「Professionalシリーズ」と名付けられた、その名にひとりよがりの思いが込められたDECのPCは、全く売れなかった。PCはコンピューターのプロが使うものではなかったからである。
■凋落を招いた「NIH症候群」と「猿罠」
これらのケン(ひいてはDEC)の失敗の本質は、いわゆる“Not Invented Here syndrome(NIH症候群)”と呼ばれる技術志向の強い会社に特有のものである。
つまり、自社(Here)の技術を過信するあまり、他社(Not Here)で生み出された(Invented)技術やアイデアや製品を、評価したがらない傾向のことである。
また、いわゆる“Monkey Trap(猿罠=さるわな)”に捕まったともいえる。「猿罠」とは、猿の手がやっと出し入れできる小さな口の入れ物にエサを入れておき、猿が手を入れて中のエサを握ると手が出せなくなり、猿が捕まるという仕掛けのことである。猿が、握っているエサを放せば、手が抜けて逃げられるのだが、猿はせっかく手に入れたエサを放す事ができず、捕まってしまうのだ。
PDP/VAX/VMSという成功体験をいつまでも握りしめて放すことができず、UNIXやPCといった、“Not Invented Here”の技術やアイデアを評価できなかったのは、“Monkey Trap(猿罠)”に捕まったというわけである。
ここで、さらに悔しいのは、UNIXやPCは、DECにとって、決して“Not Invented Here”の技術やアイデアではなかったということである。これらは、少なくともDECマシンの上や周辺で、“Invented”された技術やアイデアだった。
■DECの成功と失敗、人ごとではない日本
翻って日本はどうであろうか。戦後65年の成功したやり方を、もはや通用しないにもかかわらず、どうしても手放せない(変えられない)。外国(Not Here)、特に米国(Never Here)で、Inventedされたものは、何でもとりあえず否定したくなる傾向。「日本標準(Invented Here)を国際標準に」という相も変わらぬ戦略――。
「NIH症候群」とか「猿罠」という言葉がすでにあったにもかかわらず、「DECはなぜ、絵に描いたような失敗を繰り返したのであろうか」と、人ごとのように語れないのが、我が国、我が国の会社、我が国民ではないだろうか。などと断定的に僭越(せんえつ)極まりないことを申し述べて、今回を終わらせていただく。
=敬称略
(「村上憲郎のグローバル羅針盤」は原則、火曜日に掲載します)
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