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ソーシャルで「メジャー」を狙え ファン巻き込み選手も発掘

スポーツを支えるIT(5)

第9回全日本選抜剣道八段優勝大会のユーストリーム中継現場(2011年4月17日、愛知県名古屋市)

スポーツの世界でソーシャルメディアを活用する動きが加速してきた。ファンと競技者の接点を増やし、スポンサーや助成金をより多く獲得、さらに有力な選手を育成する――。一連の好循環を作り出すうえで、インターネットが力を発揮しつつある。

ユーチューブ1位に輝いた「剣道」の大会

2010年11月、動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」の国内スポーツジャンルで、日本の伝統競技が再生回数1位に輝いた。11月3日に日本武道館で開催された「第58回全日本剣道選手権大会」だ。スポーツ以外の他分野の動画を含む全ジャンルで5位、全世界でも79位となる快挙を達成した。

全日本剣道連盟の公式ソーシャルメディアリンク集。運営・管理を行っている公式アカウントが明示されている

仕掛けたのは大会を主催する全日本剣道連盟。事務局の矢野雅之さんと情報小委員会委員の小川晃通さん、阿部晶人さんの3人が中心となり、大会前から開催情報をミニブログの「Twitter(ツイッター)」で発信。大会当日の全63試合(約9時間)も動画共有サービスの「Ustream(ユーストリーム)」でリアルタイムに中継し、戦況をツイッターでつぶやいた。ユーストリームの総視聴者数は5万人以上。ソーシャルメディアを総動員した情報発信が、ネット上で注目を集めた。

小川さんと阿部さんは、慶応義塾大学環境情報学部在学中に剣道サークルに加入。剣道好き・IT(情報技術)好きが高じ、恩師の誘いもあって全剣連の情報小委員会に携わるようになった。主要な大会の公式ブログを立ち上げるなど、ITを活用した剣道の情報発信に取り組み始めて10年以上がたつ。

ソーシャルメディアは「経験者など、すでに剣道に関心があるネットユーザーが試合や選手の情報を共有し、広めるのに有効」(小川さん)なのに加え、新しいファンの掘り起こしにも役立っている。ホームページなどによる一方的な情報発信に比べ、例えばあるユーザーのつぶやきがツイッター上で次々とコピー(リツイート)され加速度的に広がる効果が最大のメリットだという。普段は矢野さん、小川さん、阿部さんの3人でほぼ全てのアカウントを運営・管理している。ほとんど広告宣伝費をかけずに情報発信できるのも、ソーシャル活用の大きな利点だ。

全日本剣道選手権大会の観客動員数
第58回大会平成22年(2010)8604人
第57回大会平成21年(2009)8220人
第56回大会平成20年(2008) 7846人
第55回大会平成19年(2007) 7517人
第54回大会平成18年(2006) 7558人

全剣連によると活動中の剣道競技者は約48万人(08年の「剣道人口国勢調査」より)。「少子化の影響もあり、ここ数年の競技者人口は横ばい」(矢野さん)。剣道の人気を高めるため、ユーチューブへの動画投稿を08年、ツイッターを09年にそれぞれ開始。リアルタイムの動画中継は10年から取り組み始めた。

試合を中継することについて実は、連盟内部からは「会場に来る人が減ってしまうのではないか」と懸念の声も上がっていた。しかし実施してみると、来場者数は減るどころか増加した。小川さんは「ソーシャルメディアの効果かどうかはわからないが、これからも映像の中継・配信を進めたい」と話し、今後は海外で開催される大会の中継にも乗り出したいと意気込む。

K-1はフェイスブックで逸材発掘

フェイスブックに開設された「K-1 Hidden Treasures」ページ。最上部にエルナンデスさんのアピールコメントが書き込まれている(投稿者はマネージャーのバズさん)

優秀な選手を発掘するために、ソーシャルを活用する動きも出てきた。格闘技イベント「K-1」を運営するFEG(東京・渋谷)は、6月中旬に「K-1 Hidden Treasures」と名付けたページをフェイスブックに開設。K-1に参戦したいと望む世界の格闘家たちがプロフィルや動画を投稿し、アピールできる場を提供し始めた。

