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スマホ長者企業、次々誕生 部品の半分が日本製

新・産業連関図

東京・浅草。「何丁目何番地まではっきり分かるので便利。スマホ(スマートフォン=高機能携帯電話=の通称)がナビゲーション装置です」。ある老舗すし屋の見習い店員にとって、自転車に取り付けた手作りホルダー入りのスマホは出前の必須アイテムだ。

旭化成、「電子コンパス」シェア8割

画面上の地図に自分の現在地を表示し、目的地までの道順を案内してくれる。スマホの代表的な機能は、内蔵する2ミリ角の電子部品「電子コンパス」が可能にしている。世界需要の8割を供給しているのが旭化成だ。

基礎技術はホール素子と呼ぶ磁気センサー。半導体を流れる電子が磁場によって曲げられた際に生じる電荷を検知、フロッピーディスク(FD)や小型モーターの回転を精密に制御する。電子コンパスではセンサーが正確な方位を測り続ける。

旭化成はFD市場の縮小を受け2003年から携帯端末向け電子コンパスの量産を始めたが、採用されたのは毎年3~5機種程度。だが、撤退の2文字がちらつき始めた08年に転機が訪れる。

高精度を買われ、米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」搭載のスマホの実質的な世界標準部品に採用されるや、08~09年の販売個数はそれぞれ前年比9倍、10年も3倍に増えた。生産は月数千万個の規模だ。生みの親である山下昌哉フェローは「11年も2倍成長」とみる。販売が4年で490倍という急拡大は、旭化成で他に例がない。電子コンパスを柱の一つに据えつつあるエレクトロニクス事業の11年3月期の営業利益は143億円と、前の期から倍増した。

11年度に国内出荷台数で従来の携帯電話を抜いて、名実ともに携帯の主役に躍り出るスマホ。15年の世界出荷は10年の3倍の9億台以上になるとの予測もある。完成品は米アップルの「iPhone(アイフォーン)」や韓国サムスン電子の「ギャラクシー」が席巻し日本企業の存在感は薄いが、きょう体(ボディー)を外すと別の世界が広がる。小さなマルチメディア端末を実現するスーパー部品や素材。その多くを日本勢が担う。

スマートフォンの部材・素材の供給企業(代表例)
部品
役割
主力供給企業
【タッチパネル】
カバーガラス中身をホコリや衝撃から守るコーニング(米)、旭硝子、日本電気硝子、セントラル硝子、日本板硝子
粘着フィルム各素材を接着、すき間を埋める住友スリーエム、リンテック、三菱樹脂、日立化成工業、日東電工
導電膜付きフィルム電極の役割を果たす日東電工、尾池工業、鈴寅、JSR
【多層基板】
SAWフィルター表面弾性波フィルターとも呼ばれ、必要な信号だけを選び出す村田製作所、TDK、太陽誘電
セラミックコンデンサー電気をためる村田製作所、TDK、太陽誘電、サムスン(韓)
水晶振動子水晶を使った電子部品で、発信する電波を制御したり、受信する電波を特定するリバーエレテック、東京電波、エプソントヨコム、大真空、京セラキンセキ、日本電波工業

業界推定によると約1000点ある部材のうち4割程度が日本製とみられる。代替のきかない主要部材でみると、日本勢への依存度は5~6割に達している可能性が高い。スマホで潤う長者企業が続々誕生している。

タツタ、電磁波の干渉防止フィルム

ものづくりの街、大阪府東大阪市に拠点を構えるタツタ電線もその一つ。端末のフレキシブルプリント基板に張る「電磁波シールドフィルム」で世界シェア8割強を押さえる。スマホは通信機能を備えたパソコンに近く、部品の大半はパソコンに搭載されているものの軽薄短小版だ。みっちり詰め込むため、部品が干渉し合わないよう電磁波対策が欠かせない。

タツタのフィルムは部品の大きさや形状を選ばず、基板に貼るだけでよい。電線で培った銅と樹脂の配合技術を発展させて開発。今年4月に京都府福知山市の工場で新設備を稼働させるなど、増産対応に追われている。同フィルムを原動力に、電子材料の11年3月期売り上げは100億円強(全体の4分の1)と前の期から62%伸びた。

第一生命経済研究所の永浜利広主席エコノミストの試算によると、国内でのスマホの経済効果は部材やソフトなども含めると2010年度で約5000億円。11年度は1兆円規模まで膨らむという。これほどのスピードで立ち上がる製品は例がないだけに、すそ野産業の広がりようも急ピッチだ。

回路基板に入る極薄電解銅箔の三井金属、カメラなど電子部品用のパッケージを供給する京セラ。いずれもスマホ向けで世界シェアの大半を握る巨人たちだ。

世界最薄のCMOSセンサー用セラミックパッケージを生産している京セラの鹿児島川内工場(鹿児島県薩摩川内市)

三井金属や京セラ、小型化に貢献

三井金属は銅箔を5マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル以下まで薄くする技術で先頭を走る。10年度の極薄電解銅箔の販売量は09年度に比べて4割の伸び。これがけん引し、銅箔事業の10年度の売上高は前年度比32%増の600億円、経常利益は同24%増の73億円となった。

