米国では、野球の試合で発生する個々のプレーをデータ化し、統計的に分析して戦略を導き出す手法は「セイバーメトリックス」と呼ばれ、1970年代から研究が進められてきた。セイバー(SABR)とは「米国野球学会(Society for American Baseball Research)」のこと。米国のメジャーリーグでは、松井秀喜選手が今シーズン所属しているオークランド・アスレチックスがセイバーメトリックスをチーム編成や選手起用に採り入れ、少ない編成費用ながら地区優勝などの成果を残したことで知られている(注1)。
セイバーメトリックスの第一歩になるのが、現場で起こっているプレー内容を詳細にデータ化する入力作業だ。2007年にSABRに出席したことがある東海大学理学部情報数理学科の鳥越規央准教授は「統計分析をするためには、現場で収集するデータが細かいほど効果を発揮する」という。「例えばレフト前ヒットも、ライナー性の当たりか、ゆるいゴロで野手の間を抜いたか、フライがポトンと落ちたのかといった違いがある」(同)。選手ごとに打球の強さや弾道までがデータ化してあれば、打率だけでなく選手の能力を評価する情報として活用できる。
統計分析を持ち込んだことで、野球の作戦も個別に評価できるようになった。鳥越准教授は「ランナーの有無とアウトカウントでは、8×3の24通りのパターンがある。そのパターンごとの得点期待値は、統計的に算出されている」という。具体的には、「1アウト二塁」と「ノーアウト一塁」の得点期待値を比較し、統計的には後者の期待値が高いことを解明。「ノーアウトでランナーが出たら送りバント」というセオリーは、自ら得点期待値を下げる行為であると説く(注2)。
選手の足の速さや、打者の打率などシチュエーションによる違いは含んでいない統計データだが、数値化したことの説得力は高い。「期待値が低くなることがわかったため、米国のメジャーリーグでは単なる送りバントはめっきり使われなくなった」(鳥越准教授)。
■従来のセオリーは戦略として本当に正しいか
スポーツに統計学を採り入れて鳥越准教授が目指すのは「これまでセオリーとして選択されてきた作戦が、プロが選ぶ戦略として正しいかを検証すること」だという。例えばランナーが走るのと同時にヒッティングする「ヒットエンドラン」は、当たれば大きいが失敗のリスクが高いことが解明されており、米国ではいちかばちかで仕掛ける「捨て身の戦法」として扱われているという。
注1 詳しくは「マネー・ボール」(マイケル・ルイス著;ランダムハウス講談社刊)を参照
注2 詳しくは鳥越准教授の著書「9回裏無死1塁でバントはするな」(祥伝社刊)を参照
これ以外にも統計分析から「勝利の法則」「敗北の法則」を導き出すことができれば、それが新しい野球のセオリーになっていく。数年後、試合中に監督が出す指示は、以前のセオリーとはまったく異なるものになっているかもしれない。さらに「選手が感覚でやっているプレーに、監督がデータに裏付けされた指示をすることで説得力を持たせられる」(鳥越准教授)効果もある。
ポータルサイト、携帯電話、iPad
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