2019年7月20日(土)

ウィルコム再生を支援するソフトバンクは何を得たか
ジャーナリスト 石川 温

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2010/3/16 7:00
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「基地局ロケーション」の価値とは

会社更生法申請後の記者会見で唇をかむウィルコムの久保田社長=2月18日

会社更生法申請後の記者会見で唇をかむウィルコムの久保田社長=2月18日

XGP事業の新会社は、ソフトバンクが30億円、APが優先株を含めて50億円を出資し、他の事業者からも合計30億円の出資を募る。ソフトバンクの出資額が30億円と中途半端なのは、総務省が2.5GHz帯の免許を割り当てる際に「3G事業者は3分の1までしか出資できない」という規制を設けたためだ。

だが、ソフトバンクはこれにより大きな見返りを得る。新会社にはウィルコムが所有する大半の「基地局ロケーション」が譲渡されることになるためだ。つまり、全国に16万あるとされる基地局の大半が、ソフトバンクが出資する会社のものになるのである。

この「基地局ロケーション」という言葉は実に巧妙で、一般には「基地局を設置している場所」を指すが、拡大解釈も可能だ。適用範囲について内部で協議が続いているようだが、いずれにせよソフトバンクがかなりのメリットを得られるのは間違いない。

実はウィルコムはXGP事業の展開に備えて、基地局周りをこつこつと整備してきた。従来、基地局間はNTTの交換機を経由していてNTTにアクセスチャージ(接続料)を支払う必要があったが、IPネットワークで構築したウィルコムの回線にバイパスする「ITX(IP Transit eXchange)」という仕組みを全国規模で導入してきたのである。

このITXとその先につながるウィルコムの独自ネットワークはバーチャルLANに対応し、1つの基地局の設置場所にPHSやXGP、さらには3Gと無線LAN(Wi-Fi)を接続することも可能という。ソフトバンクモバイルは現在、「iPhone」が人気でネットワークのトラフィックが逼迫(ひっぱく)している。ウィルコムのITX網を早期に利用できるようになれば、ネットワーク品質は大幅に改善するだろう。

例えば、都心のように基地局が密集した場所は、3GとWi-Fiのハイブリッドで運用すれば、相当な改善を期待できる。ソフトバンクがすでに使っている他社ネットワークもITX経由にすれば、かなりのコスト削減になるだろう。

中国との連携も視野に

新会社は、中長期的にみればXGPだけに専念する必要もない。中国は現在、TD-LTEという次世代技術の実用化に動き出している。これが中国で本格的に稼働すれば、基地局などのコストは劇的に下がると予想されている。

ただ、TD-LTEは電波に指向性を持たせることができるアダプティブアレイといった技術を持ち合わせておらず、その点で勝るXGPについて中国から技術者が頻繁に東京・虎ノ門のウィルコム本社を訪れてヒアリングを繰り返していたという。

こうした経緯もあり、新会社は今後、中国におけるTD-LTEの動向を横目で見つつ、XGPを展開していくことになるだろう。日本にTD-LTEを導入する、あるいは逆に中国でTD-LTEの次世代バージョンとしてXGPを売り込むといった展開も考えられる。中国での事業展開に積極的な孫正義社長だけに、この分野でもシナジーを狙ってくる可能性は十分にある。

新会社の「基地局ロケーション」を手にすることで、ソフトバンクモバイルはネットワーク品質やエリア拡充の足がかりをつかめる。さらには、次世代通信での選択肢も広がることになる。そう考えると、ソフトバンクは30億円で実にいい買い物をしたのではないか。まずはITXによるネットワークを生かすためにどれだけ追加資金を投入してくるかが注目される。

[IT PLUS 2010年3月16日掲載]

〈筆者プロフィル〉 石川温(いしかわ・つつむ) 月刊誌「日経Trendy」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。近著に「グーグルvsアップル ケータイ世界大戦」(技術評論社)など。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226

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