京セラは電子部品を弁当箱のように包み込んで保護し、基板に配線するセラミックパッケージで圧倒的な強さを見せている。「電子部品を限りなく薄型化しながら機能を最大限発揮させる」。山口悟郎取締役はパッケージの役割をこう表現する。カメラの目となるCMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサー用で厚さ約0.3ミリメートルと従来の樹脂製の半分近い薄型化を実現し、「最新のスマホのほとんどに採用されている」(山口取締役)。

セラミックは焼成前は粘土のように柔らかく、樹脂や金属に比べて微細かつ複雑な加工に優れる。周波数の制御などに使う水晶振動子用などのパッケージでも気密性や剛性が評価され、世界の7~8割のシェアを握っているとみられる。

中小企業も活躍

サプライチェーンの担い手は大企業だけではない。小さな巨人の技術も光る。1936年設立の鈴寅(愛知県蒲郡市、鈴木隆啓社長)。自動車向け座席シートの裏地やカーテンを手がける織物メーカーだ。年間売上高は40億円強だが、タッチパネルの基幹部材であるITO(酸化インジウムすず)フィルムで世界シェアの1割を占める。

カーテンなどに遮熱機能を持たせるため布に金属膜を形成して遮熱機能を持たせる「スパッタリング」技術を応用し、樹脂フィルムの上に数百ナノ(ナノは10億分の1)メートルの極薄ITO膜を形成することに成功。タッチパネルのメーカーから高い透明度、均一な膜などの品質が評価された。今年4月には、スマホ事業拡大を目指す積水化学工業の傘下に入った。

製造工程で強み発揮

スマホの製造工程に目を向けると、日本企業の活躍の場はさらに広がる。上村工業は多層基板の最終表面処理めっき薬でスマホの命脈を握る。金めっきを施して回路の銅めっきの酸化を防ぎ、はんだの接着性を高める。

iPhone向けで8割、カナダのリサーチ・イン・モーションの「ブラックベリー」にはほぼ100%を供給している。韓国サムスン電子や台湾HTC、フィンランドのノキアにも大量に販売し、「世界全体の7~8割を担う」(小林英二経営企画部長)。スマホ・携帯向けめっき薬の売上高営業利益率は約3割に達する。12年3月期の営業利益は前期に比べ約3割増の23億円を見込む。

人材紹介最大手のリクルートエージェント(東京・千代田、水谷智之社長)には昨年来、スマホ関連の求人が次々と舞い込んでくる。注文は塗工の匠(たくみ)、部品の技術者、ソフトの開発要員など様々だ。リーマン・ショック以来、低迷していた紹介業界もスマホ効果で息を吹き返しつつある。

新興勢が猛追

もっとも、サプライチェーンでの日本優位が揺らがないという保証はない。

米アップルの「iPhone4」の電子部品の総コストのうち、日本メーカーの製品が占める割合は22%、サムスン電子の「ギャラクシーS」では11%――。米調査会社IHSアイサプライが最新機種を分解し、供給メーカーが分かった電子部品のコストを推定したところ、こんな結果が出た。

「サムスンは日本勢が得意な高額な基幹部品を自社製で固めようとする傾向が強まっている」(アイサプライ・ジャパンの李根秀主席アナリスト)。例えば、電気を蓄える積層セラミックコンデンサー。日本勢の独壇場だったが、サムスングループが猛追し村田製作所に次ぐ世界2位メーカーに浮上したもよう。

完成品のコストベースで日本勢の比率が低いのは、高価な部品で劣勢に立たされている事情もある。代表は心臓部の半導体「プロセッサー」。従来型携帯の時代から米クアルコムが圧倒する。ここでも、米アップルからiPhone用などの製造を受託しているサムスングループが大手の一角に食い込んでいる。日本の半導体メーカーは国内の携帯市場にとらわれるあまり、国際舞台で取り残されてしまった。携帯端末と同じ構図だ。

部品や素材でも海外新興勢力の追い上げは激しく、日本企業の脅威となりつつある。だが日本抜きでスマホが1台もできないのも事実。世界市場は急拡大する今後2、3年でイス取りゲームの勝者が見えてくるはずだ。

 新市場を切り開き、生活も変える先端製品が新しい「産業連関図」を生み出している。製品の担い手はもちろん、そのサプライチェーン(供給網)には部品、素材から関連サービス・ソフトまで新しい顔ぶれが連なり、高度な機能や使いやすさを支える。完成品の国際競争はますます激しく、劣勢が指摘されるニッポン。だが目をこらして連関図を見ると、世界に誇る隠れた巨人がひしめく。日経産業新聞では6月27日付にスマートフォンの詳しい産業連関図を紹介するとともに、6回にわたって成長市場であるスマホを巡る動きを連載する。

(石塚史人、山下和成、桜井佑介、庄司容子、児玉小百合、神宮佳江、黒瀬泰斗)

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