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任天堂 再浮上の条件(上) 次なる敵はアップル

任天堂の業績が踊り場を迎えた。個人消費の低迷で据え置き型ゲーム機「Wii」や、携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」の販売が減少、2010年3月期は6期ぶりの減益となる。ソニー陣営など従来のライバル以外に、米アップルの携帯電話「iPhone(アイフォーン)」など、無料でゲームを楽しめるマルチメディア端末の新興勢も台頭してきた。難局をどう打開するのか。再浮上の条件を探った。

ソニーには勝利

「ソニーとの最終決戦には勝った。だが、もっとソフトの開発スピードを上げる必要がある」。2月下旬、任天堂の岩田聡社長は、京都市の本社でソフト開発部隊を前にこう訴えた。

ソニー陣営が年末商戦の目玉にしたのは「プレイステーション(PS)3」向け人気ソフト「ファイナルファンタジー13」で、1月末までの販売本数は約200万本。一方、任天堂の「NewスーパーマリオブラザーズWii」は1000万本を超えた。

主戦場の米国では昨年12月のPS3の販売が136万台、Wiiは381万台。ソニーとの真っ向勝負には勝った。

だが2月、岩田社長に新たな危機感を抱かせる報告が上がっていた。昨年11月に実施した約3000人を対象にしたブランド調査の結果だ。

主要なDSユーザーの女子高生層で「どちらかと言えばDSよりもアイフォーンを選ぶ」との回答が目立っていた。岩田社長の口癖である「驚きのあるソフト」が減っているとの危惧を裏付けてもいた。

パソコン、携帯電話など様々な端末に娯楽コンテンツがあふれ、戦場はゲーム業界を越えて広がっている。

「将来の仮想敵はアップル」。岩田社長は親しいスタッフに、こう漏らしたという。両社はともにタッチパネルなどの使いやすいインターフェース(入力から出力までの反応性・操作性)を売り物とする。学習ソフト、旅行ガイド、簡易アニメや楽曲の制作など、ソフトの品ぞろえの広さでも競合している。

無料ソフトで攻勢

任天堂の強さはキラーソフトを自社端末のみに供給してゲーム機を買わせ、収益を増幅させるビジネスモデルにあった。このモデルに固執する背景には逸話がある。

1990年代初頭、ソニーと任天堂はPSの原型となったゲーム機を共同開発する計画を進めていた。だがハードのみを担当するはずのソニーが自前のソフトで試作品を実演したことに当時の山内溥社長が激怒。共同開発はお蔵入りになった。

有力ソフトを囲い込む戦略は対ソニーでは有効だったが、対アップルではどうか。

「DSやPSPはもはやクールではない。ソフトの値段は高いし、探しにくい」。昨年9月の販促イベントで、アップルのフィル・シラー上級副社長が、アイフォーンなどをゲーム機としてアピールしていく方針を示し"宣戦布告"。既に無料ゲームを含めたアップル端末向けアプリケーション配信数は30億本に及ぶ。

アップルはゲームもできる書籍端末「iPad」を4月に発売するなど、無料ソフトを提供するマルチメディア端末の投入を一段と進める。「娯楽を楽しめる端末」に「無料(フリー)経済」をプラスしたアップルの新ブランド戦略に岩田社長はどう挑むのか。

広告に年1000億円

「アップル端末はハイテク好きの個人向け」「任天堂はゲームが敵視されてきた歴史を変える社会的使命を負った会社。DSが『デジタルデバイド(情報格差)』解消の重要な手段になる」

対アップルで岩田社長が出した答えは、家族が安心して使える端末として差異化する戦略。家族で任天堂ゲームを遊ぶ場面を中心に、年1000億円規模の広告を出し続けるのもこの一環だ。

DSの稼働率高める

「無料じゃなければ興味がわかないだろうけど」。3月22日、京都市の東映太秦映画村。大阪からわざわざDSへの限定コンテンツの配信を楽しみに子どもと一緒に来た松永篤也さん(37)は熱心にDSの画面をのぞきこんでいた。

施設でDSを使い無料でネット接続やゲーム対戦ができ、施設に関する情報も受け取れるサービス。通信機器の投資やコンテンツ制作費は施設側が負担、任天堂は無料で通信環境を整えられる。利用者は接続料なしでコンテンツを消費でき、通信料が個人負担のアップル端末との差異化になる。任天堂なりに利益率を落とさない形で「無料経済」を取り込む戦略だ。

DSは飽きやすいライトユーザーが多く、浮動層を固定化することが課題。新サービスは「DSを押し入れにしまわれないようにして、DSの稼働率を高める」(岩田社長)狙いもある。

新サービスは昨年6月にマクドナルドが導入、全国3300店以上で使えるようになった。昨年10月からは商業施設や介護施設、美術館などへの導入を積極的に提案するプロジェクトも始めた。東京ディズニーリゾートの商業施設「イクスピアリ」で道案内する回覧板端末として使われるなどすそ野が広がりつつある。

だがその家族向けブランドも分裂の危険をはらんでいる。暴力的な表現を含むソフトの発売を規制するアップルに対し、任天堂は他社ソフトに関しては寛容な姿勢。

岩田社長は「ソフトの多様性は必要」と、大人向けのソフトを今後も自社のゲーム機向けに出し続ける方針だ。施設で無料で提供されるコンテンツには任天堂は関与しない。家族全員を狙う欲張りな戦略はブランドを傷つけるリスクを伴う。

3D対応のゲーム機投入へ

任天堂はさらにアップル対抗策として、10年の年末商戦向けに裸眼3D対応の新機種を投入する。単純に画像で勝負する3Dではなく、立体的な世界を縦横無尽に動き回る楽しさなどあくまで「インターフェース」で新しいゲーム体験を生み出すのが狙いだ。そのために3Dに向いた入力デバイスである3次元スティックを取り入れる。

高性能な省エネ半導体の採用でハードの性能は据え置き型ゲーム機の「ゲームキューブ」並かそれ以上になるとみられ、過去のソフト資産を3D化して活用できるので有料ソフトの品ぞろえにも厚みが出る。

無料経済に過剰に巻き込まれない工夫は忘れていない。新機種投入で有料ソフトのビジネスモデルを維持し、アップルとのブランドを巡る争いを乗り切れるか。それが任天堂の再浮上のカギになる。(この記事は日経産業新聞で連載しました)

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