農業・食品産業技術総合研究機構が特殊な細菌を発見した。高温環境で増殖できる「好熱細菌」の1種だが、見つけたのは何と羊のフンの中。既存の細菌とかなりかけ離れた新種で、未知の有用な遺伝子を多数持っている可能性がある。すでに植物繊維の主成分を糖に分解できることが分かっており、植物を原料にエタノールなどのバイオ燃料を作るのに役立つと期待されている。
農研機構が米ジョージア大学と発見した細菌は「カルディコプロバクター・オーシマイ」。羊のフンの中から水素発酵に関連する細菌を探す別の実験の過程で偶然に見つけたという。
この細菌はセ氏70度で最も活発に増殖するほか、77度でも増殖可能なことを確認した。高温の環境下でも活動できる好熱細菌は、海底にある熱水噴出口などで多く見つかっている。家畜のフンの中など比較的身近な環境から見つかるのは珍しく、「最も活発に増える温度が65度を超える細菌が家畜のフンから見つかったのは初めて」(農研機構の横山浩・主任研究員)という。なぜフンの中に好熱細菌がいるのか、その理由は詳しくは分かっていない。
それ以上に注目すべきこの細菌の特徴は、植物繊維の主成分の1つである「キシラン」を、バイオエタノールの原料として使える「キシロース」という糖に分解できることだ。植物繊維はセルロース、ヘミセルロース、リグニン、という3つの成分でできている。ヘミセルロースはセルロースとリグニンをくっつける“のり”のようなもので、その主成分がキシランだ。
植物繊維の成分を安く効率よく分解する方法はまだ確立されていない。そのため、繊維が多い稲わらや牧草などはバイオ燃料の原料としての利用が遅れている。利用が進んでいるのはトウモロコシやサトウキビなどの分解しやすい原料か、すでに分解された状態の原料だが、食料との競合が問題になっている。
見つかった細菌はキシランを糖に分解できるため、植物の中でも繊維だらけの「食べられない部分」をバイオ燃料に変えられる可能性がある。さらに、キシランの分解反応は温度が高い方が速く進むため、好熱細菌を使えば効率よく繊維を分解できると考えられるという。
遺伝子解析の結果、この細菌はこれまで知られている細菌と比べても進化的に離れた新種だった。細菌の分類には、すべての細菌が共通に持つある遺伝子の配列が使われる。配列が既存の細菌から3%以上違っていると新種と認定されるが、この細菌は15%も違っており、分類学で「種」より2つ上位の分類階級である「科」が新たに認定されたほどだ。横山主任研究員は「従来の細菌とこれほど離れた新種であれば、未知の遺伝子を持っている可能性も高い」と話す。熱に強いキシラン分解酵素など、有用な新しい酵素の発見に期待が高まる。
カルディコプロバクター・オーシマイという命名は、好熱細菌研究の権威である大島泰郎・東京工業大学名誉教授にちなんだもの。日本人の名前を冠した細菌から、バイオ燃料生産への新たな道が開けるかもしれない。
(科学技術部 柏原康宏)
細菌、植物繊維、バイオ燃料、バイオエタノール、分解酵素
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