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ニッポンの社長、多い名前と出身地は?

編集委員 小林明

社長に多い姓名や出身地にどんな特徴があるのだろうか?

そう思って取材したところ、社長に関する興味深い統計を見つけた。分析してみると、不思議な時代の趨勢(すうせい)や意外な日本の社長像が浮かび上がってくる。

まず名字・名前の傾向を押さえておこう。

表1.2は東京商工リサーチが2008年2月に調査した日本の社長に多い名字と名前、姓名(読みと表記)のランキングである。

名字で最も多いのは「佐藤」で約256万社のうち3万5100社を占める。次いで「鈴木」(3万3366社)、「田中」(2万5803社)、「高橋」(2万1627社)、「伊藤」(2万1257社)と続く。一方、名前で最も多いのは「博」で1万1327社。次いで「茂」(1万1024社)、「清」(9630社)、「進」(9434社)、「誠」(9391社)と続く。

社長の姓名ランキング(表2)の読みで最も多かったのは「さとうひろし」(639社)。その後を「すずきひろし」(604社)、「たかはしひろし」(531社)が続く。一方、表記で最も多かったのは「田中稔」(215社)。次いで「鈴木茂」(186社)、「田中博」(180社)などと続く。

統計で見ると、日本の社長の名字は「佐藤」、名前は「」、姓名では「さとうひろし」と「田中稔」が最も多いというわけ。これらの名字や名前が日本の社長の主流派を形成していることになる。

(最も多い名字と名前をつなげた「佐藤博」が、表2の表記で7位にとどまっているのは、「読みでは『さとうひろし』が最多だが、表記では『ひろし』という漢字が弘、宏、浩、広、洋、寛、博史など多岐にわたり、分散したためではないか」と東京商工リサーチでは説明している)

なぜ「博」という名前の社長が最も多いのか?

この謎を解くには、前々回のコラム(5月27日)で紹介した名前の流行の変遷を参照すると分かりやすい。男性の名前の流行は、時代を追うごとに、清(戦前)→勇・勝(戦時中)→博・茂(戦後)→誠(高度成長期)→大輔(80年代)――などと大きくシフトしてきたからだ(表3)。

表4は日本の社長(男性)の年齢分布(2010年7月、東京商工リサーチ調査)。最も多いのは60~64歳で約23万2000社。次いで65~69歳(約16万7000社)、55~59歳(16万6000社)と続く。

調査時に最も多かった60~64歳は、昭和21年(1946年)~昭和25年(1950年)前後に生まれた戦後世代で、「博」が名前人気ランキングで首位に立っている時期とほぼ重なる。だから「博」が最も多いというわけ。さらに、その前後に多かった「茂」や、戦前に多かった「清」が2位、3位と続く。

このほか、戦時中に多かった「勇」「勝」「進」(戦時色の強い名前)や、高度成長期に多かった「誠」「隆」「修」(社会・組織への忠誠心、経済発展、学歴社会を反映した名前)などもトップテンに食い込んでいる。つまり、社長の生まれ年に人気のあった名前がランキングにも強く反映しているのだ。「名前の謎」が統計から解き明かされた格好だ。

ちなみに、今から18年前の1993年4月に調査した社長に多い名前ランキングだと、首位「清」、2位「博」、3位「茂」となり、戦前生まれの「清」が最も多かった。名前ランキングでも「世代交代」が起きているのだ。世代交代が進めば、やがて「誠」や「大輔」が社長の名前ランキングの首位に立つ日が遠からずやってくるだろうと考えられている。

(→下記の「男性の名前の流行100年史 戦前は「清」、戦後は…」参照)

続いて名字についての分析。

都道府県別にまとめた社長に多い名字・名前ランキング(表5)によると、「佐藤」「鈴木」は東日本に多く、「田中」「山本」は西日本に多い――という勢力分布が浮かび上がる。大まかに言うと、北海道、東北は「佐藤」、関東、東海は「鈴木」、北陸、関西から西は「田中」「山本」の牙城になっているのだ。

なぜだろうか?

実は、これには意外な歴史が関係している。

「佐藤」――藤原氏の末裔(まつえい)が下級官僚として東日本に赴任・居住する際、よく名乗ったのが「佐藤」という名字だった。だから東日本には「佐藤」が多い。

「鈴木」――紀伊半島の熊野がルーツの「鈴木」は三河の鈴木一族として栄え、徳川家康が江戸に拠点を定めると、家臣の鈴木一族もこれに従い、大挙して移り住んだ。だから東海地方から関東地方にかけては「鈴木」が多い。

「田中」「山本」――それぞれ田んぼの中、山の麓(ふもと)という意味の地名姓。どちらも稲作の田園風景の象徴であり、ともに温暖な気候に恵まれた西日本の方に圧倒的に多かったと考えられている。

このようにして、名字の不思議な勢力分布が生まれたというわけ。

表5を見ると、東日本と西日本の境界が、東西の交通を断ち切っていた北アルプス(新潟・富山県境など)や関ケ原(岐阜県)のあたりにあることも分かる。そんな歴史の痕跡も読み取れるのだ。

(→下記の「名字の不思議な勢力分布、都道府県別ランキング」参照)

最後に、どの出身地なら社長になりやすいのかについての統計を紹介しよう。

表6は出身地(都道府県)別の社長数を各都道府県の総人口で割った「社長輩出率」の都道府県別ランキング(2010年7月、東京商工リサーチ調査)である。

47都道府県で最も社長輩出率が高いのは山形。次いで香川、徳島、大分、秋田などの順で続いている。地区別に輩出率を比べると、特に四国、北陸、東北などで高いのが分かる。

なぜだろうか?

トップの山形は「実直、勤勉の県民性に加えて、伝統工芸品の宝庫と称されるほど家内工業が盛んであり、江戸時代は活発な北前船交易により港町が栄え、商工業の重点が高い土地柄」(東京商工リサーチ)とされる。

一方、2位の香川は「堅実な県民性と、目先が利くという意味で商売上手な気風が影響しているようだ」(同)という。要するに、気候の厳しい「東北」や「北陸」では粘り強さや冷静に将来を見据える予見力が優れ、地の利のある「四国」では社交性や経済観念が秀でているということらしい。

もちろん例外はあるだろうが、ビジネスに適した資質や環境を考える際には、1つのヒントになるかもしれない。ちなみに、人口が集中する大都市圏では、概して輩出率は低い傾向があるようだ。大企業や工場、商業施設などが集まっており、会社で働くサラリーマンが多く集まっているためと考えられる。

◇            ◇

以上、日本の社長に関する興味深い統計を紹介してきた。次回は「女性社長」に関する統計について取り上げる予定だ。

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