スカイツリー、モデルは法隆寺 「五重塔」参考に - 日本経済新聞
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スカイツリー、モデルは法隆寺 「五重塔」参考に

すくすくと400メートル超

東京スカイツリー(東京・墨田)の建設が急ピッチで進んでいる。2011年12月の完成時には地上634メートルとなり、世界一高い鉄塔になる。日本一高いビル「横浜ランドマークタワー」(横浜市、296メートル)を2つ積み重ねたくらいの巨塔は、技術者たちの独創的な知恵に基づく工法が生み出した。

「これがタワー?」――。09年7月、東京メトロ半蔵門線押上駅の地上出口を出てすぐの工事現場で目にしたスカイツリーは、高さがまだ50メートル程度。鉄塔というよりもまるでビルのようだった。それから1年、建設は進み7月30日には408メートルまで組み上がった。

スカイツリーは東武鉄道と東武タワースカイツリーが12年春の開業を目指しているテレビ電波塔。地上350メートルと450メートルに展望台を設ける。鉄塔の足元に相当する「基部」は断面が三角形で、高さ約300メートルを超える上部は円形になる。

塔の中心部に「心柱」

約1300年前に建てられた法隆寺(奈良県斑鳩町)をはじめ、地震に強いとされる五重塔を参考に、塔の中心部にコンクリート製の円柱「心柱(しんばしら)」を構築する。地震の揺れを塔内で吸収する「制震」という仕組みを採用して、地震時や強風時の揺れを軽減する設計だ。

 にょきにょきと伸びた鉄塔の中心部は空洞になっている。設計では直径8メートルの心柱がここを貫くはずだが、柱らしい構造物はまだない。

「心柱は最終段階で一気に造ります」と話すのは、施工を担当する大林組・技術本部企画推進室の田村達一副部長だ。中心部をあえて空洞にするのは、工事中盤まで鉄塔の上部をそこで組み立て、作業空間として活用するためという。

第1展望室を設ける地上350メートル付近まで鉄塔ができると、高さ500メートルから上の部分「ゲイン塔」を中心部の空洞で組み立てていく。基部の最上部は着々と高さを増しながら、さらにその上部を占めるゲイン塔を下で並行して造る。

ゲイン塔の全長はつり下げる階段部分も含めると200メートル超。50階建てビルに相当する。タワー全体の高さが500メートル近くになると、「だるま落としの逆の要領」(田村副部長)で、下で組み上げたゲイン塔を一気にワイヤで引き上げて突き出す。

この工法は京セラドーム大阪(大阪市)の屋根を造るときにも使われた。本来はドーム球場のように内部に巨大な空洞をもつ構造物に向いた工法だ。地上や下層部で造って最後に油圧ジョッキなどで引き上げれば、工期の短縮や作業の安全性を確保できるので、スカイツリーでも採用された。

最上部は台風しのぐ風速

スカイツリーにはテレビ各局のアンテナ計7基を設置する予定で、その取り付けにも工夫を凝らす。塔の最上部では風速63メートルと台風中心部の風速をしのぐ猛烈な風が吹き付けることが予想されている。タワー完成後にアンテナを付けるのは危険。そこで、なるたけ低い位置でアンテナを1つ取り付けてはゲイン塔を少し上げ、また付けては上げるという作業を繰り返す。作業は頂上より100メートル以上低い500メートルの部分でできるようになる。

アンテナを付ける10年冬ごろには建設も最終段階に入り、心柱の製作に取りかかる。コンクリート材を加えながら円柱形の型枠を少しずつ引き上げる。型枠が引き上がるうちにコンクリートが固まる仕組み。この工法は高さ200メートル前後の高い煙突を造る時に使っている。

太陽光でゆがむ鉄材

一連の工程で不可欠なのが、塔をまっすぐに保つ工夫だ。鉄塔を構成する鉄材は熱で伸びやすい。朝方は東方向、夕方は西方向という具合に太陽光にさらされる側の鉄材が伸びて、これが塔全体のゆがみを生み出す大きな原因となる。

通常はレーザーなどの計測器で地上の基準値と建物上部の基準を計測して補正する。ただ、建物が高くなるにつれて誤差も大きくなるので、スカイツリーでは全地球測位システム(GPS)を使う計画だ。塔の中心部にGPS端末を取り付け、日照による塔のゆがみが少ない夜間に測ると、誤差を数ミリメートル以下に抑えられるという。

心柱の工事が終わるのは11年夏ごろ。タワー完成後は心柱をいつどんな手順で造ったのか外見を眺めただけでは分からなくなる。だが、技術者は建設のプロセスに魂とプライドを込めている。

(科学技術部 新井重徳)

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