日本の強みである中小企業群が持つ加工技術。海外とのコスト競争にさらされる中で、大きく付加価値を高めるべく技術開発を進めている企業がある。プレス加工の分野では、単純な形状の素材から、想像できないような形を造り出してしまう例が出てきた。長年の蓄積があって初めて可能になる加工だ。
板金トランスファプレスを得意としている富士金属(大阪府豊中市)は、細い角が薄板の容器からニョキッと突き出たような形状の加工を可能にしたことで注目を集めている(図1)。元が1枚の板だったところから十数工程の変形を経て深絞り加工をしたもの。角の根元には溶接やカシメといった継ぎ目がなく、あくまで一体の部品である。例えば燃料タンクなどに使うと、継ぎ目がないため内容物が漏れる心配をせずにすむ。
図2のように角の先端を折り返した上、タップでねじを切るような加工も可能。成形物をよく見ると、角や突起の根元の周囲には同心円状のうねりが見える。板金の平らな部分から角や突起に材料が流れ込んだことを示す痕跡だ。材料はSPCE(深絞り用冷間圧延鋼板)だが、ステンレス鋼やアルミニウム合金なども扱う。このような加工結果を公表したら、自動車以外にも、さまざまな製品を造る企業が見に来るようになったという。
冷間鍛造の技術を持つ丸武部品(静岡県磐田市)は、金属線材から複雑な形状を冷間鍛造で造る方法を開発した。例えば、自動車のドアのフックをボディー側で受ける金具(ドアストライカー)の形状を成形できる(図3)。現在基本的な技術開発を完了し、量産製品への適用可能性を探っているところだ。
元の形状は単なる線材。逆にほどくと1本の線になるので「一筆書き鍛造工法」と呼んでいる。富士金属同様、何工程ものプレスを繰り返して徐々に完成形状へ近づけていく。試作品を裏から見ると、線材がループして閉じたところなどに「一筆書き」の様子が隙間として見える(図4)。
隙間のところで強度が低くなるような気がするが、実は現行品と比べて必ずしも不利というわけではない。ドアストライカーの現行品は、板金などを打ち抜いて造った板状の部品に穴を開け、丸棒を「コ」の字形に曲げた部品を組み合わせ、カシメて造るのが一般的。だから過大な力がかかると、カシメが耐えられずに2個の部品に分解する恐れがある。一筆書き鍛造工法ではもともと1本の線材なので、ほどけるように変形することはあっても2個に分解する恐れはほとんどない。ただ、「既存のドアストライカーの形状に合わせて試作したが、工法にもっと合った別の形状にする手があるかもしれない」(丸武部品代表取締役の池間健二氏)という。
これらの加工は実用上の意味が十分ある。というより、実用上の意味を追求した結果として不思議な加工にたどり着いたという方が正確かもしれない。複数の部品が1個になるので、製造リードタイムが節約でき、コストを低減できる。部品の合わせ目がないということは、その部分の加工品質を保証したり、壊れる心配をしたりといった負担もなくなる。一筆書き鍛造工法の場合は材料の節約にもなる。板金を打ち抜く通常の加工法では、打ち抜いた部分の周囲がスクラップになってしまうが、新しい工法では捨てる部分がない。
両社が出展した「第13回ものづくりパートナーフォーラム2010」では、12月1日までの会期中、両社のブースはこれらのワークを見にきた技術者でにぎわった。見た目のおもしろさだけでなく実用性の高さも、完成品メーカーの技術者の興味を引き付けているようだ。
中小企業、プレス機、鍛造、ものづくりパートナーフォーラム
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