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保険の転換、気をつけて

生命保険は誰のために(2)

編集委員 田村正之

「大手生保の営業って、本当に変わらないな、ってびっくりしましたよ」。金融機関に勤務するAさん(48)は苦笑混じりにそう話す。

Aさんは1990年代前半に国内大手生保で終身250万円、定期4750万円の死亡保障に加入した。現在の保険料は月に2万円台半ばだそうだ。

昨年春ごろ、その大手生保の営業職員である40代の女性が訪ねてきて「50歳で更新になり、保険料が4万2000円に上がります。この機会に保険を見直しませんか」と薦められたという。

職員のお薦めは、医療保障を重視した同社の新しい保険。現在入っている保険を解約してその保険に入り直せば、医療保障は手厚くなる一方で、保険料は2万8000円ですみます」と言う。

このように契約中の保険を下取りに出し、同じ保険会社の別の保険に入り直すことを「転換」という。このままなら50歳以降は4万2000円に上がるのだから、一見お得な話だ。

しかしAさんは仕事の必要性からファイナンシャルプランナー(FP)の資格を持っていて、保険にはある程度の知識がある。このため提案内容に疑問を持った。

保険商品は期待利回りである予定利率をもとに、保険料が決まる。予定利率が高いほど、保険料は低くて済む。

例えば貯金して10年後に100万円を得たい場合、利回りが年1%なら最初に約90万円貯金しなければいけないが、利回りが年10%なら最初に40万円弱入れるだけで運用で大きく増え、100万円になるのと同じだ(図A参照。ただし予定利率と貯金の利回りは内容が異なる。予定利率についてはシリーズ第1回目を参照)。

Aさんが加入した90年代前半は予定利率が高く、5.5%。よく言われる「お宝保険」だ。Aさんはその職員に対し「解約して新たに入り直したら、予定利率は現在の平均的な水準である1%台半ばに下がってしまう。不利じゃないですか」と疑問をぶつけた。

「そしたら営業職員が、ちょっと斜め上を向いたまま『予定利率ですか、上がりはしないかもしれませんねぇ』って言うんです。びっくりしましたよ」

実際には明らかに大きく下がる予定利率について説明しなかったその職員が、故意なのか、単に知識不足なのかは判然としなかったという。

しかも転換で新たな保険に入り直すと保険料が抑えられるという点には、いわばトリックのような仕組みがある。

保険に入って時間がたつと、将来の支払いに充てられる積立金というものがたまってくる。特に終身保険部分ではこれが大きいし、定期部分についても定期期間の終盤にはかなりの額になっていることがある。

もし保険を解約したら、その多くは解約返戻金として返ってくる金額であり、つまりは大切な自分のお金だ。

実は保険の転換で保険料があまり上がらないときは、この積立金が、新しい保険料の一部に充てられる設計になっていることが多い(B図参照)。要は自分のお金で新しい保険の保険料を補てんしているのに過ぎない。

しかしそれを「十分説明されないまま転換に応じてしまったケースが数多くある」(FPの内藤眞弓さん)。

特に転換後の最初の期間に積立金を使い切ってしまう設計になっている場合は、次の更新時に保険料が大きく上がってしまってびっくりすることになる(図B参照)。

実は90年代以降、株安や金利低下で運用収益が契約者に約束した予定利率を下回る「逆ザヤ」が深刻化。それとともに保険の転換が増加し、社会問題化した。

このため金融庁の規制で、保険会社は転換前後の保障内容を比べたりした資料を配るようになっている。Aさんに提示された資料の中にも、転換の仕組みが詳しく説明された部分があったという。

「でも口答での説明は、僕が疑問を呈するまで一切なかったんです。普通の人は資料を詳しく読んだりしないので、分からないままに転換に応じている人が多いんじゃないでしょうか」

転換の問題は当時ほどには騒がれなくなり、一見沈静化したようにも見える。ただし実際には今でも、Aさんが受けた転換の提案のように「保険会社は高い予定利率の契約を減らしたいので、転換を薦めがち」(FPの三輪鉄郎さん)だ。

「予定利率が高かった過去の保険商品を解約(転換)し、同じ会社の別の商品に入ることにメリットを思いつかない」(FPの深田晶恵さん)というのが多くのFPの共通認識だ。しかし生命保険協会によると、09年度も約520万件の転換がなされ、これは新契約の6割弱に達している。

保険会社の多くは「転換の際は職員にデメリットもきちんと説明させていて、顧客も理解している」と言う。しかし実際の営業の現場がその通りになっているかは、また別の話だ。

実はAさんの驚がくはこれで終わらない。

Aさんの加入している大手生保は、担当者が顧客の住んでいる地域担当と勤務先担当の2人いるのだそうだ。冒頭の営業職員は、Aさんの住んでいる地域の管轄。しばらくして、今度は勤務先担当である別の職員がAさんのもとを訪れ、やはり医療保障重視の同社の商品への転換を薦めた。

Aさんはその際に「医療保険に関する職員の知識のなさに、ものすごくびっくりしました」と振り返る。どんな内容だったかは、次回に紹介したい。

(編集委員 田村正之)

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