/

10年目の独白「世紀の合併」はなぜ失敗したのか

AOLタイムワーナーのレビン元CEO

2000年1月の発表時には「世紀の合併」と騒がれたものの、昨年12月に幕を閉じた米メディア大手タイムワーナー(TW)と米ネット大手AOLの合併。インターネットに対する懐疑論も大きかった名門TW内部をまとめ上げ、合併のけん引役を務めたのが、当時の最高経営責任者(CEO)、ジェラルド・レビン氏だ。合併後に誕生した新会社「AOLタイムワーナー」のCEOにも就任したが、業績悪化の責任を問われ、1年を待たずに退任発表に追い込まれてしまった。成功の頂点からバッシングの荒波に突き落とされたレビン氏は退任後、公の場にはあまり姿を現さない。「世紀の合併はなぜ失敗したのか」「新旧メディアの融合は夢物語だったのか」――。日本経済新聞社の取材に応じたレビン氏が胸の内を語った。

「今世紀最悪の合併」

TWとAOLの合併を、レビン氏はこう呼んだ。なぜ、そんな自虐的な発言をするのかと問いただすと、「一部のメディアがそう呼んでいるから」との答えが返ってきた。合併発表直後に「IT(情報技術)バブル」が崩壊。高騰していたAOLの時価総額が急落したうえ、景気後退による広告収入減が重くのしかかってきた。02年決算では、米産業史上最大といわれる約1000億ドルの最終赤字を計上。「最高の合併だったと正当化できる余地はない」という。

ITバブル崩壊、広告市場の冷え込みと並んで、AOLタイムワーナー合併失敗の理由として頻繁に挙げられるのが「企業文化の違い」だ。具体的に当時、社内で何が起こっていたのだろうか。

「スーパーマーケットではなくて、ショッピングモールになってしまった」。複数のブランドの製品が並んでいても1つの店舗名を掲げるスーパーと、複数のブランド店がたまたま同じ場所に軒を連ねているだけのモール。傘下の各社が共通目標を全く持てなかったAOLタイムワーナーを、レビン氏はモールに見立てた。例えば、AOL出身者はAOLが、ケーブル専門ニュース局CNNの出身者はCNNが売れればいいという考え方から抜け出せなかったという。「誰もが出身母体にしがみつき、AOLタイムワーナーという新しい会社に勤めている意識を持ってなかった」

タイムワーナーとAOLを巡る主な動き
1989年出版大手タイムが映画大手ワーナー・コミュニケーションズと合併発表
95年タイムワーナー、ケーブル向けテレビ局CNNなどのTBS買収発表
2000年AOLとタイムワーナーが合併発表
01年レビンCEO(当時)の退任発表(退任は翌年5月)
03年AOLタイムワーナーが02年決算で約1000億ドルの最終赤字を計上
社名からAOL削除を決定
09年CATV子会社タイムワーナー・ケーブル(TWC)を分離
  AOL分離を取締役会が決定
  AOL分離、独立企業として再出発

昨年12月、タイムワーナーはネット部門AOLを分離、世紀の合併は正式に終焉(しゅうえん)を迎えた。結局、レビン氏が目指した「新旧メディアの融合」は実現しなかった。だが、「今までに『インターネットを事業モデルに組み込むべきだ』という基本的な考え方を否定されたことは一度もない」と胸を張る。

現在の普及ぶりを考えれば、当時、旧メディア側から「創造的破壊」と恐れられていたネットを、いち早く取り込もうとした眼力に間違いがなかったことは確かだ。その後も、いろいろな企業が買収を通じて、新旧メディアの融合に取り組んだが、成功例は極めて少ない。

 「情報はタダ」が主流のネット文化と、有料が基本の旧メディア側の融合は「この10年間、誰も成功していませんね」と水を向けると、「それだけ根深い問題ということだ」とポツリ。企業買収は社内に不安を増幅させる。ただでさえ難しい新旧メディアの融合は、「『買収』ではなくて、社内で『育成』した場合に成功するかもしれない」というのがレビン氏の見立てだ。

当時に戻れるとしたら、再度、合併の選択をするかと聞いてみた。数秒考え込んだ後、「たぶん、答えはイエス」。ただ、「次はもっと人的要因に配慮する」と付け加えた。大型合併で社員が抱いた恐怖感を取り除く努力が足りなかったことを深く悔やんでいるようだ。「どんなにすばらしいビジョンがあってもダメ。従業員は機械じゃない。家族のように扱って、経営陣の目的はお金もうけだけではないと理解してもらうことが大事だった」

最後に、現在のメディア業界のリーダーについて意見を求めた。タイムワーナーのビューケス現CEOは、昨年、AOLだけでなく、CATV事業も切り離し、コンテンツ専業への道を突き進む。ウォルト・ディズニーのアイガーCEOは、「スパイダーマン」などを抱えるコミック大手マーベル・エンターテインメントを傘下に収めて、キャラクター重視の事業展開を進める。「得意な分野に特化する縮小路線が、経済的に一番正しい」。一方、傘下に新聞、テレビ、ネット事業を抱えて複合メディア路線を追求するニューズ・コーポレーションの総帥、マードック氏に対しては、「息子らに代替わりするまで成功は難しいだろう」と語った。

◇   ◇   ◇

「完全引退の身だよ」。現在70歳。カリフォルニア州サンタモニカ市で、夫人が経営する麻薬やアルコールなどの中毒患者を治療するリハビリセンターを手伝っている。自らもヨガや瞑想(めいそう)を楽しむ穏やかな日々を送る。「毎朝、電子メールで送られてくる映画の興行成績を確認するところから1日が始まる」。ビジネス界への復帰は否定するが、会話の端々に未練も垣間見える。

「もう少し時間があれば、シナジー(相乗効果)は生まれたはずだ」。ITバブルの崩壊で投資家からの圧力が急速に高まり、社内不和の解消に時間をさけなかったことには悔しさをにじませる。ネットとメディアの融合という本来の目的に行き着く前に、退任せざるを得なかったことには大いに悔いが残っているようだ。

(米州総局 清水石珠実)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン