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奈良・大和盆地に「太陽の道」 一直線上に遺跡・社寺

異説の日本史(1)

万葉集の冒頭に登場する枕ことば「そらみつ」は「大和(の国)」にかかる。日本書紀に記された謎の言葉「空見つ日本(やまと)の国」が語源で、「大空から眺めて良い国だと選ばれた」の意だ。「天の岩船」というUFOを思わせる飛行物体に乗ったニギハヤヒノミコトが「国の中心地」に着陸し、後に神武天皇が「畝傍山の東南の橿原の地」を「ここは国の真中だ」と考えて今の奈良県橿原市に都を置いたという伝承に由来する。くしくも、大和盆地を「空から」の視点で研究した説は少なくない。多くの学者が認める定説ではないが、歴史ファンを魅了してきた「太陽の道」「聖なるライン」など、「空見つ日本」の異説を紹介しよう。

「あれは稲作と密接につながる太陽信仰、つまり日本人の信仰の原点にかかわる話だった。だから多くの人の心に響いたのでしょう」と振り返るのは、「大和の原像」(大和書房、1973年)で「太陽の道」を提唱した小川光三さん。著名な仏像写真家でもある。「太陽の道」は80年にテレビのNHK特集「知られざる古代~謎の北緯34度32分をゆく」で紹介され、多くのファンを生んだ。

檜原神社大烏大社大坂山箸墓古墳長谷寺室生寺伊勢斎宮跡

卑弥呼の墓説もある箸墓古墳、檜原(ひばら)神社、大坂山(穴虫峠)、長谷寺、室生寺をはじめ、大和盆地を中心とする著名な遺跡、社寺などが北緯34度32分の線上にほぼ一直線に並び、東は三重県の伊勢斎宮跡、西は堺市の大鳥大社(さらに淡路島の遺跡や古社)まで延びるという。

この「一直線」は「ほぼ一直線」であり、南北にずれる遺跡もあるのだが、記紀神話などとの奇妙な暗合が「太陽の道」説に説得力を与えた。

「元伊勢」と呼ばれる檜原神社

まず檜原神社と伊勢斎宮跡の関係。この2つはほとんどずれなく同じ緯度にあり、天照大神(日の神=太陽神といわれる)でつながっている。

長らく宮中にまつられていた天照大神は、第10代崇神天皇の時代に初めて宮中を離れ、皇女トヨスキイリヒメノミコト(初代の斎王)に託され大和の笠縫邑(かさぬいのむら)に移される。笠縫邑の有力な伝承地が檜原神社だ。次の第11代垂仁天皇は皇女ヤマトヒメノミコトに天照大神を託す。ヤマトヒメは大神が鎮まる場所を求め長い旅に出て、大和の笠縫邑から伊勢にたどりつく。それで檜原神社は「元伊勢」と呼ばれる。


箸墓古墳から大坂山までのバケツリレー

次に箸墓古墳と大坂山(穴虫峠)の関係を見ていこう。

檜原神社の近く、ほぼ真西にある前方後円墳、箸墓古墳は「倭の女王・卑弥呼」の墓ではないかとされ、周辺の纒向遺跡を「邪馬台国」とする説もある。日本書紀によれば、箸墓古墳は「昼は人が造り、夜は神が造った。大坂山の石を運んで造った。山から墓に至るまで人民が連なって手渡しにして運んだ」(「全現代語訳 日本書紀(上)」講談社学術文庫より)。大和盆地の西端の大坂山から、東端の箸墓古墳まで、バケツリレーのように人が連なったという。まるで「太陽の道」のラインを暗示しているかのようだ。

檜原神社のしめ縄の下から大和盆地を眺めると、西に二上山の美しい山容が見える。二上山の北側、穴虫峠が檜原神社の真西にあたる。この峠道は逢坂(大坂)道とも呼ばれた。小川さんは「大和の原像」にこう書いている。「(檜原神社の)社頭から穴虫峠への落日の見える日は、正確に春分又は秋分の日に当たることになる」

白鳥になったヤマトタケルが飛んだ軌跡を暗示

西の大鳥大社は、伊勢とつながっている。

天照大神を伊勢にまつったヤマトヒメの甥(おい)は、英雄ヤマトタケルノミコトだ。東征に出かけるヤマトタケルにヤマトヒメが草薙の剣を授けた話は有名だろう。ヤマトタケルは伊勢の能褒野(のぼの)という土地で没した。

ヤマトタケルのしかばねは一羽の大きな白鳥に化身し、西へ西へと飛んでいった。堺市にある大鳥大社の祭神はヤマトタケルノミコト。白鳥と化したヤマトタケルが最後にたどり着いたのが、この大鳥大社の場所だったとされている。紀伊半島の東端から西端まで、ヤマトタケルの白鳥が飛んでいった。確かに、その軌跡は北緯34度32分の「太陽の道」を暗示しているかのようだ。

「仏像写真家なのに、なぜ古代史の研究をするのかと思われるでしょうね。日本の仏像を見ていると、中国や朝鮮半島の影響ばかりでなく、日本の古代信仰の影を感じるからです」と小川さん。「日本古代の太陽信仰を理解しなければ、本当に仏像を撮ったことにはならない。それで古代史にはまったわけです。はまりすぎましたけどね」と笑う。小川さんはその後も研究を続け、2008年には「ヤマト古代祭祀(さいし)の謎」(学生社)を発表している。「太陽の道は横のラインでしたが、縦のラインも見つけましてね。橿原市にある謎の巨大石造物、益田岩船も絡んでくるのですが。少し難しい本になってしまったかな」と語った。

次回は古代史ファンには知られた縦のライン、通称「聖なるライン」の現在を紹介しよう。

(文化部 吉田俊宏)

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