遅々として進まない国の議論を横目に、自治体が独自の排出規制に取り組んでいる。今年度から東京都が大規模事業所に義務を課して、排出量取引制度を導入したのに続き、埼玉県も来年度から取引制度を始める。影響を受ける埼玉県内最大の排出企業、太平洋セメントは概要の発表後も、制度の緩和を主張する。雇用を支える地元企業の声は無視できない。だからといって基準を緩めれば、温暖化ガス削減の効果は薄れてしまう――。埼玉県の対応は、自治体の環境政策の実効性を占う試金石になりそうだ。
埼玉県の規制は、対象や削減計画の期間など主な項目で、東京都の制度をほぼ踏襲している。最大の違いは目標を達成できなかった場合でも罰則がないこと。東京都が罰金などがある「義務」と位置付けているのに比べると、制度の“甘さ”が目立つ。
県外での二酸化炭素(CO2)削減実績を「排出枠」として、工場では削減目標量の半分まで使うことができる(東京都は3分の1まで)ほか、東京都が認めていない森林吸収量を排出枠に認めるなど、目標の大きな企業でも達成しやすい仕掛けが準備されている。制度の対象とする温暖化ガスも「エネルギー起源CO2」に限定。工業プロセスでのCO2排出が半分以上を占めるセメント事業者の負担を大きく軽減している。
それでも、太平洋セメント側から聞かれるのは強い不満ばかりだ。生産部の担当者は「埼玉県内の工場だけがコスト増になるのであれば、県内の工場は閉鎖対象になってしまうかも知れない」、「二酸化炭素(CO2)排出コストで拠点が動く『炭素リーケージ』が起きるかも知れない」と県内撤退をも匂わせる強い調子で反意を示す。同社グループの工場が排出するエネルギー起源CO2は2008年度の実績で、県内で1位、2位、4位。新たな規制の導入は生産活動への制約に映る。
埼玉県の規制は義務ではない。「経済界との話し合いのなか、義務でないのであれば協力できるという話になった」(埼玉県環境部の山井毅主査)。それでも、太平洋セメントをはじめとする企業側が過敏に反応するのは、目標の達成状況が公表されるからだ。環境目標を守れなかったことが白日の下にさらされれば、環境活動に協力的でない企業であるとのレッテルを張られ、イメージが大きく損なわれてしまう。県側は「セメント、自動車、食品など県内の大企業は、義務でなくても結局は守らざるを得なくなるだろう」(山井主査)とみる。
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