この父ありて 作家 田辺聖子(4)
時代に負けた大人たち 梯久美子
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終戦翌月の田辺の日記には、体調を崩して寝ていた父と会話する場面がある。
このとき田辺は学校から帰ってきて炮烙(ほうろく)で豆を煎っていた。食糧事情は戦時中より悪化し、一日の大部分を食べることのために費やさねばならなかった。
〈お父さんがふらふらと夢遊病者みたいな足取りでほの白い顔をしかめて蚊帳から出て来ていう。
「聖ちゃん、勉強あるのやろ」
「うん」
「せめて、あんたら三人だけでも、暢気(のんき)に勉強...