンドプレイテックセンター」の一室で、現地在住のコンサルタント、マーク・カトウ氏はこう話し、プレゼンの重要性を説いた。

プレゼンについての講義を受けるツアー参加者(1日、カリフォルニア州サニーベール市)

「誰にでも分かる」プレゼンを特訓

カトウ氏は日本生まれの日本育ち。25年前にシリコンバレーに渡り、米IT(情報技術)大手のヒューレット・パッカード(HP)で長年働いた。実はこの日の講義の元になっているのは、カトウ氏が渡米直後に受講したHPのプレゼンに関する2日間のコース。その内容を大幅に圧縮して「プレゼンテーション一夜漬け」と題して説明した。

「プレゼンは簡潔で誰にでも理解できることが理想的」「内容は日本語で書いて英語に訳すよりも、初めから英語で書くべきだ」「発表時間が3分ならスライドは私は3枚ですね」――。1時間弱の講義は「プレゼンとは」に始まって具体的なハウツーまで、内容は多岐にわたった。

ベンチャー投資会社のサンブリッジ(東京・渋谷)が8月上旬に開催した若手起業家やその卵を対象にしたシリコンバレーツアー。今回のツアーの特徴のひとつは、最終日に参加者による米在住のベンチャー投資家などを対象にしたプレゼンコンテストが組み込まれていることだ。カトウ氏の講義に始まり、本番に向けた「練習」がその後も相次ぐ。

「単なる観光旅行に終わらせてはいけない」。サンブリッジのアレン・マイナー最高経営責任者(CEO)はツアーの企画に際し、担当者にこう口を酸っぱくして言った。「日本発で世界に通用するベンチャーを育てたい」と長年考えてきたマイナー氏にとって、今回は日本のベンチャーをシリコンバレーで売り込む契機になると考えたわけだ。

翌2日、スタンフォード大学内の一室。ツアーに参加した若手起業家や起業を準備している5人が、模擬プレゼンに臨んだ。スタンフォード大アジア・米国技術経営研究センターのリチャード・ダッシャー特任教授や米インテュイットでバイスプレジデントを務めるスリドハル・ジャガナサン氏らが審査員を務め、厳しい意見も出た。

なぜ米国で勝負するのか? どこが競争優位か?

「特許はありますか。他社が同じようなビジネスを始めようとしたときに、優位性を維持できるのでしょうか」。交流サイト(SNS)「フェイスブック」の機能を活用した物品売買システムを提供しているホワイトボード(東京・新宿)の碇和生CEOはダッシャー教授からこんな質問を受けた。

小規模な商店などが多機能携帯端末をレジとして使うためのアプリを提供するユビレジ(東京・渋谷)の木戸啓太社長は「競争優位」について何度か聞かれていた。米国ではミニブログ「ツイッター」の共同創業者ジャック・ドーシー氏が設立したスクエア(カリフォルニア州)が同様の仕組みを既に提供しており、それとの違いが焦点になった。

さらに「日本やアジアに大きなチャンスがあるなら、なぜ今、米国に来る必要があるのか」と審査員。シリコンバレー進出を探る若手起業家が増える中、「他の製品やサービスとどう違うのか」「なぜ米国に来るのか」という2点に関してはっきりとさせておくことが、シリコンバレーで投資家に認めてもらうためには必要だということを強く印象づけた。

「前提として何か動くものがないと駄目ですね」。3日午前に開いたシリコンバレー在住の日本人起業家によるパネル討論会で、ミセル(カリフォルニア州)の吉川欣也CEOは説明した。吉川氏は既にシリコンバレーで起業・大手企業への売却によるエグジットを経験しており、今回は米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」を利用した楽器作りを進めている。

「模擬プレゼン」の様子

確かに、シリコンバレーで「ピッチ」と呼ばれるベンチャー企業による短時間のプレゼンを見ていると、必ずといっていいほどサービスや製品のベータ版(試作品)が登場し、それがどの程度の利用者の支持を得ているかという説明がある。「コンセプトの説明だけで資金を集められるのはごくわずかな特別な人たち」(吉川氏)という説明は納得がいく。

プレゼンについての講義を聞き、模擬プレゼンも経験した参加者は本番に備えた。ある参加者は「毎晩ホテルの部屋で午前2時、3時まで練習を重ねた」という。そうして5日、本番を迎える。冒頭のプラグアンドプレイテックセンターのホールで、1社あたり3分の時間をもらい、自社のサービスや製品を売り込んだ。

日本の起業家も「失敗」から学べ

ツアー組と一般参加の計30人程度が壇上に立ち、地元のベンチャー投資家やジャーナリストらが「優秀賞」として4社を選ぶ仕組み。だが午後5時過ぎに発表された4社の中に、実はツアー組は1社も入っていなかった。ただ、だからといって、「日本発のベンチャーに競争力がない」と片付けてしまうのは早計だろう。

そもそもインド、中国、ベトナムなどに比べて日本からシリコンバレーへの進出を目指す人はこれまで極端に少なく、特にネットやサービスの分野での成功例は皆無に等しい。むしろ第一歩が始まったと評価し、それをどう次につなげていくかを考える方が建設的だ。シリコンバレーの起業家にとっての"失敗"は、非難されたりとがめられたりするものではなく、「そこ(失敗)から何を学んだか」を問われる大事な経験の1つなのだ。

(シリコンバレー=奥平和行)

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