ブログは誰のものか?
ブロガー 藤代 裕之

2010/5/11 9:00
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CNET JapanのWebサイト

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ソーシャルシャルメディアには「ユーザー」がいなければ成り立たず、信頼獲得には息の長い取り組みが必要になる。だが運営企業の事業見直しに伴うサービスの閉鎖や運営方針の変更をきっかけに、信頼を失うこともある。何に注意するべきか、老舗のネット系ニュースメディア「CNET Japan」で起こっている「読者ブログ騒動」を事例に考えてみたい。

騒動の発端はCNET Japan編集部が、同社のブログサービスに執筆している一般読者に送ったメールだ。「5月31日にリニューアルするため、これまでのブログは閲覧不能となる」というもので、ブロガーによっては実名で継続できるといった内容だったという(編集部は5月10日現在、公式発表していない)。

現在、同編集部の読者ブログを読むと、突然の方針転換メールへの戸惑いや怒り、提案、そして失望が率直に記されている。「夢を見ているような4年間でした」「出会えたブロガーは同志で、大切な財産」といった書き込みからは読者ブロガーのCNETに対する熱い気持ちがうかがえるが、編集部からの反応がないまま時が過ぎ、気持ちが離れていく様子が分かる。

最も多いのは、ブログ記事が救済されることなく削除されることへの批判だ。削除は、これまで積み重ねてきた書き手の気持ちの問題だけでなく、ネット上に残ったやり取りや反響の「消滅」も意味する。ソーシャルメディアでは、情報の出し手側だけでなく、読み手やそれを引用して評論するほかの書き手とのやり取りがあることで価値が増幅される。書き込みは他のブログなどにも広がり、「コンテンツは、配信側だけのものではない」と指摘するブロガーや「ブロガーへのメールによるお知らせだけでなく、読者に対する告知として行われるべきではないか」と運営側の姿勢を問う声もある。

「読者にも開かれたメディア」として注目

「読者ブロガー」は新たなメディアとして注目されたが・・・

「読者ブロガー」は新たなメディアとして注目されたが・・・

読者ブロガーとは、ファッション雑誌の読者モデルのようなものだ。読者モデルは読者像を代表するだけでなく、雑誌やそこで活躍するモデルの熱心なファンであり、イメージや世界観を補強する存在でもある。

CNETは世界に展開するメディアネットワークで、1997年に日本語版がスタート。先進的なイメージもあり根強いファンがいる。06年4月に始めた読者ブログは、ネット上の著名人で編集部が執筆を依頼している「アルファブロガー」に加えて「読者にもメディアが開かれた」と、当時新たな動きとして受け止められた。

従来のマスメディアで読者が意見を表明できるのは、投稿欄など限られた場所しかない。CNETは募集時、メディアのコンテンツとして編集部と著名人、読者の記事を並べることについて、「記者や編集者が情報を発信できるだけではなく、読者の皆様も意見や考えを表明できる、新しいメディアになりたいと考えています」と意気込みを記していた。

読者モデルが時には専属モデルやタレントとしてデビューすることがあるのと同様、CNET編集部も「アルファブロガーを育てていきたい」としていたが、実現しなかった。06年と07年には「読者ブログアワード」を行い、審査員によってグランプリなどを選んでいたが、08年には開催されなくなった。約70人の読者ブロガーでスタートしたが、その後は大幅に増えることなくアクティブ率(活発に記事を書く割合)も下落し、月に1~3本の記事しか書かない読者ブロガーがほとんどになったと思われる。

スタートは華々しかったが、編集部による読者ブログへのかかわりが減るにつれて、活力が失われていったのだろう。当たり前だが何のサポートもない状態で勝手にアルファブロガーに育っていくことはまれだ。継続的なサポートが行われなかった読者ブログは、ネット上でも存在感を失いつつあった。サポートが少なかったにもかかわらず、読者ブロガーが声を上げたのはCNETのブランド力の高さの裏返しでもあるが、それもうまくフォローできていない。下手をすれば利用者無視のイメージが固定化しかねない。

「ライター」ではなく「ファン」として対応すべき

今回の騒動の何が問題だったのか。いくつかのポイントがあるが、特に「情報の非公開」と「読者の声に無反応」が挙げられる。

読者ブロガーが単なる媒体のライターであればメール一本で「連載終了」が告知されるのも「普通」だが、ファンの集まりだとすれば、あまりに味気ない。事前の告知や反応を受けて説明を手厚くするなど方法もあったが、それも行っておらず急で一方的な印象を与えてしまった。

メディアを持つ人々が自分の考えや意見を主張し、その情報が広がっていくことを軽く考えすぎているようにも思う。公式なアナウンスがなければ、ネット上での意見は修正されることはない。利用者から批判や誤解が生まれれば、その声に向き合って対応していくことでしか修正できない。企業がソーシャルメディアを運営するということは、ソーシャルメディアを作っている「人」と向き合う姿勢が問われるのだ。

藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。学習院大学非常勤講師。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。
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