これまでのK-1は、各国のプロモーターやキックボクシングジムのトレーナーが選手を発掘し、売り込むのが一般的だった。今回の取り組みは米国やロシア、ハンガリー、フランスといった諸外国の格闘技ファンサイトで紹介されたほか、ツイッターなどを通じて全世界に広まった。全階級で300人弱が、このページを通じて名乗りを上げている。

スペイン出身のキックボクシング選手、ハビエル・エルナンデスさん(21)もその1人。格闘技ファンの友人を通じてK-1の取り組みを知った。「イッツ・ショータイム」という世界最大級のキックボクシング大会(61キロ級)で、チャンピオンに輝いたこともあるエルナンデスさん。しかし、世界でも有名なK-1出場の機会は得られなかった。「実力があっても、主催者やファンにアピールするきっかけがなかった選手にとって絶好のチャンス」と話す彼は、近い将来、K-1のリングに立つ日がくることを夢見ている。

FEGの柳沢忠之取締役は「ネットの普及で世界中に素早く情報が流れるようになり、メディアや主催者側よりもファンの方が有力な選手を早く見つけることも珍しくなくなった」と話す。柳沢さんは、かつて格闘技専門誌などの編集に携わっていた。「昔は『アマゾンの秘境から選手を発掘!』といった企画をメディアが演出することが多かったが、今後はファンと一体になってK-1を盛り上げていく意識が必要だ」と時代の変化を指摘する。

相生学院高等学校のツイッター公式アカウントはテニス部のインターハイ速報もつぶやく

ソーシャルのパワーを知名度向上と選手の発掘に役立てようとする試みもある。

相生学院高等学校(兵庫県相生市)テニス部は、11年3月の全国選抜高校テニス男子団体戦で日本一の座を獲得した。創部からわずか3年での快挙だが、高校自体は2008年に新設されたばかり。優勝と同時期にツイッターのアカウントを開設し、学校見学会などの入学情報と併せてインターハイ速報なども「つぶやき」はじめた。今のところ草の根的な活動にとどまっているが、森和明理事長は「全国から実力のある選手に入部してもらうために、積極的にソーシャルメディアを活用していきたい」と語る。

アマチュア控え選手に全米が注目

「一般のアマチュア選手でもソーシャルメディアを使いこなすことで、スター選手と同じくらいチームや選手自身の知名度を高めことができる時代になった」。ネット活用のコンサルティング業務を手掛けるループス・コミュニケーションズ(東京・渋谷)北野達也さんはいう。

スポーツのソーシャルメディア活用に詳しいループス・コミュニケーションズの北野達也さん

米オハイオ州立大学のバスケットボール部に所属していたマーク・チータスさんは、08年11月にブログ「Club Trillion Life views from the end of The bench」を開設。ベンチにいる時間のほうが長かったというチータスさんだが、チームメイトとの他愛ない日常をこまめにつづった内容が米国で反響を呼び、3年9カ月で累積約530万ページビューに達する人気ブログとなった。

アメーバブログ(アメブロ)を運営するサイバーエージェント(東京・渋谷)によると、ランキング上位の一般ブロガーは月に3~6万程度のページビューを稼ぐ。単純比較はできないが、チータスさんは間違いなくこの水準を超える人気ブロガーだ。ツイッターのフォロアー数は3万弱。2010年にユーチューブに投稿した「Mr.Rainmaker」では変わったシュート練習の様子を披露し、現在までにおよそ42万回再生されている。

マーク・チータスさんのブログ。右端が財団が販売するオリジナルTシャツ

 アマチュアの無名選手としては異例ともいえる知名度を生かし、チームメイトと共に「Club Tril」という財団も設立した。オリジナルTシャツを販売し、収益を恵まれない子どもたちに寄付するなどプロ選手顔負けの社会貢献活動を手掛けている。

「シンデレラボーイ」生むソーシャルのパワー

このほかにも、例えばサッカー界では親が動画サイトに投稿した映像をきっかけに、強豪クラブに入団したシンデレラボーイが存在する。ユーチューブに投稿した動画がプロモーションビデオの役割を果たし、誰でも憧れのクラブチームの一員になれる可能性があるのだ。

スポーツの人気は、もはや視聴率や観客動員数のような従来の指標だけでは計れなくなっている。ソーシャルを活用して、「マイナー」なチームや選手がどう「メジャー」を狙っていくか。それぞれの挑戦が始まっている。

(電子報道部 富谷瑠美)

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