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「通信・放送融合」に突き進む米国と置き去りにされる日本

ITジャーナリスト 小池 良次

3月22日から4日間にわたり、米国の携帯電話業界団体「CTIA」が年次総会を開催した。この場で無線ブロードバンドに注力する米国の事業者の意図が見えてきた一方で、光ファイバーにこだわる日本との違いも浮き彫りになった。

米国の3Gが世界トップに

初日の基調講演では、AT&Tモビリティの最高経営責任者(CEO)でCTIAの議長を務めるラルフ・デ・ラ・ベガ氏が、「米国は第3世代(3G)携帯電話で世界のトップに立った。これからもトップを維持するために努力していこう」とぶち上げ、業界を挙げて第4世代携帯電話(4G)ネットワークの整備に取り組む姿勢を強調した。

3G携帯では当初、日本と韓国が加入者数やサービスの豊富さ、端末の機能で世界市場を先導していたが、最近になって米国や中国、インド、欧州が急激に追い上げてきた。2009年には米国が3G加入者数で全世界の18%を占め、日本や韓国を追い越して世界の頂点に立った。

かつて米国の携帯事業者は、加入者数の順調な伸びを背景に、音声サービスを重視してきた。加入率が低下したここ数年は「サービスの充実による顧客単価の拡大」へと戦略を変えて、3Gネットワークの整備に力を入れている。端末面では、カナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)の「BlackBerry」と米アップルの「iPhone」という2大スマートフォンが市場の拡大に貢献した。

BlackBerryは企業にスマートフォンブームを引き起こし、メールを軸に業務アプリケーションのモバイル化を促進した。iPhoneはアプリケーション販売サービス「App Store」によって、携帯コンテンツの流れをHTML系からパッケージソフト系へと一変させた。「携帯コンテンツはもうからない」という通念を覆し、携帯アプリのブームを起こした。

09年の携帯アプリのダウンロード数は、米国が11億6700万件で、日本の9億9800万件を押さえて世界トップの座を維持した。調査会社ストラテジー・アナリティクスの推定によると、10年の米国のスマートフォンの販売台数は5300万台で、2位の中国の2500万台に2倍強の差をつけている。

いつの間にか米国の3G携帯は、加入者数、サービス、端末のすべてで世界トップの地位に立っていた。米国の携帯業界は、3Gのサービス開始以降、長らく失っていた自信を取り戻そうとしている。

懸案の周波数不足が解消へ

スマートフォンブームが続く米国では携帯ネットワークを流れるデータ通信のトラフィックが急増している。AT&Tのクリス・リンネ上席副社長は「AT&Tの携帯トラフィックは過去12四半期(3年間)で50倍に増加した」と報告する。

そのため携帯電話業界には「ネットワーク容量が足りなくなる」との懸念が広がり、政府に次世代携帯電話用の周波数の拡大を求めていた。CTIA総会の直前、米連邦通信委員会(FCC)は全米ブロードバンド計画(NBP)を発表し、議会に「向こう10年間で、携帯電話向けに500MHzの帯域追加」を提案した。これはCTIAが求めてきた800MHzには不足するものの、デ・ラ・ベガ議長は「大きな前進だ」と同提案を歓迎している。

次世代ブロードバンドの本命は次世代規格「LTE」で、下り方向で最大100Mbpsを超えるデータ速度が期待されている。しかし、従来よりも広い周波数帯域を必要とするため、十分な周波数がなければ通信事業者はインフラ投資に踏み切れない。今回、FCCが500MHzの追加を提案したことにより、この問題が解決に向かい、携帯事業者の投資意欲に火が付いた。

10年の米通信業界の設備投資額は推定約450億ドル(約4兆2500万円)で、そのほぼ半額の220億~230億ドルが携帯系ネットワークで占められている。業界トップのベライゾン・ワイヤレスは、10年末までに25都市から30都市でLTEサービスを開始する。同社の最高技術責任者(CTO)であるアンソニー・マローン氏は「ピーク値なら上りが50Mbpsで下りが25Mbps、実用環境では少なくとも下り5M~12Mbpsを確保できる」と述べている。ベライゾンの動きに刺激され、第2位のAT&Tも11年からLTEサービスを開始する。業界3位のスプリント・ネクステルはLTEではなく、WiMAXをベースにした次世代サービスを開始している。

「無線ブロードバンドの整備は不可欠」

日本では原口一博総務相が光ファイバーを整備する「光の道」計画を発表している。米国が無線ブロードバンドに力を注ぐなか、日本はいまだに固定系の光ファイバーを推進している。

なぜ米国と日本は方向が違うのだろうか。一言で言えば、日本はインターネットという単体サービスにこだわっているのに対して、米国は通信・放送の融合サービスの展開に重点を移しているためだ。

例えばAT&TやベライゾンはLTE整備に力を入れながら、自社が展開するIPTV(インターネット放送)とのサービス一体化も準備している。携帯電話から自宅にあるデジタル・ビデオ・レコーダー(DVR)などを操作できるほか、録画した番組を出先の携帯電話やネットブックなどの小型パソコンで鑑賞することも可能になる。

米国では過去数年にわたり、CATV業界と通信業界がトリプルプレー(放送、電話、インターネット)を巡って競争を繰り広げたため、有線系では十分なサービスが供給されてきた。その次の段階として「固定網や携帯網にかかわらず、放送コンテンツや通信サービスを好きな時に好きな場所で利用できる」マルチサービスへと向かっている。

これらサービスを提供するうえで「無線ブロードバンドの整備は不可欠」というコンセンサスが政府にも民間にもできあがっている。光ファイバーよりも無線ブロードバンド整備の方が、消費者サービスの向上につながると判断しているのだ。

光ファイバー整備で世界トップクラスにいながら、日本のユーザーは米国よりも貧弱なコンテンツやサービスに高い費用を支払わされている。インフラを整備したものの、コンテンツを充実させる競争がなかったためだ。

日本はいつ現実に気づくか

米国のように放送と通信の障壁を低くして相互参入で競争を起こすことを避けた日本では、通信業界と放送業界の垣根が温存された。最近は通信・放送の融合サービスという言葉は聞かれなくなり、日本は米国や欧州の融合サービス競争から遅れた存在になっている。

日本が長きにわたって育ててきた3G携帯は、ここ数年であっさり米国に追い抜かれてしまった。放送、通信、ネットサービスといった業界別の保護政策を展開してきた総務省は、この状況をどう考えているのだろう。日本は民間の競争力だけでなく、行政の競争力も下がっているかもしれない。

米国の政府や企業は「放送も通信もネットもない──すべてはブロードバンド上のサービスにすぎない」という現実を直視して、次の行動を起こし始めている。日本は、いつになったらこれに気づくのだろうか。

〈筆者プロフィル〉 小池良次(Koike Ryoji) 米国のインターネット、通信業界を専門とするジャーナリストおよびリサーチャー。88年に渡米、93年からフリーランスジャーナリストとして活動している。サンフランシスコ郊外在住。主な著書に「クラウド」(インプレスR&D)など。

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